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「最後だから、楽しむ」。堀江に続いて内田啓介も引退を宣言。100試合達成のホスト試合で

2023.12.25

12月23日、100キャップ目の試合を終えて(撮影:髙塩 隆)

 報告があります。

 ホームタウンで勝利を収め、内田啓介が自身の100試合出場(リーグワン公式のカウントによる)を祝うセレモニーで、感謝を伝えた後に切り出した。

 今季をもって引退、の宣言に熊谷ラグビー場がどよめく。ホームの青いサポーターだけなく、ビジターのブラックラムズファンからも意外、残念の思いが伝わってくるざわつきが続いた。

PROFILE
内田啓介/うちだ・けいすけ/1992年2月22日生まれ、31歳。滋賀県大津市出身/SH/179㌢、86㌔/大津ラグビースクール(小2〜)→陶化中→伏見工業(現・京都工学院)→筑波大→埼玉パナソニックワイルドナイツ/日本代表キャップ22

「現役生活は昨年までかなという感覚もあった。優勝を逃して、このままでは終われないと思い、今季を区切りに引退することを決めた」

 試合後のメディアのインタビューで引退へのいきさつを明かす。

我が子を抱えてファンに感謝を伝える(撮影:BBM)

 31歳。パフォーマンスには衰えの兆しさえない。複数の同僚選手からは、早い引退を惜しむ声も上がる。周囲には家族以外、今季引退の意向は一切告げていなかった。突然の宣言に驚いたのはファンだけではなかった。

 筑波大3年時に早くも日本代表に招集され、主将に指名された時期もある(2016年)。ワイルドナイツでは2014年の加入以来主力を担った。この日、熊谷でおこなわれたブラックラムズ戦は後半33分からの出場。ロビー・ディーンズ監督は内田の100キャップ目のゲーム出場について「流れによっては、次節のトヨタ戦になるかもしれなかった。ホームのファンの前で節目を迎えることができてよかった」と話した。

 内田自身は今季のいつであれ、100キャップのセレモニーで引退を発表することを決めていたという。

「僕自身が皆さんに直接話す場を与えてもらえる機会は限られていますので」

 開幕前に会見を開き、同じく今季限りの引退を発表していた堀江翔太は、「はっきり今季とは聞いていなかったが、そろそろと考えているのかなとは感じていました」と明かす。

「選手はみんなラグビーに全力を注いでいるけれど」と堀江。

「人生はラグビーだけ、ではないですからね。今後のことも踏まえて、決めたんじゃないでしょうか。その先にしたいこともある。自分もそうですが、選手としてトップの状態のまま退く、ということでは」(堀江)

 内田自身は体力、パフォーマンスとも「まったく問題ない状態」という。

「タイミングについては、自分のフィーリングとして今かなと、しか言いようがないんです。少し前から考えてはいました」

 やはり、選手以外の人生でやりたいことがあるという。高校ラグビーの指導だ。

「高校時代から教員志望でした。若い選手のコーチングをしたい思いは持ち続けていました。大学時代には教員免許も取り、高校生を見て、こういうところに可能性があるなと感じたり。大学、社会人とプレーを続けて、こうすべきだったと振り返るところがあったり。それを自分なりに伝えていきたい。できることなら、伏見工業…京都工学院の役に立ちたい。母校は、もう何年も全国に行けていないので。自分の時も、キャプテンとしてチームを全国に連れていけなかったことに思いが残っています」

 全国大会(花園)優勝4度を数える京都工学院は今、苦境が続いている。全国でも上位に食い込む京都成章が10年連続で京都府予選優勝を収める(伏見工、京都工学院は2015年度の出場が最後)。

「実は、家族からは、まだ引退は早い、現役を続けてほしいと言われていました。何度か話して、自分の思いを理解してもらえた」

 前もってファンに引退を宣言したことについては、自身がこれまで何人もの選手を送り出してきた体験が理由になっている。

「僕にとっても、縁の深かった選手が現役生活に幕を引くのは寂しいことです。もう一緒にプレーしたり戦ったりできないことを知る時って、ネットで初めて知ることがこれまで多かった。それがまた寂しい。自分は、応援してくれるファンの皆さんには、直接、お伝えしたいと思いました」

 まずはワイルドナイツでの日々をまっとうする。あえて宣言をして去るチームに、後輩たちへ、最後の1年で示したいのは、楽しむことだという。

「みんな誰でも、楽しいからスポーツを始めたと思う。それがいつの間にか楽しむことはすみに置かれて苦しみが前面に感じられる時期って必ずありますよね。僕自身も、楽しんできたつもりだったけれど…。ラグビーは今年が最後と心に決めてからは、我ながらこんなにも慎重になってしまうものなんだと実感しています。僕は、だからこそ楽しみたい。きょうはもう戻ってこない。最後の1日1日をやり切る。全力で楽しまないと、もったいないから」

 見慣れたクラブハウスもスタジアムも、仲間たちとの日々も。ラストシーズンの道中では、これまで気づかなかったいろいろな景色が見られるのだろう。昨年は届かなかった目標へ。特別な日本一を見据えたシーズンが始まっている。

リコーの柳川大樹選手も同じ試合で100キャップを迎え、両チームで記念撮影(撮影:BBM)