力を出せなかった。
「完敗ですね、完敗です」
敗れた横浜キヤノンイーグルスの田村優は、潔い。
「一発目で顔面パンチを食らって、みんな引いちゃったっていうところです。プレッシャー負けです。力の差があるってことですね、それは」
2月24日、東京・秩父宮ラグビー場。リーグワン再開後初戦にあたる第7節で後半ロスタイムまで無得点と苦しみ、7-27で敗れた。昨季の順位でふたつ下の5位にあたる東芝ブレイブルーパス東京に、旧トップリーグ時代の2008年度以来となる開幕7連勝を許した。
沢木敬介監督は言う。
「今週、本当にいい準備できたんですよ。ただ結果、こういうクソみたいなレベルの試合をして、がっかりしています。勝てないチームの雰囲気がめちゃくちゃ出ていた」
敗者はミスを連鎖させ、ファインプレーを連鎖させられなかった。
まずキックオフ早々。中盤左でのペナルティキックからSHの山菅一史が速攻も、きっかけでボールに足をつけていないという反則を取られた。本人はうなだれる。
「レフリーの見方(次第)なので、何とも言えないです。(必要な動作を)もっとはっきりやって、と言われて…」
相手にスクラムを与えると、単独で飛び出した防御役の背後を突かれ危機を迎える。ここでは粘って向こうの落球を誘うも、直後の蹴り合いでSOの田村が相手の伸びるキックを見送ってしまう。
これを、ブレイブルーパスの先制点の呼び水とした。
沢木監督はこうだ。
「皆がつながって、役割を遂行していくのがイーグルスのラグビー。誰かが勝手なことをしだすと全部、崩れる。あとは、ありえないミスがあったでしょう? そこは、メンタルの部分(が要因)。一流選手はそこが整っている。ここも含め、我々コーチングスタッフに責任がある」
0-7で迎えた14分には、好位置でのラインアウトをスティールされ逸機。0-12とされた直後の19分にこそ、LOのマックス・ダグラスが好位置でハードタックル。スクラムを得たが、その後の展開で仕留めきれなかった。
15点差を追う42分には、NO8のアマナキ・レレイ・マフィがジャッカル。レフリーの笛を引き出し反攻も、その結末はパスミスだった。
続く49分にも、CTBの梶村祐介が自陣での好守から楕円球を敵陣深くまで運んだものの、弾道を追っていたWTBの竹澤正祥がペナルティを犯した。
果たして後半ロスタイムまで無得点で、3敗目を喫した。山菅が自らの失敗を内省するなか、元主将の田村は仲間へ説いた。
「僕もミスをする。ひとりひとりが自立して、誰かの調子が悪い時は誰かが助けてあげることが必要」
かねて大駒が離脱中。指揮官は前を向きながらも警鐘を鳴らす。
「何かのきっかけで、(いい方向へ)変わると思うんですよ。別に僕は、けが人がいてどうだとかは思っていないし。ただ、どうしてもそっちに言い訳を作って逃げる奴も出てくる。そうなると、勝てない空気感が出る」
かたや27-7としたブレイブルーパスでは、トッド・ブラックアダー ヘッドコーチが「エフォートがよかった」と手応え。NO8のリーチ マイケルがふくらはぎを痛め33分に交替も、残ったFW陣が献身した。
FLのシャノン・フリゼルはミサイルのごとく刺さりまくり、LOのジェイコブ・ピアスは長身を折りたたんで地上の球に絡んだ。イーグルスの目指す素早い球出しを防いだ。
「本当はゲインラインをしっかり取って(走者が前に出て)、クイックボールを出すようなブレイクダウンを作りたかった。ひとり(援護役)がひとり(防御)をはがしていかなきゃいけなかったけど、それができなかった」
敗れたHOの中村駿太がこう述べるかたわら、勝ったHOの原田衛副将はこの調子だ。
「個々のキャリー(突進役)が強いイーグルスさんのアタックに対し、ファーストタックルで負けない。そのようにできたから、2人目のタックルも楽に入れたと思います」
特に光ったのはLOのワーナー・ディアンズ。味方がタッチライン際のスペースを破られるたび、その地点へ一目散に駆け戻った。
33分頃には自陣深い位置でランナーをつかみ上げ、リズムを鈍らせながら別な味方の好タックルをアシストした。
「自分の仕事です。相手にプレッシャーをかける。その意識は持っていて。ワークレート(仕事量)は、頑張って上げようと思っていた。『メンタル的に疲れていても、やらないといけない!』という感じで」
22-0としていた63分には、トライラインを背にモールを止めた。球を持つ人と支える人の間へ、肩を差し込んでいた。
この流れに乗って美技を重ねたのはSOのリッチー・モウンガ。デザインされた攻めの枠組みを機能させ、「イーグルスが防御のラインスピードを上げてくるのはわかっていた。その画に則って準備をしてきた。(スコアは)その賜物です」と残した。