目覚めさせてはいけなかった。
ブルーズに7-43で敗れたサンゴリアスのひとりは、会場の秩父宮ラグビー場を去る折に言う。
「向こうにも不安はあったはずなんです。だから、タイトなゲームをしないと(いけなかった)。そこでノーストレスでやられてしまうと、フィジカルが…。いいチャンスだったのにな…」
2月3日、東京は秩父宮ラグビー場。今季新設のクロスボーダー戦に臨んだ。
南半球のニュージーランドから招かれたブルーズは、今季始動から初の実戦を季節の異なる北半球でおこなう格好。さらに母国協会の取り決めで、昨秋のワールドカップ・フランス大会でプレーした代表組を出せずにいた。
すでに国内シーズンを6戦消化している日本のサンゴリアスはまず、フィジカリティに長けるブルーズに圧をかけ、快適さを奪いたかった。それが「不安はあったはず…」の真意だったろう。
実際はどうか。ホスト側は開始17分で19失点。FBで先発の松島幸太朗が壁を破る走り、30分のトライで気を吐くまで、防戦一方だった。短いキックや単騎でのランで混とん状態を作られると、猛者たちの推進力にタックルを弾かれた。
攻めても衝突時に押し返されることが多く、36分頃のチャンスをふいにしていた。FLのアントン・セグナー、WTBのケイレブ・タンギタウのコンビネーションなどで7-29とされて迎えた後半30分には、攻守逆転からさらなる追加点を許した。途中出場していたFLの下川甲嗣が、走者を援護できなかったのがきっかけとなった。
サポートに定評のある下川が接点へ駆け寄るも、人数を揃えていたブルーズに手早く圧をかけられてしまっていた。
「ジャッカル(接点で球を奪うプレー)のうまさもありますし、判断のレベルも高いのだろうなと。入るべきところでボールに絡み、そうじゃないところは捨ててセットする…と。ブレイクダウン(接点)では低さで勝負しました。ただ、(走者が)低さを意識したがゆえに前に出られずその場で倒れ、ジャッカルされることも。(ブルーズの)寄りの速さには高いレベルがあった」
陣容を整えるのにも苦労していた。
ニュージーランド勢2組の一角であるブルーズに戦力が揃いきっていなかったのと同じく、サンゴリアスもFLのサム・ケイン、WTBのチェスリン・コルビといったワールドカップ・フランス大会のファイナリストをグラウンドに送り出せなかった。
現場がコントロールできない理由だった。田中澄憲監督の弁。
「もともとワールドカップの決勝まで行って、その後、なるべく早くこちらへ合流してくれとリクエストをしていたので、このタイミングで母国に戻るのは決まっていました。それだけのことです」
加えてHOの堀越康介主将ら、日本出身のレギュラー格も隊列から外れていた。
松島、堀越とともにフランス大会の日本代表となった下川も、出場は15分のみだった。これには本人が応じる。
「プレー時間は長いほうがいいですけど、きょうは短い時間でもどれだけインパクトを残せるかというテーマを自分のなかで決めていました」
この午後は、レギュラーシーズンの中断期間にあたる。他のクラブが休息を得る期間に、選ばれし4チームが平時と段違いの強度を体験するのがクロスボーダー戦という装置だった。
指揮官は説く。
「端から見たらメンバーを落としていると思われるかもしれませんが、けが人、この時期にコンディションを戻さなきゃ、治さなきゃいけない選手以外でベストメンバーを組みました」
サンゴリアス陣営からは敗戦後、「相手のほうがチャレンジャーでした」という重い指摘も漏れた。ただ劣勢時にも粘る局面を作った。司令塔団に流大、高本幹也を投じた後半18分以降には、組織的かつ素早いアタックでスタンドを沸かせることもあった。
今シーズン途中加入でアルゼンチン代表だったSOのニコラス・サンチェスは、サンゴリアスで初めて主力のゲームへ出場。58分に退くまで仕掛け、球際のファイトで魅した。公式で177センチ、83キロの35歳は言う。
「私は体重も軽いしあまり強くはないと思いますが、負けるのは好きではない。毎回、毎回、100パーセントで戦う」
これらすべての現実を前提とし、敗軍の将は言った。
「日本を代表する4つのクラブがスーパーラグビーのチームと戦うことはリーグにとっても、日本のラグビーにとっても重要なチャンスでした。我々も準備したつもりでしたが、結果として日本ラグビーのプライド、レベルを示せず残念です。今日の内容を受け止めて、『これが、(その後に)変わるきっかけになった』と思えるようにしたいです」