灰色の空が白く光る。
落雷でゲームが止まり、ロッカーに戻されたフィフティーンが再びフィールドへ出たのはその55分後だ。1月13日、東京は国立競技場。大学選手権決勝の進行が自然に阻まれた。
前半23分。リスタートは明大ボールのラインアウトからだ。
空には雪が舞っていて、帝京大は自陣で守らされた。その一員の尹礼温は、控室にいるうちから仲間と話していた。
「守り切って、敵陣でプレーしよう」
狙いを定めた。5フェーズ目。LOを組む本橋拓馬と前に出て、2人がかりで相手走者をつかむ。押し返す。1学年下の相棒がランナーを引き倒すと見て、いったん、手を離し、地面へつきそうな球に絡む。ペナルティキックを得る。陣地を挽回した。
直後の攻撃で自らトライを決めかけるも、ビデオ判定で取り消された。もっともその1分後には、モールを押し込んでスコアをおぜん立てした。同級生でHOの江良颯主将にフィニッシュさせた。14-0。以後も赤の5番は泥臭く働き、34-15で大会3連覇を果たした。
練習の成果が表れたと話す。
「ペナルティをしないこと、タックルの精度を上げることを1年間やってきた」
日々のトレーニングは厳しい。複数の証言によると、主力組でさえ辛さのあまり嘔吐することもある。尹も「吐くまではあまりいかないですけど、動けないくらいきつくなることはあります」。取り組む気持ちは前向きだと語る。
「走って、身体を当てて、走って、身体を当てての連続。試合でも、そういうことが多いので。結果が出ているので嫌じゃない。苦しい部分はありますけど、自分たちの目標への一番の近道だと思います。他のチーム、選手たちより、ハードワークしている自信がある。春や練習試合で負けても、最後は勝てると(信じられる)」
身長185センチ、体重104キロ。大阪朝鮮高を経てこのチームへ加わった。入学前の2017年度まで選手権V9の強豪には、全国の俊英を軸に100名超の部員がひしめく。
「試合に出るのを目指してはいましたが、それは難しいとも思っていました。有名じゃなくてもすごい選手がいて、どんどんいい下級生も入ってくるので。必死に、悔いなくやり切ろうと考えました」
限りあるレギュラーのジャージィをつかむべく、尹が意識したのはいつも「全力でやる」ことだ。
「いくらひとつの試合でよくても、普段の練習でよくなかったらチームやスタッフの信頼を得られない。普段から人一倍ハードワークしよう…と」
東京都日野市内の施設に足を踏み入れるや、そこが日頃のおこないで人生を変える場所なのだと察したのだ。
「そうですね。やらな、負ける、と」
4年間、限界に挑んできて、「タフになれました。逃げないマインドを作れた」。卒業後はリーグワン1部の強豪へ加入する。そのクラブにいる現役代表選手をお手本に、常にファイティングポーズを取る。