ラグビーリパブリック

クロスボーダーラグビー2024を支えた若者たち。

2024.02.21

左から、孫順愛さん、奥津美和子さん、劉玉哲さん、関文子さん



 スポーツイベントのバックヤードには、ファンからは見えない人たちが大勢いる。
 楽しみと感動を届けるプレーヤーの陰で、しなやかな舞台を支える。

 国際イベントとなれば、その存在はさらに数が増える。文化の違う海外からやって来た人たちのリクエストに応えるマンパワーが必要となる。

 クロスボーダーラグビー2024もそうだった(2月3日、4日、10日に4試合開催)。
 ニュージーランドからやって来たスーパーラグビー・パシフィックの強豪、ブルーズとチーフスが、リーグワンの昨季トップ4と戦った。

 同シリーズで、メディア対応スタッフやチームリエゾンを務めた人たちの中に若者たちがいた。
 日本外国語専門学校(東京・高田馬場)に学ぶ学生たちだ。

 リーグワンが同校の小島毅士先生を通じてインターンとしてのサポートメンバーを募った。
 その結果、手を挙げた男女6人がラグビーの現場でそれぞれの力を発揮した。

 海外メディアの来場を想定し、メディア対応サポートとして配置されたのは4人。関文子さん、劉玉哲さん、奥津美和子さん、孫順愛さんが、メディア受付や取材ルールの説明や案内を任された。
 それぞれ、国際ホテル科国際ブライダル専攻、英語通訳翻訳科、海外留学科、国際ホテル科国際ホテル専攻に学んでいる。

 スポーツ経験や観戦歴がある者はいても、4人の中に、本人や家族にラグビーと縁のある存在はなかった。
 しかし今回ラグビーを身近に感じ、全員がその魅力を強く感じた。

 鍛えられた肉体同士のぶつかり合いは、これまでに見たことのないような迫力だった。
 試合のスピード感やスタジアムの雰囲気に引き込まれた。

 そして自分たちが任された持ち場には、多くの学びがあった。
 運営のリーダー的存在であるリーグワンスタッフの旗振りのもと、各領域のエキスパートが任務を遂行する。結果、試合前日のメディアデーも試合当日も、多くの報道陣の取材活動がスムーズにおこなわれた。
 その中に身を置いて多くの気づきがあった。

 日本外国語専門学校の各コースは2年制が多い。今回のインターン4人のほとんどは1年生。2025年春の卒業に向け、就活のことを考え始めている。

 そんな時期の貴重な経験に、「プロのスタッフのお仕事を目の当たりにして、将来の選択肢が増えました」という声が聞こえてきた。

 記者会見時の通訳を聞き、自分の頭に浮かんだものとの違いを知り、学んだ。会見場のあの雰囲気の中で、普段授業で教わっていることを発揮できるだろうか。

 孫さんは、「チームを組んで、みんなで大きな仕事をやり遂げる難しさと楽しさを知りました。各々が責任感を果たしてこそ、と。その一部を社会に出る前に経験できてよかったです」と話した。

 丸金丈さん、そしてキンバリー・フーン ・フウィーイー(フーンが姓/Kimberly Hoon Hwey-yi)さんの両者は、チームリエゾンとして、それぞれチーフス、ブルーズとともに行動した。
 それぞれ英語本科上級英語専攻、英語通訳翻訳科英語翻訳専攻の1年生だ。

 丸金さんはラグビーマン。3歳のときに市川ラグビー少年団に入り、東京学館浦安高校でもプレーした(ポジションはPR、LO)。
 高校卒業後はニュージーランドに渡った。

気さくだったチーフスの選手たちと丸金丈さん

 ウェリントンの語学学校とヴィクトリア大学に2年半学んだ。しかしコロナ禍と重なり、思い描いていたような日々とはならず。
 そんな背景もあり、今回のインターンの機会に心が躍った。

 チームの来日中の日常が快適となるようなサポートをするのが、主な仕事だった。
 ともにチームサポートにあたった先輩リエゾンが、自分の気づかない点に心配りすることが多々あった。
 自ら、先に動くことの大切さをあらためて知った。

「一流の選手たちは、僕らに対しても気さくでした。チームスタッフも紳士的。自分が好きな世界の、トップレベルと関わる、特別な仕事をしている感覚を受けました」

 ブルーズのリエゾンを務めたフーンさんはマレーシア出身。オーストラリアの大学で会計学、マネジメントを3年間学んだ後、来日した。
 母国での中学時代、『名探偵コナン』のアニメを見て日本語の発音の美しさに惹かれた。

 ラグビーの現場を経験したのは今回が初めてだ。授業でスポーツ通訳の科目も取っている。
 チームと運営側のコミュニケーションが円滑に進むように尽力する中で感じたのは、対応にスピード感が求められていることだった。

 経験したことのない世界を知り、いい刺激を得た。「視野が広がりました」と笑顔になった。
 マレー語、英語、日本語と中国語を話せる。人生の未来図に、新たな選択肢が加わったかもしれない。

 ブルーズと過ごした12日間を終える日の数日前、空港での見送り時を想像して「寂しくなります」と言った。
 ラグビーファンが、また増えた。

4つの言語を話すことができるフーンさん(右)

 日本外国語専門学校の窓口となった小島先生は、自身もブルーズのリエゾンを務めた。
 大会前の綿密な準備からリーグワンのスタッフと話し、大会終了後、選手たちを空港から送り出すまでブルーズと時間を共にした。

「選手そしてチームスタッフ全員が満足そうに日本を過ごし、笑顔で帰路につかれた光景は、私にとって何よりも充実した瞬間でした」

 そう話す先生は、若者たちの姿にも目を細めた。
「学生たちも同様の感動と達成感を抱いて、学校に戻ってきてくれました。座学では得られない、スポーツ現場での実践的な学びを得られたことを大変嬉しく思います。彼らの今後の成長に期待しています」


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