開幕前が勝負だった。
田畑凌。横浜キヤノンイーグルスに入部4季目で昨季公式戦デビューの27歳は、今季の国内リーグワン1部のスタートを12月中旬に控えて決意を固めていた。
持ち場となるCTBのポジション争いで爪痕を残すために、事前のゲームでアピールすると。
「僕みたいな存在は、プレシーズンでどれだけやれるかが重要でした」
全体練習後の個人トレーニングを習慣化し、パス、キック、タックルを圧力下で繰り出せるよう磨いた。ターゲットの「プレシーズン」でチームの攻めを首尾よく動かした。すると、初陣から中断前までの6戦中3試合に出場。昨季以前からのレギュラー陣が故障などで抜けるたび、その穴を埋めた。
「いままでで一番いいプレシーズンを過ごせたことが、いま(シーズン中)につながっています」
身長177センチ、体重93キロ。西宮ラグビー少年団、報徳学園高、京産大を経て2019年度にイーグルスの門を叩き、翌20年に転機を迎えた。
日本代表のコーチングコーディネーターも務めた沢木敬介現監督の就任を受け、「スペースがあったらすぐ攻める、動きながら蹴るラグビーに変わった。自分のスキルはもっと高くないといけない」。課された練習量は学生時代もひけを取らなかったというが、その質が圧巻だったという。
「頭を使う部分での厳しさがあった。『なんでここにスペースがあるのに行かないの?』という。それが刺激になり、成長につながりました」
指揮官の叱咤激励に食らいついた。日々、進化を実感できたからだ。
毎年オフには、国内外の実力者が移籍してくる。そのひとりは梶村祐介。日本代表経験者のCTBで、2021年度に東京サントリーサンゴリアスから加わり翌年度から主将となった。
田畑は「自分のスキルにフォーカスしていた。ラグビーの能力が上がっている実感があって、もっと努力したいと思えていた。だから、誰か入ったから…とは考えなかった」。己にベクトルを向けた流れで、いまの立場をつかんだ。
進行中の戦いのさなか、もともと正アウトサイドCTBだったジェシー・クリエルがけがで離脱。現役南アフリカ代表でもある通称ジェシーの定位置はいま、田畑に託される。当の本人は意気に感じる。
「いまのリーグワンではCTBに日本人1人、外国出身者1人を並べるチームが多い。そんななか敬介さんにはチャレンジ(精神)、覚悟のもと日本人2人を選んでもらっている。最大のパフォーマンスで返したいです。コネクションを持って、『イーグルスがうまくボールをつないでいるな』と見えるラグビーを目指さなきゃいけない」
2月10日、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場。前年度3位のイーグルスは、新設のクロスボーダーラグビー2024の一戦へ臨む。対するニュージーランドのブルーズがCTBに180センチ超の大型選手を並べるなか、赤き13番は言う。
「イーグルスの価値を示すいい機会。スピードをつけて低い姿勢で仕掛けていって、先手、先手を取ってゆく。そのなかでキックも使ってスペースにボールを運び、相手のスタミナを削ってゆく…。リーグワンがなめられてはいけない。有名な選手が来て盛り上がろうとしているなか、『やっぱり、向こう(強豪国)とは差があるんだね』となってしまうのは悔しいことです。今回はワイルドナイツがリーグワンのスタンダードを示してくれた。今度は僕たちが日本のラグビーを代表して戦う」
その言葉通り、埼玉パナソニックワイルドナイツは4日にチーフスを38-14で破った。本拠地の熊谷ラグビー場で、所属する各国代表勢が一枚岩となっていた。
今度のイーグルスは現状のベストメンバーを編むも、クリエルのほか南アフリカ代表SHのファフ・デクラークら複数の猛者をけがで欠いている。いわば、組織力を示す絶好機にも映る。改めて、現場は「なめられてはいけない」の心意気だ。