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ブルーレヴズ、王者スピアーズを撃破。クワッガ・スミスは「プランを全員が信じ切った」。

2023.12.29

スピアーズ戦もハードワークでブルーレヴズをけん引したクワッガ・スミス (C)JRLO


 昨季王者から今季初白星を奪った。

 12月24日、敵地の大阪・ヨドコウ桜スタジアム。静岡ブルーレヴズが国内リーグワン1部の第3節で、前年度の順位が7つ上のクボタスピアーズ船橋・東京ベイを下した。ラストワンプレーでの逆転勝利である。

 勝った陣営のコーチャーズボックスではハイタッチが重なる。その右斜め前方下では、最後にトライを決めたSOの家村健太を同僚たちが祝福していた。

 宣言通りだった。戦前より、藤井雄一郎監督は「勝てる」と話していたのだ。いざ、内なる確信を劇的な展開で具現化したのを受け、淡々と述べた。

「最後のあの一瞬のために、きつい練習をしてきたので」
 
 クラブのキャラクターを示した。

 何度も自陣の深い位置でのピンチを防いだ。登録選手の平均で3.2センチ、4.1キロほど上回るスピアーズの大型FW陣を向こうに、接点によく絡んだひとりは大戸裕矢だった。身長187センチ、体重104キロと、2列目のLOにあって大柄ではない33歳だ。

 走者に刺さっては起き上がり、球出しを遅らせての繰り返し。その姿に敬意を表してか、試合後のミックスゾーンにいた大戸へは対するフラン・ルディケ ヘッドコーチが握手を求めてきた。本人は謙遜しつつ、こう振り返る。

「密集のところでは運動量高くやっていかないといけないので、そこは、意識しました」

 長年、看板に掲げるスクラムでも優勢だった。スピアーズでは最前列のHOにニュージーランド代表90キャップのデイン・コールズが初先発も、ブルーレヴズのパックに苦しめられた。

「とても、低い! (自身に向かう)矢のような形で組まれて、対応しきれなかった。これも学びです」
 
 中盤の攻防でもブルーレヴズが主導権を握った。スピアーズの防御が前にせり上がるのを踏まえ、長短のキックを活用した。5-7と2点差を追う前半26分。ハーフ線付近左でこぼれ球を拾って右端、左端へと順に展開。SOの家村は、右へ向かう際にはキックパスをつなげ、左へ動く際には低い弾道で陣地を取った。

 向こうのミスに助けられて自軍のラインアウトを得ると、CTBのヴィリアミ・タヒトゥアらの突進を経て左の狭い区画につなぐ。ためを作りながらのパスで、ほぼフリーだったWTBのマロ・ツイタマにトライを獲らせた。10-7。

 防御、スクラム、球の動かし方が奏功し、16-7とリードしてハーフタイムを迎えた。

 16-12に迫られていた後半4分以降は、再三、ゴール前でスクラムを押し込んだ。ここで止めを刺すには至らず、34分にはミッドフィールドでの被ラインブレイクをきっかけに16-19と逆転された。しかし、藤井は動じなかった。

「点数も微妙な点数でした。でも、いけるかなという感じはあった。最悪のシナリオの(を脱する)練習もしてきたので」

 残り2分。敵陣10メートル線付近右のラインアウトを失いながら、時間稼ぎのためラックを連取する相手にFLのクワッガ・スミス主将が牙をむく。

 タックルに入る大戸の、ほぼ真後ろに構えた。前にいた大戸が走者を倒すや、スミスが球に手を伸ばした。向こうのサポート役とほぼ同着で接点に絡み、スピアーズにとって19個目となる反則を引き出した。敵陣ゴール前に進んだことで、家村のトライにぐっと近づいた。

 あの時、いかにして楕円球に絡んだのか。そう聞かれたスミスは「シークレット!」としながら、こう続けた。

「プランを全員が信じ切って、それをやり切ったことがボール奪取につながりました」

 藤井ら新コーチ合流後の11月、宮崎合宿では日本代表の指導にも携わったジョン・ドネヒュー スポットコーチのもとショートダッシュを交えたレスリングセッションを実施。代表活動にも参加したスタッフによると、ドネヒューのコーチングは「ジャパンでやったものよりも厳しい」ものだったという。

 同時並行でなされたのは、ボールを大きく動かすコンセプトの共有だ。藤井がかつて率いた宗像サニックスブルースでも見られた攻撃への意欲は、かねてスクラムを命綱としてきたブルーレヴズに幅をもたらした。

 タレントを揃えると同時に、スタイルを信じ、全うすることこそ勝利への近道だ。クリスマスイブのブルーレヴズは、そう証明して静岡に帰った。

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