観客を楽しませるには努力を惜しまない。
オーストラリアはブリスベンから2020年に来日のアイザック・ルーカスは、リコーブラックラムズ東京屈指のファンタジスタとしてラン、パス、キックで魅する。
2022年度のリーグワン元年には、ベストフィフティーンを受賞。加入4シーズン目の今季も、開幕から一時中断までの6試合で最後尾のFB、司令塔のSOとしてフル出場している。
直近のゲームでも美技を重ねる。1月27日、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場。中盤左でパスダミーを繰り出しながら目の前のタックラーをかわしたのは、前半11分頃のことだ。
そのままオフロードパスをつなぎ、大きく前進させるや次の展開時にもボールタッチ。タックラーを引き付けながら、右大外へつないだ。12分、WTBのシオペ・タヴォの先制トライを演出した。
チームは昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイを相手に、粘りの防御、ルーカスらのスピード感あるアタックを披露。17-18と追い込んだ。
しかし、2勝目はならなかった。通算1勝5敗でレギュラーシーズン再開を迎え、25日、駒沢へ勝率5割のコベルコ神戸スティーラーズを迎える。
「ワークレート(仕事量)にはプライドを持っているが、それを次のレベルに持っていきたい。ポジティブなインパクトを与えたい。たくさんボールを触るのも大事だが、いつボールを触りにいくか(を考える)。経験を通し、改善したいです」
殊勲の騎士が語ったのは開幕前。自らの伸びしろをこのように分析し、シーズン前の準備にも言及した。
「したことはコンディショニングです。スピード系トレーニングに加え、体脂肪率を減らす試みをしました」
身長179センチ、体重84キロの身体は一線級の舞台にあって引き締まっているが、さらに無駄をそぎ落とすのを意識。いまいる市場を生き抜くためだ。
「僕の人生で脂肪が多くて困ったことはないけれど、試合でチームにインパクトを示すにはその取り組みが重要だったんです。僕がラグビーをするうえでベースとなるのはワークレート、フィットネスが高いことなので。特に『これは食べない』という方法はとっていません。ただ、練習がある日、ない日に何をどれだけ食べるかは意識しました。練習がない日は炭水化物の摂取量を制限し、たんぱく質を摂るように」
エネルギー源となる炭水化物は、過剰に腹へ入れると中性脂肪がたまりやすくなると指摘されている。この国にはラーメン、うどん、カレーライスとおいしい炭水化物がたくさんあるなか、金髪の戦士は「ムズカシイ!」というオフ日の自制を断行している。
「ブラックラムズでは、ラッキーなことに寮で食事を出してもらっています。ランチ、ディナーには考えられたメニューが提供されている。かなりの頻度でお世話になっています。食事を作ってもらった皆さんに感謝しかないです」
待たれるのは日本代表入りだ。プレシーズンの前には故郷へ戻ったが、その期間は「45日くらい」。海外で代表資格を得るために必要な継続居住期間は丸5年だ。国際統括団体のワールドラグビーにそれを認められるかは、一時帰国した日数次第との側面がある。
25歳のこの人がブリスベンへの滞在を限定的にしているのは、やはり、2025年以降に赤と白のジャージィを着たいからなのか…。周りの選手は、ルーカス自身からその思いを感じ取っているという。
そもそも2027年のワールドカップはオーストラリアで開かれるため、自らも「自分の出身国がワールドカップをホストすることへわくわくしています。個人的に改善点があるとは思いつつ、僕の願望としてはインターナショナルレベルでプレーしたい気持ちがあります」としている。
ただし、具体的な問いには慎重な構えだ。
「キレイごとに聞こえるかもしれませんが…」と切り出して言う。
「…僕はいま、目の前にあること、自分の足が立っているこの場所にフォーカスしています。シーズンが終わったら自分がどういう状況かを評価し、どうしたいかを考えます」
大志を口に出すよりも、身体によいものを口にする。