1月末に開かれた高校日本代表候補のセレクション合宿。
参加した43人のうち、最高身長は193センチの雨宮巧弥(あめみや・たくみ)だった。山梨学院高に通う3年生だ。
山梨学院はまだ創部3年目。先の花園で初出場を飾った。
そんな発展途上のチームにいた雨宮にとって、その花園で優勝した桐蔭学園や準優勝の東福岡など、強豪校から多くのメンバーが招集される高校代表候補の活動は、「大事な刺激を受ける」場所だ。
「周りのレベルが本当に高いです。桐蔭やヒガシのようなトップの高校の方々と一緒に練習させてもらい、自分に足りないところ、やらなければいけないことがどんどん見えてきました」
5月に発表された、代表候補の第1次メンバーから名を連ねた。同じLOでは体重100キロ前後のメンバーが並ぶ中、雨宮は78キロ。ひとりだけ、80キロを下回っていた。
6月のTIDキャンプでそれを肌で体感する。
「やはりフィジカルの差は大きかったです。当たり負けないような体を作らなければいけないと思いました」
夏から秋にかけて、増量に成功した。10キロ近く体重を増やし、現在は「88キロ」。
「あまり増えない体質」との戦いには、母・美代子さんの全面的なバックアップに支えられた。
「母が栄養価の高いものを食べさせてくれました」
実代子さんは、男子15人制の日本代表もサポートした経験がある管理栄養士の金子香織さんや、「ジュニアアスリート栄養講師」の山崎文恵さんとコンタクトを取り、アスリートの食事を学んだ。山崎さんからは日々の献立のフィードバックも受けるなど、徹底した食事管理を実践した。
雨宮自身もともに学び、食生活を改善させた。
「野菜を食べなかったり、昔から偏食でした。ただ今は、バランスよく食べるようになりましたし、タンパク質をただ摂るのではなく、肉や魚から摂れる動物性タンパク質を意識したりするようになりました」
かくして古屋勇紀監督から「(春とは)全然違う体になった」と評されるまでになった。もともと武器としていた、BKにも劣らないスピードと運動量、そして長躯を生かしたラインアウトだけでなく、「低いプレーもできる」(古屋監督)ことを評価され、高校代表の最終選考まで残ったのだ。
「1年前まではこういう場所に呼ばれることは想像できていませんでした。それまでは伝統のある日川高校に勝つことだけが目的でしたから。でも、ここまで来たからにはやってやろう(選ばれたい)と思えています」
中学2年時から急激に身長を伸ばした雨宮が、楕円球に出会ったのは中学の季節部。山梨県特有の制度で、主の部活動とは別にシーズン限定で活動する。
雨宮は柔道部だった。
「ラグビーは試合のある期間だけ。夏で1か月、冬で1〜2か月くらいです」
学業が優秀だったがゆえに高校の進路には悩んだ。ラグビーの道に進むことを決心できたのには、2019年W杯での日本代表の活躍があった。
「すごく刺激を受けました。ラグビー、すごい、かっこいいなと」
山梨学院高にラグビー部を創部した梶原宏之総監督(大学では監督)から、同時期に1時間近く熱心な勧誘を受け、1期生としての入部を決めた。
「元日本代表のすごい方で、そうした人から声をかけてもらえることはなかなかない。梶原先生のもとで、ラグビーをやれば上手くなれるのではないかと」
その決断は「正しかった」と表情を崩す。
「文化がまったくない状態だったので、自分たちが一から作りました。サインプレーもひとつずつ名前を考えたり。自分たちの代は本当に仲が良かったですし、特別な存在です。3年間、楽しかったですね」
先の花園では初出場も果たせた。1回戦で長崎南山に26-28と敗れたが、第1グラウンドに立ったときの高揚感は、いまも鮮明だ。
「緊張するかと思ったけど、そんなことはまったくなくて。すごくワクワクして、(自然と)試合を楽しもうと思えた。もちろん悔しさはありますけど、ラグビーは本当に楽しいと、負けても思えました」
卒業後は明大に進む。今回のセレクションキャンプのような高いレベルの環境下で、毎日を過ごす。
「自分は山梨学院の1期生という看板を一生背負っていくので、これからの後輩たちに恥だと思われないように、4年間頑張りたいです」
開拓者の人生は続く。