ピッチに響く、いつもの雄叫びは聞こえなかった。
「死ぬほどきつかったので」
そう顔をしかめながらも、久しぶりの試合は楽しかった。
右のギョーザ耳には出血があった。
東京サントリーサンゴリアスの32歳、PRの垣永真之介が、2月17日に熊谷でおこなわれた埼玉パナソニックワイルドナイツ戦に先発した。
開幕から7戦目にして今季初出場。後半8分までピッチに立った。
試合後の第一声は「めちゃくちゃ悔しいですね」だった。
20-24の敗戦。
10-13と前半はリードされるも、後半の立ち上がりは攻勢に出た。自身がピッチを出るときには20-13とスコアをひっくり返していた。
しかし、最後の20分で逆転されてしまう。その時間帯、自分たちにも好機が訪れたのに、ものにしたのは相手だった。
「仕留め切るとか、ペナルティとか、細かいところの差が出ました」
勝負の時間帯の脆さも修正しなければいけない。
「ひとつのプレーが明暗を分けるとあらためて実感した試合」も、張り詰めた空気はアスリートにしか味わえないものだ。
「ワイルドナイツとの試合は、いつも本当にきついが、やっぱり楽しい」と笑顔を見せ、「あとは結果だけ」と付け加えた。
今季ここまでピッチに立てなかったのは、昨秋のワールドカップ(以下、W杯)後、体のメンテナンスをしたからだ。
痛めていた腰の手術を11月初旬受け、リハビリに励んだ。
復帰プランは、計画通りに進んだ。
自分がプログラムに真摯に取り組んだ結果でもあるが、全力でサポートしてくれたチームスタッフに感謝する。
外から仲間の試合を見つめた数か月は、自分を見つめ直す時間にもなった。年齢も重ね、若いころ描いていた理想の自分のイメージとは合致しないところも出てきている。
「ただ、スクラム、ブレイクダウン、ボールキャリーと、自分ができることが明確になってきました」と話す。
ワイルドナイツ戦、スクラムは互いにやりあった。
相手の1番、2番のクレイグ・ミラー、坂手淳史主将は、昨秋のW杯で、ともに日本代表として戦った仲間だ。
となりに立つHOの堀越康介主将とともに勝負に出た。
「(W杯前の合宿から数えれば)100日以上一緒に過ごしたので(ミラー、坂手は)身内のようなものです。お互いに知り尽くしているし、相手の嫌がることが分かっているので、うまくいかないだろうな、とは思っていました」
「前半の最後に少し揉めた」といたずらっぽく笑った。
2023年の9月、10月に開催されたW杯は、垣永にとって、31歳で初めてたどりついた憧れの場所だった。
2015年大会は大会の直前合宿までチームの中にいるも、最終的にはバックアップメンバーとしての選出に終わる。
2019年大会も逃した。
目指す舞台に立つまでの過程の中で、思うようにスクラムを組めなかった時期もある。
しかし這い上がった。
2023年大会では結果的に、試合出場はならなかった。「柱メンバー」と呼ばれる、チームをサポートする役を全うした。
対戦相手のPRになり切った日々は、出場メンバーが世界を押したことで報われた。
大会後、「世界に本気で勝とうとするチームに携われて達成感があります」と話した。
大会2戦目のイングランド戦では、キックオフ48時間前に「3番、具智元」と発表されたが、コンディションが怪しかったため、試合直前まで「垣永先発」もあった。
第3戦のサモア戦も同様の状況で、ジャージーを着る可能性は試合直前まで残っていた。
それらの事実も、達成感を得たひとつの理由だろう。
2019年W杯以降の日本代表は、2023年大会のスコッドを決めるまでに16テストマッチを戦った。
その中で垣永が出場したのは3試合だけ。つまり、サンゴリアスでのパフォーマンスを評価されての選出。それが誇らしい。
チーム内競争のレベルの高さが、いつも自分を支えてくれていることは、いまも変わらない。
だから2014年度入団のベテランは、今シーズンの残る日々も、チームファーストを貫く。
「サンゴリアスで一回でも多く優勝したいので、できるだけチームに関わり、貢献したいですね」