4トライを奪った背番号15、小野澤謙真の走りは相手を圧倒、観る者を惹きつけた。
開催中の第103回全国高校ラグビー大会。その初日の12月27日に秋田工と対戦した静岡聖光学院は、36-15と古豪に快勝して次戦に勝ち進んだ。
2回戦の相手は目黒学院(東京第2)。目指すベスト8に到達するためには、初戦同様、磨いてきたアタッキングラグビーをすべて出し切らないといけない。
冒頭のように、切り札のランナーが好調な静岡聖光学院。5トライ中の4トライを小野澤が奪ったとはいえ、他のメンバーの踏ん張りがあってこそ、エースがより輝いたと見るべきだ。
多くの選手たちが前に出て、好機を作った。
FL藤田武蔵主将が言う。小野澤のことを「凄い。神がかっていましたね」と抜群のパフォーマンスを振り返った後、「彼が前に出たことで僕らも勇気をもらいました。ただ小野澤は、もっとやれる。2回戦、3回戦と、もっと走ってほしい」と続けた。
しかし、一人に頼るつもりはない。特にFWとしては、「自分たちが前に出ることで、チームを勢いづかせたい」と強い気持ちを口にする。
「全員が(攻撃)オプションになるつもりでやっています。自信を持ってプレーします」と決意は固い。
秋田工戦で印象的だったのは、アタックのテンポのはやさだ。
FWはサイズでは相手に上回られ、スクラムでは押し込まれた。しかし、ボールが動き出せば運動量で勝負し、鍛えられた体躯を使い、ブレイクダウンで奮闘した。
学校の規則でチーム練習の時間は限られているから、工夫をして肉体を鍛えた。
自主練習時、上級生が、2年生、1年生の筋トレ指導にあたる。「切磋琢磨して効果が出た」(藤田主将)という。
秋田工戦、大きなFW相手の戦いが簡単でないことは分かっていた。
しかし、全国ベスト8を目指し、体作りをしてきた。「だからビビることなく、思い切りやりました。通用した部分はあった」と手応えを得た。
防御時は前に出られるシーンが何度かあったと反省する。
「でも、アタック時は自分たちが優位に立ち、ゲインできた」と振り返る。
動き出し、起き上がりのはやさ、そしてフィットネスに懸けた。
藤田主将自身も前半20分過ぎ、ラインアウト後の攻撃で、相手ディフェンダーを引きずってビッグゲインをしたシーンがあった。
「得意な局面でした」
ボールキャリーに自信を持つ。
2年生時の5月だった。試合中、頭蓋骨骨折の大ケガを負った。ダブルタックルに入った際、味方と激突した。
手術と長いリハビリ期間を経て復帰した後、今度は頬骨を骨折する。
二度のケガから完全に復活するまで14か月かかった。
しかし、強気のプレースタイルからは、ケガへの恐怖心は微塵も感じられない。
「(その瞬間の)記憶がないので」と笑い飛ばす。
過酷な状況から復帰しただけでも、精神的な強さが伝わる。「誰よりも体を張り、パッションを見せるのが自分のキャプテンシー」と、行動で引っ張る。
ハキハキした受け答えも印象的だ。海上自衛官の父と、慶大野球部3年で学生コーチを務める兄に、振る舞い方の指導を受けてきた。兄は大和、自身は武蔵。戦艦の名に恥じない生き方を実践する。
ハッキリした顔立ちは、沖縄出身、鹿児島育ちの母譲りだろうか。
花園の芝を踏んだのは2年ぶりだ。1年時は1回戦で高知中央に34-0と快勝するも、佐賀工に7-50と大敗して2回戦で戦いを終えた。
昨年の先輩たちが県予選で敗退した悔しさは、今季のエナジーのひとつ。「先輩たちの思いも持って戦っています。まずは、1勝を届けられてよかった」と笑顔を見せた。
2回戦の目黒学院戦へ、「相手のことを意識し過ぎず、自分たちがやってきたアタック、ディフェンスのベーシックな部分をぶつけていければ勝利に近づける。過信することなく、しっかり準備します」と落ち着いている。
部にとっての初めての3回戦進出を決め、ベスト8入りへの挑戦権を手にしたい。