花園や全国大会の上位戦のように一喜一憂することなく、勝利を追求するラグビーもいい。
しかし、一つひとつのプレーに感情を露わにする少年たちの時間もとても楽しい。
1月28日(日)にBST長沢スポーツグラウンド(川崎市)でおこなわれた第1回『SIRC CUP』では、参加した各チームと選手たちの情熱が表に出る試合が相次いだ。
SIRCとは、渋谷インターナショナルラグビークラブのことだ。
同クラブがホストとなって催した大会には、SIRCのコルツチーム(渋谷コルツ/高校生)、板橋有徳高校、獨協高校、石神井高校、東京学館浦安高校が参加した。
各校はスーパーエンジョイリーグで、普段から交流をおこなっている。
同リーグは2019年から活動開始。現在は板橋有徳ラグビー部の顧問を務める本村雄(もとむら・ゆう)先生が、都立東高校を指導していた時に立ち上げた。
「合同チームでも単独チームでも参加すれば必ず試合に出場できる」、「強化だけでなく、楽しくラグビーをすることを目的にする」、「レフリーや相手チーム・選手、自チームにも暴言や罵声を出すことを禁止する。コーチや監督も同様とする」などをコンセプトに、広く門戸を開いたリーグだ。
その活動の一環として、この日は『SIRC CUP』に参加した。
渋谷インターナショナルラグビークラブは、日本の子どもたちとインターナショナルスクールに学ぶ子どもたちが一緒になって活動している国際色豊かなチームだ。
ユニークな活動は話題となってメンバーも増え、コルツにも30名を超える選手たちが在籍するようになった。
いつでも試合をおこなえる人数だ。
しかし、高校生のクラブチームが公式戦に出場できるシステムがないのが現状。
それなら、「自分たちで大会を開催しようよ」という声も出る。
渋谷インターナショナルクラブの代表を務める徳増浩司代表は、「そういうみんなの希望もあり、各校に声をかけさせていただきました。今回は順位を決めるスタイルにしてみました。よりチームとして結束し、うまくなりたい、楽しんで勝ちたいという気持ちが強くなったらおもしろいねと考え、総当たり戦と決勝トーナメントをおこなうことにしました」と話す。
その狙い通り、試合を重ねるごとにチーム力を高めたチームもあれば、互いに声を掛け合い、熱くコミュニケーションを取りながらゲームを進めるところもあった。
決勝の東京学館浦安×渋谷コルツは好ゲームだった。
最終スコアは7-5。両チームとも渾身のアタックとディフェンスを見せた末の逆転劇で優勝は決まった。
この大会には、昨年末の就任発表以来、いろんなところに現れると噂になっているエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチの姿もあった。
徳増代表は、エディーさんが初めて日本代表の指導に関わった1996年、最初に通訳を務めた人だ。
その関係は途切れることなく続いている。
「徳増さんの誘いもあり、長い付き合いのある彼がやっていることをサポートしたいなと思い、今日は来ました」と話す。
試合を見つめていたエディーさんは、「中にはもっと高いレベルでプレーができる選手も見られました」と言った後、言葉を続けた。
「日本ラグビーには、しっかりとしたシステムがある。それはある意味強みではあるのですが、そこに属していない選手たちにとっては、表舞台に出る機会がほとんどない。それが現状です。なので、ラグビー協会がもう少し柔軟に、トーナメントをオープンにしていかないと。そうでないと、高校生のプレーヤーがどんどん減っている中で、さらに厳しいことになると思います」
エディーさんは、閉会式で「この中から2027年のW杯でプレーする選手がひとりぐらいは出るのではないでしょうか」と話し、選手たちを笑顔にした。
「皆さんは、本当にいろんな才能を持っています。諦めることなくハードワークをして、自分の強みを見つけてください」
閉会式のあとは、エディーさんを中心に記念写真を撮る光景がグラウンドのあちこちで見られた。
参加者全員が笑顔になった一日。グラウンド周辺の片付けも、多くの人たちの協力でスムーズに終わっていた。
優勝した東京学館浦安のMVPとなったSH飯田竜馬(いいた・りょうま)も、「日本代表のヘッドコーチに選ばれて嬉しいです」と相好を崩した。
飯田は小1で柏ラグビースクールに入った。この日は強気のリードと、正確なキックでチームを勝利に導いた。
一日を振り返り、「県外のチームとの試合で、いつもと違うプレーを感じました。外国出身の選手と初めて試合をして、フィジカル面をもっと高めないと、と思いました」と話した。
もうすぐ3年生。ラストイヤーに力を込めた。
「(千葉は)リューケイ(流経大柏)が強いのですが、まずベスト4に入って、しっかり競る試合をしたいですね。全国を目指したいです」
ひとつのグラウンドに、それぞれ違う夢を持った少年、少女たちがいる。
素敵な空間だった。