通勤電車でこの人と乗り合わせたら、すぐにラグビーマンと分かるだろう。
167センチ、97キロ。首が体にめり込んでいる。
フロントローと想像がつく。
ただ、その風貌からは覇権を争う現役プレーヤーとは思われないかもしれない。
51歳。岩下剛史(つよし)は、神奈川タマリバに所属し、PRとしてプレーしている。
2月18日に熊谷ラグビー場でおこなわれた全国クラブ大会決勝、ハーキュリーズ(東京)との試合にも先発した。
試合には16-28で敗れた。
しかし先発の平均年齢が36.6歳のタマリバが、平均27.2歳と若いハーキュリーズに終盤まで食らいついた。
先行し、タックル、タックル、タックル。ブレイクダウンで一歩も引かなかった。
3月には52歳になる岩下も、後半16分まで働き続けた。
スクラム。そして、ラックへの突っ込み。前半には40メートル近く独走。パスダミーで相手を抜き、インゴールに届くシーンもあった。
ただ、グラウンディングはならずノートライに。
「あそこはトライにしなければいけなかったし、少なくとも、あとにつなげないといけなかった。後半、ブレイクダウンでスイープが甘くターンオーバーを許し、トライされるきっかけになったプレーもありました」
本人の口からは反省の弁しか出なかった。
しかし、チームの気迫とパフォーマンスは観る者の琴線に触れた。岩下のプレーも、年齢を知る人たちに勇気を与えた。
高校(早大学院)でラグビーを始めた。早大時代は公式戦への出場はなかった。
赤黒ジャージーを始めて着たのは卒業後、2007年のオール早慶戦のメンバーに選ばれた時だった。
タマリバには創部した2000年から在籍している。
長くプレーを続けている理由を、「ぶっちゃけ、他にやることがない」ととぼけた後、言葉を続けた。
「この集団が、こいつらとラグビーをやるのが好きです。みんなラグビーが生活の一部になっている。そのぶん高齢化も進んでいますが、これ以上の仲間はいません」
そうはいっても50歳を超えて、チャンピオンシップの舞台で戦い続けられる理由が他にあるはずだ。
チームとしては、相手より頭を使って戦っていると話し、全員に染み込んでいるカルチャーがあることも強みとした。
「タマリバには文化があります。いつも、相手に嫌な景色を見せようと言っています。タックルしても、何度でもすぐに起き上がり、常にたくさん人が立っていたら、相手もゾッとするでしょう」
個人に目を向ければ、継続こそがラグビー選手としての長寿の秘訣と言う。
「よく(年齢のことを)聞かれますが、練習を続けていれば誰でもやれますよ。ブランクを作らずやってきました」
ラグビーと距離を置くことなく、毎年、毎年、シーズンを重ねたら、ラグビープレーヤーであり続ける自分がいた。
シンプル。そして、それはこれからも続く。
スクラムは経験だけでは組んでいない。「理論や組み方は(刻々と)変わっているのでアップデートしています」と言う。
ラグビー自体、若い頃と今では大きく変化した。しかしノスタルジーにひたることなく、現代ラグビーへの対応を楽しむ。
「大学時代にやっていたラグビーは、接点へのこだわりはあまりなく、走ってばかりだったような気がします。僕は、ぶつかり合うのが好きなので、むしろ、いまのラグビーの方が合っています。どのチームもそこに力を入れていておもしろい」
何歳まで続けますか?
そんな質問は必要なさそうだった。