大学4年間で最大で最後と位置づけた一戦に出られない。原透和(はら・とうわ)の落胆は相当なものだった。
「チームに恩返しをしたい、と思ってやってきたのに、それができなくなってしまいました。大学ラグビーを最後までやり遂げたい思いも強かった。本当に悔しかったです」
タレ目で普段は愛嬌のある顔はゆがむ。大阪体育大、略称「体大」(タイダイ)の共同主将は同志社との関西Aリーグ(1部)の入替戦を欠場した。12月9日だった。
欠場理由はあごの骨折。20日前、Bリーグの甲南に72−5と快勝した。その試合後半、相手の頭が強くヒット。激痛の中、運ばれた病院で医師に入替戦のことを伝えた。
「厳しいね」
そのまま、入院。手術を受けた。
「ラグビーをやってきて、これまで大きなケガをしたことはありません。骨折して、ドクター・ストップがかかったということを実感として持てませんでした」
原が競技を始めたのは5歳。奈良にある「キッズラグビーとりみ」に入る。自ら興味を持った。それから17年が経っている。
「でも、諦めないと仕方ありません。あごにはプレートが入っている状態ですし…」
入院は10日間。練習には入替戦の1週間前から参加した。その間、体大はもうひとりの共同主将、SO生駒創大郎がけん引する。Bリーグ最終戦の龍谷には38−28。7戦全勝で2年ぶりに関西の2部を制した。
原はグラウンドの中に入り、監督の中井俊行やヘッドコーチの和田哲元らとチームを見守った。和田はOBで今年就任した。旧姓の金の現役時代、SHとして近鉄ライナーズ(現・花園L)で日本代表キャップ2を得ている。
同志社との入替戦当日、原はウォーター・ボーイになった。メンバーに水補給をしながら、試合を至近距離で見る。
「オフサイドが多かったですね」
ディフェンスで辛抱を仕切れない。
「初めての有料ゲームで気持ちが高ぶっていました。普段やっていることができません」
前半の反則数は同志社の1に対して、体大は10。リズムに乗れなかった。
そして、最終スコアは21−62。5年ぶりとなるAリーグ復帰は露と消えた。
「僕が出ていても、結果を変えることは難しかったと思います。ただ、FWはもう少しまとめられたかもしれません。バックローは全員3年生。FWはミスが多かったです」
原は174センチ、79キロのFLだった。
この奈良の天理であった入替戦には、原の常翔学園時代の恩師、野上友一が大阪から駆けつけた。欠場の原以外に卒業生5人がこの試合に出ていた。3人はチームの芯だった。原と生駒、そして、同志社主将の山本敦輝。サイドに関係なく、野上には親心があった。
この常翔学園に原は、中学時代の奈良県スクール選抜を経て入学した。
「紺に赤2本線の常翔のジャージーに憧れがありました」
原の生来の豊富な運動量はこの高校のランパスなど基本中心の練習でさらに磨かれる。
2年生から公式戦出場を果たす。全国大会は98回(2018年度)。8強戦で流経大柏に14−19で敗れた。3年時の99回大会は4強敗退。御所実に7−26だった。
この99回大会では8強戦でAシードの京都成章を27−24と逆転で破る。当時、監督だった野上は試合後に語っている。
「体の大きいチームやから、後半は脚に来る、と思っていた」
原はその豊富なスタミナで60分間、グラウンドに立ち続け、撃破の先頭に立った。
「高校でラグビーはやり切った感がありました。でも、体大はずっと声をかけてくれていました。体育の教員免許も取れました」
常翔学園の全国大会優勝は5位タイの5回。その名門校から体大に来た原は、1年から公式戦に出場する。中井の評価が残る。
「フィットネスが高く、プレーは献身的」
生駒との共同主将制は学生間の投票をベースに、ひとりに負担をかけるより、という考え方でできあがった。
原にとって、同志社との入替戦は別の動機付けもあった。2年上で副将だった越智幸久が12月2日、急逝した。自動車事故だった。
「僕は1年生から試合に出ていたので、越智さんにはよくしてもらいました」
生駒と2人で通夜と告別式に出席した。
「今、越智さんに勝てずに申し訳ありませんでした、という思いが強いです」
自身のケガ、先輩の死、そして残留…。この1か月ほどで経験したことはつらく、悲しいことばかり。以前から決めていた、ラグビーを続けない判断はそのまま進める。
「1回、リフレッシュします」
就職は業界大手の機械メーカーからすでに内定をもらっている。
去りゆくチームへ託すことがある。
「Aリーグに昇格してほしい。そのためにはまとまりが必要です。下級生は自分勝手な人もいる。規律がなければ勝てません」
チーム・ファーストが肝要。それこそが、強いフィジカルで「ヘラクレス軍団」と一世を風靡した黒白ジャージーの復活につながる。
名の「とうわ」は両親が命名した。
<透き通った心を持つ、和やかな人になってほしい>
その濁りのない心から出た言葉を残るものたちは受け止め、鍛錬を続けてゆきたい。そうすれば、進む先には光が見えてくる。