澄み切った青空にラガール220名の声援と笑顔がはじけた。
「女子ラグビーにおける普及・育成のためにこのフェスティバルは継続していきます。数少ない女子だけの試合を行う機会をこれからも増やしていきたい。とにかく楽しいフェスティバルを提供していくことが大事」
横河武蔵野スポーツクラブ育成・普及担当兼アルテミスターズユース須賀ヘッドコーチ(HC)が笑う。
1月27日、第3回むさしのガールズラグビーフェスティバルが開催された。東京武蔵野市の横河電機グラウンドに集まったラガールは、前回を70名上回る220名。東京女子合同練習会、神奈川プリンセス、千葉フロッグスを中心に、19チームを編成して交流戦をおこなった。
今回、最も遠方では岩手県の盛岡RSからの参加もあった。関東近県のラグビーフェスティバルに積極的に参加している彼女たちの友情の輪はますます広がっている。
このイベントでは、横河武蔵野アルテミ・スターズと下部組織である同ユース(U18)・同Jr.アカデミー(U15)から総勢50名の選手・スタッフが運営に携わった。U10、U12の各チームにはアルテミ・スターズの現役選手がイベント最後まで参加し、ラガールへのアドバイスやコーチングなどのサポートをおこなった。
また、初めての取り組みとして、試合の合間に、現役日本代表を中心としたラグビークリニックも並行して開催した。参加者は、憧れの選手達と不慣れな練習内容に緊張の面持ち。時間とともに笑顔で溢れるセッションとなっていった。
須賀HCは感謝の気持ちでいっぱいだ。
「2019年ワールドカップ以降は、競技人口が増えた矢先にコロナ禍で活動休止に。こうした状況でも年々女子選手が増えているのは、スクール関係者の方々の普及・育成活動の賜物です」
このイベントは事務局だけで続けてこられた者ではない、という。
「コロナ禍で2度の中止を経験しました。多くの方々の支援や協力があって、実質の第3回目を迎えることができました。関係者とのコミュニケーションを大事にしながら、謙虚に着実に継続の道を歩んでいきたい」
今回もオフィシャルスポンサー武蔵境自動車教習所や、クラブで交流のある東京学芸大学ラグビー部からの支援を受けることができた。後援には、武蔵野市、同市教育委員会も名を連ねる。
「小中学生のラガール達に、このフェスティバルを通じて、『横河武蔵野アルテミ・スターズ』というラグビーを続けていける環境を示すことができた」(須賀HC)
「とにかく楽しくラグビーを続けていく環境を提供したい。将来的には、引退した選手がクラブ運営に携わり、後進の育成・サポートを行っていく環境も整備していきたい」
須賀HC自身、ユースHCを兼務している。中学生を対象としたアトラスターズおよびアルテミ・スターズJr.アカデミーや、小学生クラスなど、ラグビーアカデミーの統括を務める。
そもそもは、アルテミ・スターズ発足時にコーチとしてチームに携わった須賀氏。「女子ラグビーの普及・育成」の観点から、2020年にアルテミ・スターズアカデミーを設立した。
先の見えないコロナ禍での船出は、クラブ幹部からの反対もあった。佐藤幸士ラグビー部門長とともに仕掛けた「価値あるチャレンジ」となった。
心配をよそに、発足当初から年々入会する女子選手は増えている。また、クラブの方針として、他競技からの転向者やラグビー未経験者などを積極的に受け入れるほか、海外から日本に短期滞在中の外国籍の選手に練習の場を提供するなど、多様性を大事にしている。
フェスティバルのU10・U12の開幕戦では、ユースOG(大学2年生)と現役ユース選手(高校3年生)の2名(神奈川県協会所属)がそれぞれ笛を吹いた。トップチームの牧野円レフリーのもと、選手だけではなく女子レフリーの育成にも力を注ぐ。
小学生向けの英語クラスの設立や海外留学を目指すユース選手の後押し、Jr.アカデミーからはU15女子チーム「JAPAN RUGBY ACADEMY」のメンバーを輩出するなど、グローバル化にも余念がない。このフェスティバルを機にJr.アカデミーのチーム活動を本格的にスタートするための準備も着々と進んでいる。
須賀ヘッドコーチは言う。「女子には女子の世界がある」
横河武蔵野アルテミ・スターズのGMに田中彩子が起用されたのも、クラブ文化を形成する意欲の表れだ。
今回のクリニックでも先頭に立ってラガールと交流、田中GMが現役時代にクリニックで交流したラガール達も大きく成長し、いまではアルテミ・スターズの選手として複数名在籍している。 昨年のフェスティバルで日本代表経験者の村上愛梨選手から手厚いサポートを受けたことをきっかけにJr.アカデミーへ入会したラガールいる。今回のU14交流試合では藤戸HC指導のもと、憧れのアルテミ・スターズのジャージをまとい、記念すべき初トライをあげた。「楕円」の縁が繋ぐエピソードであるが、全国各地のガールズラグビーフェスティバルでこのような世代をつなぐ物語が生まれるのであれば、普及・育成活動には大きな意義がある。
フェスティバルの閉会式では、各チームから優秀選手が発表され、チーム帯同のアルテミ・スターズの選手から記念品が手渡された。クラブとしても試合の機会を増やしジュニア世代の交流を促進させることにも余念はない。むさしのガールズラグビーフェスティバルでは、関東では老舗の熊谷、千葉、海老名に追いつくようなイベントに成長できるよう、これからも努力を重ねていくことを誓う。
昨年4月に『女子ラグビー中長期戦略計画』を発表した日本協会・香川理事(Director of Women’s Rugby)もグラウンドへ駆けつけた。ラガール達の真剣な眼差し、最後まで諦めずにボールを追いかける姿を目の当たりにして、ジュニア世代の普及・育成活動の着実な成果を心強く思ったのではないか。
『JAPAN RUGBY 2050』に掲げた2037年以降の女子ラグビーワールドカップ招致活動に期待したい。そして、今回のフェスティバルに参加した世代が桜のエンブレムを胸に活躍する姿を楽しみにしたい。
みんなで描く女子ラグビーの輝かしい未来へ。ラガール達が歩みを進めている。