いつも通りに、自分たちのスタンダードを見せよう。
坂手淳史キャプテンは仲間たちにそう言って、チームの先頭に立った。
冒頭の言葉は、ワイルドナイツにとって「勝つぞ」と同義語だ。
2月4日、熊谷でチーフスと『クロスボーダーラグビー』を戦って同チームは38-14と完勝した。
昨季スーパーラグビー・パシフィックのファイナリストとなった強豪と戦うにあたり、ワイルドナイツは、簡単ではない準備期間を過ごした。
公式戦であるリーグワンの真最中に組まれた(実質)エキシビションマッチだ。主将も「メンタル的に難しかった」と試合後に話した。
ロビー・ディーンズ監督も開催時期や、それぞれのチームにかかる負荷の違い、戦う舞台の価値の高め方やプロセスについて、意見を口にした。
相手にとっては公式戦前のプレシーズンマッチ。
それでも戦いに挑むリーグワンチーム選手たちは、日本ラグビーの誇りを背負って勝利をつかみ取ろうと体を張る。
その姿勢に対し、リスペクトしなければならない。
スーパーラグビーとリーグワンを勝ち抜いたチーム同士で戦う舞台を作ることを考え、実現に向けて進んでほしい。
ワイルドナイツは、勝つことでその思いの強さをあらためて示した。
▼動き続け、圧力かける。トライも。
前半に14-0とリードし、最終的に5トライを奪った。
現役オールブラックスの姿がない布陣とはいえ、チーフスを2トライに抑える内容は完勝だった。
選手たち一人ひとりが、いつも通りに自分の責任を果たした結果だった。
後半22分にベンチに退くまで全力で動き続けたSH小山大輝も、高いパフォーマンスを見せて勝利に貢献した。
青いジャージーの9番は、何度も弾丸となって飛び出し、相手キッカーにプレッシャーをかけた。
7-0だった前半22分には自らインゴールのボールを押さえて5点を追加し、チームを勢いづけた。
そのトライは冷静な判断から生まれた。
自陣深い地域でターンオーバーからボールを奪い、攻撃に転じたワイルドナイツは、キックをチーフスのゴール前に蹴り込み、WTBマリカ・コロインベテが好チェイス。捕まえ、圧力をかけた。
しばらく攻防が続いた後、トライライン付近でラックを作ったチーフスは、パスアウトするためにボールを足でかき出そうとした。
そのボールがインゴール内に入った瞬間だった。小山が手を伸ばし、楕円球を上から押さえた。
そのシーンを振り返り、小山は「(起こりがちなことなので)少し前にルールを勉強していたことが生きました」と振り返った。
「インゴールにボールが入ったらラックは終了してプレーできるので、押さえました」
▼モチベーション高く挑んだ。
戦いを終えて小山は「勝ちにいった試合で勝ててよかった。最初の10分、相手がパワー全開で向かってくると分かっていました。それを止められた」と話した。
監督や主将が言うように難しかった準備の中でも小山は、「個人としては、レベルの高い海外の選手と戦うのはプラスになると考え、チャレンジする思いを持っていました」とモチベーションを高く保って試合に臨んだ。
今季のプレシーズンマッチ初戦ということもあり、チーフスに、組織的なうまさは特に感じなかったという。
しかし、チーフスの選手たちのフィジカリティの強さはリーグワン以上の体感だった。
相手布陣がどう戦うのか映像などの資料もないため、自分たちのスタイルに集中することがテーマだった。
完勝の結果を考えれば、勝利へのプランを遂行できたと考えていいだろう。
しかし小山は、自身のパフォーマンスを「70点」とした。
「ゲームコントロールやパス、キックの精度に関して、もっと安定させていきたいと思います」
▼実績を重ね続け、国際舞台にも。
今季はリーグワンで開幕からの6戦に全試合出場。
そのうち5試合で先発し、首位を走るチームをSO松田力也とともにコントロールしている。
2027年のワールドカップに向け、新しい4年のサイクルに入るシーズン。さらにエディー・ジョーンズ新ヘッドコーチを迎え、日本代表の陣容にも変化が起こりそうだ。
2018年、2019年とセブンズ日本代表に選出され、同代表キャップ3を持つ。
15人制でも赤白ジャージーを着て世界と戦いたい意欲はある。
過去に日本代表へ招集された実績を持つも、キャップ獲得はまだ。29歳になった。チャンスがいくらでもあるとは思っていない。
「まずはチームファーストで。目の前の試合を全力で戦っていくだけ」と話す。
その先に国際舞台が待っているのが理想だ。リーグワンで結果を残し続ければ、エディーもこっちを向くだろう。
チーフス撃破の事実が、存在をアピールする材料のひとつになったことは間違いない。
先輩でワイルドナイツの9番を長く背負い、日本代表キャップ22を持つ内田啓介は、今季を最後に現役引退と表明した。
小山の先発起用も自然と増えている。結果、ゲームをリードする力も高まる。
目指すところへの距離は、確実に縮まる。
持ち前のスピードあるプレーで、超速ラグビーの発信源となれるか。