「低いタックルで」
明日、12月30日の花園ラグビー場で2回戦に臨む「前5人」の抱負は、冒頭がおんなじだった。
12月27日の1回戦を突破し、シードの佐賀工に挑む高鍋(宮崎)が、29日午後に報徳学園グラウンドで試合前日練習をおこなった。
「1時間ほど」、と檜室秀幸監督が予定していた練習だが、選手たちはグラウンドに留まってユニットごとの確認をあれやこれや。なかなかセッションが終わらない。メンバーは数名がケガ保護用のテーピングを巻いているものの、雰囲気がいい。リラックスした表情には、かえって翌日への覚悟がうかがえた。
「私が見てきた10年でベストゲームだった」
練習中はまったく指示を出さず選手たちの動きを見守る檜室監督は就任10年目。ベストと振り返るのは2日前の1回戦・青森山田戦(33-14)だ。
「ラグビーを昔から見ている方には高鍋らしい試合と思っていただけたようです」
1回戦では、青森山田の、留学生を含む大きなFWを仰向けに倒して群がり、前進するシーンもあった。FWの平均身長は174センチちょうど、同じく平均体重は90キロ弱で、相手との差は身長5センチ、体重9キロほどあった。試合の中でその値を覆す勢いも見せることができたのは、春からの徹底したフィジカル強化だ。
かつては週2でおこなっていたチームの筋力トレーニングを、FW、BKとも週4に倍増した。OBで卒業後は同志社大学でプレーした森大樹コーチが、献身的に身体強化を支えた。社会人4年目、地元で公務員として働きながら足繁く母校に通った。
「大きかったのは自分自身の経験です。LOとしては小柄(178センチ。のちにPRにも挑戦)で、大学でも踏ん張れたのはフィジカルのレベルを上げることができたから」
トレーニングは実践と独学で知識を蓄え、後輩たちの身体を変えていった。
メンバ―の最長身は3番PRの畠山煌輝で184センチ。1年弱のトレーニングの結果、たとえば、2、3年生が交じるFW前5人は、スタンドから見ればが同じような体型に見えるだろう。身長には恵まれなくとも、身体を大きくする努力をひたすら重ねてきた。強化した部位はと尋ねると「全部です」と苦笑いの森コーチ。
監督の檜室先生も、前年に花園で敗れた報徳学園戦を振り返り、以前の我彼の身体の違いをよく覚えている。
「お互いに速いラグビーを掲げるチーム同士ですが、うちの選手は全体に線が細すぎた。試合の中ではプレー選択の幅が狭くなってしまう」
森コーチの進言もあり、身体作りから積み上げてきた成果が、まさに、2日前の1回戦では発揮されていた。
「スクラム、モール、タックル。1年前とは見違えました」
PRと見違えそうな胸板を持つLO西山文太(174センチ、85キロ)は、あすの佐賀工戦でも、低いタックルで自分たちらしさを発揮したいと意気込む。
「大会前、先生(檜室監督)が、全国で低いタックルができるようにと、工夫した練習を考えてくれました。全部の成果を明日また出したい」(西山)
佐賀工は押しも押されもせぬ今大会優勝候補。高鍋の今季の最高戦績は九州大会1回戦だ(1位ブロック/5-45東福岡)。佐賀工とは公式戦でのマッチアップはなく、夏合宿の練習試合で大敗している。
「相手はAチームではなかったと思います。全力でぶつかりましたが、25分1本(ハーフのみ)で、トライ5本-0本でした」(檜室監督)
ただ、選手たちと同じく、監督率いる指導者の雰囲気は穏やか。今年の3年生は高校から競技をスタートした選手が多い。タンク型にフォルムのそろった前5人は、PR多田光希③、HO高山成王②、PR畠山煌輝③、LO田村武士②、LO西山文太③のうち、3年生3人がいずれも高校でラグビーを始めた。多田がサッカー、畠山は柔道、西山は野球出身だ。
監督いわく「とにかく素直な」リーダーたちが率いるチームは、その身体、数値が示す以上に集団として大幅な成長を見せている。
接点周りのショートパスと15人の尽きない走力。今年はそのハイテンポなスタイルを、積み上げたフィジカルが裏打ちする。
「私は、明日がとても楽しみです」(檜室監督)
宮崎県中央部の海沿い、人口2万強の町から、全国チャレンジの第2章が明日、幕を上げる。
宮崎県立高鍋高校◎たかなべこうこう/学校創立1912年、ラグビー部創立1947年。全国4強1回、8強2回、3回戦進出4回。ラグビーをよく知るファンにはタックルと高速展開で知られた存在。現部員55人(うちマネージャー3人)。福岡や他地域からもOBなどのつながりで選手が来ることも。先発メンバーで県外中学からの入学者は2名