愛すべきラグビーのカルチャーだ。
その日、背番号11は選手たちの先頭に立ち、キャプテンより先にピッチに出た。
2月17日、江見翔太のサンゴリアスキャップが50に達した。
リーグワンや前身のトップリーグ、日本選手権など、同チームでの公式戦の合計出場数だ。
節目の試合で戦ったのは埼玉パナソニックワイルドナイツ。
首位を走る相手との一戦で先発の座を任された。32歳になったいまも、高いパフォーマンスを維持していることの証明だった。
高ぶる気持ちでキックオフを迎えた。
「(それは)最初のプレーを見てもらっても分かったと思います」
FBチェスリン・コルビがワイルドナイツの22メートルライン付近、左サイドに蹴り込んだボールを追った江見は、レシーバーに突き刺さった。
しかし80分後、スコアボードに刻まれたのは20-24。
ハーフタイム直後の時間帯を支配し、一度は逆転したものの青いジャージーの懐は深かった。
江見自身、試合を通してフリーでボールを持たせてもらえることはなかった。
「(勝利という)結果がついてこず残念」と無念さを滲ませた。
それでも好機に絡み、チャンスメイクをする役を託されるシーンがあった。接点での強さは、チームから信頼を得ている点でもある。
試合後は、「10年目で50キャップ。遅い方ですよね」と言って続けた。
「でも、自分の経歴から考えると、ここまでやれるとは思っていませんでした」
2014年度入社。現在は横浜支社で働いている。
重ねてきたシーズンを、「めちゃくちゃ長かったですね」と振り返る。
トップリーグ最終年のパナソニック戦(決勝)で左膝の前十字靭帯を断裂した。
リハビリに長い時間を要し、リーグワン元年は全休。昨季開幕戦で復帰するも調子は上がらず、出場はその試合だけに終わった。
「長かった」の言葉には、いい時間ばかりではなかった日々への思いが込められていた。
今季は若手だけの合宿にも自ら参加し、コンディションを高めてきた。年齢を重ね、「失うものはない。若手と切磋琢磨しました」という。
結果、「これまででいちばん良い状態、と言っていいぐらい」になった。
「スピードのある若手が何人もいます。その中で、他のWTBと違うところで勝負していかないといけない。フィジカルの強さは評価されている点だと思うので、そこにはこだわっています」
父の海外駐在で、インドネシアのジャカルタ生まれ。シドニーに暮らしたこともある。
学習院高等科、学習院大学出身と、他と違う経歴を持つ。
現在に続く道の出発点は幸運だった。
大学1年時、セブンズ日本代表の練習相手となったクラブチームにたまたま加わった際、パフォーマンスを評価された。
セブンズ、U20代表に選ばれて経験を積む。
上級生となり、関東大学対抗戦Bでは無双の活躍。サンゴリアスへ加わることができた。
あらためて、本人の口から「反骨心」、「ハングリー精神」の言葉が出た。
「その気持ちがなかったらやってこられなかった」
「(経歴から)舐められます。下に見られます。学習院でもそんなことできんの、と思われないと拾われません(周囲から気にとめられない)。同期の(中村)亮土、垣永(真之介)は、大学選手権決勝で戦った両キャプテンですから」
その同期、CTB中村とPR垣永と一緒に、50キャップ到達試合で先発できたことが嬉しかった。
「3人揃ってピッチに立っていること自体以外と少なくて、本当に久しぶりのことでした」
実際、スタメンに3人の名前が記されたのはトップリーグ時代、2017年12月17日の神戸製鋼戦以来のことだった。
「(次は)まずは51キャップ目」
前述の代表経験や2017年のサンウルブズでの8試合出場など、自身の力で様々な扉を開けてきた人生は続く。
学習院大の後輩で、セブンズ・デベロップメント・スコッドに呼ばれている荻田直弥(3年)に「ごりごりいけ」とアドバイスしたそうだ。
反骨心の生むパワーの大きさを、この人は知っている。