異国の地での思い出は、どうしていつまでも色濃いままなのだろう。
ブルーズ(スーパーラグビー・パシフィック)に所属するWTBケイレブ・クラークも、例外ではない。
日本を第2の母国と言う。
ブルーズは、ザ・クロスボーダーラグビーの第2戦、横浜キヤノンイーグルス戦を2月10日に戦った(ニッパツ三ツ沢)。
2月3日の東京サントリーサンゴリアス戦には43-7と快勝した。
イーグルスにも57-22と勝利し、チームはモメンタムを得てシーズン開幕を迎えることができそうだ。
チームを率いるヴァーン・コッター ヘッドコーチ(以下、HC)も、「若い選手たちが2試合で経験を積むことができてよかった」と笑顔だった。
イーグルス戦には、初戦には出場しなかったクラークが出場した。
今回の試合が、昨秋のワールドカップ(以下、W杯)以来の実戦だった。
フランスでおこなわれた同大会では2試合だけの出場だった。オールブラックスは、新しくスコット・ロバートソンHCを迎え、新体制で再スタートを切る。
これまで代表に選ばれていた選手たちも、あらためて信頼を得る必要がある。
ブルーズも、今季がコッターHC体制1年目。クラークにとっては、こちらでも新指揮官に力を示したい一戦だった。
そんな状況の中で背番号11は3トライを挙げてみせた。
前半14分には先制トライ。同35分のものは、キックパスに対して飛び込んだ。インゴールの端ぎりぎりで受けた。
後半最初の得点も、この人だった。
コッターHCは「オフシーズンにハードなトレーニングを積んでさらにスキルを高め、体も絞ってきた結果。そして試合中も、ハードワークをすれば結果を出せるというお手本を見せてくれた」と好ランナーを称えた。
試合前日クラークは、前週のチームの勝利を外から見つめた感想を「持っているスキルを出して勝った試合」と話し、仲間のパフォーマンスを評価した。
イーグルス戦には、「(チームが作った)土台の上にさらに積み上げていくようなプレーをしたい」と言って臨んだ。
W杯を終えた後、クラークはラグビー・リーグ(13人制)の強豪のひとつであるサウスシドニー・ラビトスの練習に加わり、新シーズンへの準備を進めた。
W杯をはじめ、満足いく実績を残せなかった2023年を振り返り、さらなる成長が不可欠と考えた。
「ブルーズでのプレーも7シーズン目。これまでと同じことをしていてはダメだと思ったので、ラビトスの中に身を置くことにしたんです」
体作りの意識が高まりシャープな体躯となったことは、姿を見ても分かる。
スキル面も磨かれた。本人は、この日の2本目のトライを振り返り、「キックをキャッチしたのは、まさにラビトスで汗を流した成果」と話した。
他のオールブラックス選手たちが、(NZ協会の規定により)なかなかプレシーズンマッチでプレーしない中、クラークは、この日の出場をHCに志願してピッチに立った(後半23分まで)。
「3つとも、周囲がいいプレーをしてくれたから取れたトライ」と仲間のプレーに感謝するも、巻き返しを図るシーズンの最初に好結果を残し、気持ちよさそうだった。
父・エロニさんもオールブラックスのキャップ10を持つ。日本のリコー(現・リコーブラックラムズ東京)でもプレーした名選手だった。
ケイレブ自身も3歳から日本で暮らし、7歳のときにニュージーランドに戻った。
今回のツアー中、少年時代の記憶をたどり、暮らしていた二子玉川へ足を運んだ。
「水曜日(2月7日)、子どもの頃に住んでいたあたりを歩きました。近所の友だちと遊んでいた場所や道が、記憶のままでした。家の色も同じでした。置いていたゴミこそなくなっていましたが、本当に懐かしかった」と愉快そうに話した。
昔に戻った時間。思い出の道を歩きながら家族に電話をかけ、動画を見せながらブラックラムズのグラウンドまで歩いた。
「父も喜んでくれて、懐かしいな、恋しいなって言っていました」
いつか日本でプレーしたいと言った。
まだ24歳。オールブラックスとして、まだまだキャップも重ねたい。ラグビー・リーグにも興味がある。たくさんの夢を持って生きている。