大阪・本町にある「ワコー」の季節が今年もやってきたでー。この炉ばた焼き屋は「くいだおれの街」の中心にある。廃墟での営業を思わせる店では、2年連続で「ラグリパ祭り」を開催中や。
「ラグリパ見た!」
と言えば、日本酒がひとり小グラス一杯出てくる。振る舞い酒やからもち無料。下戸な人や未成年はみかんジュースでっせ。
店長の「ナガタク」こと長澤拓哉(ながさわ・たくや)はんは、去年に続き太っ腹や。体も太いけど…。
「今年もやらせてもらいまっせー」
昔、コンパにキムタクではなく、ナガタクが来て荒れまくったけど、今なら大丈夫。鶴橋での調査によると結構デブ専多い。冬場はあったかいわなあ。湯たんぽ代わりや。
ほな、ナガタク、この冬のイチ押し商品を紹介してー。
「あら汁、いわしのトマト煮、それにスペアリブの3つですね」
ナガタクは魚屋出身。見る目は確かやで。
とりあえず、あら汁からいこう。カニ&エビで出汁を取り、白身魚をぶち込んで、軽い味噌仕立てでいただく。
「あらは座って2万円のすし屋からいただいてます。基本的にすし屋はあらを使いまへん」
甲殻類の濃厚さに味噌の塩加減がマッチ。しばれる冬にはぬくもりまっせ。
お次はいわしのトマト煮や。
「これ、千葉の銚子のいわしを使っているんですけど、脂が乗って美味しいんですわ」
トマトの酸味といわしの脂が混じって、バッチグー。黄色いのはチェダーチーズや。これが濃さを出す。銚子のご紹介は伝説の魚仲買人と言われる三坂英明はん。30年ほどの師弟関係は今も続いてまっせー。
しかし、ワコーにはイタリア風もあるのね。
「父がイタリア人なもので…」
ナガタク、カピバラ系日本人ちゃうのん。
「いや、ここのオヤジさんはおしゃれでね」
おしゃれといえば、ジョルジオ・アルマーニに代表されるイタリアか、せやから、イタリア人、ってあんた誰?
助け舟を出したのは週2日、店を手伝う「マーちゃん」こと高原正秀さんや。
「本業はマグロ屋ですわ」
マーちゃんの包丁さばきはほれぼれや。刺身はほどよい厚さ。女性のさばきは?
「そっちはまあまあかなあ」
目が真ん丸で可愛いお顔。母性本能をくすぐること、間違いないでー。
年はナガタクの方が1つ下。30年ほど前に市場で知り合った。高校時代にラグビー、しかもフロントローやったことで意気投合や。ナガタクは八尾南(現・八尾翠翔=やおすいしょう)、マーちゃんは今宮やね。ノーベル賞も出した高校やで、しかし。
最後はスペアリブや。あれ、これあばら骨がついてないやん。ナガタクは説明するで。
「国産黒毛豚は法律では骨付きでは売れまへん。せやけど輸入もんより口に合う」
美味しさの優先や。まあでもはっきり言えば「チャーシュー」。そこはそれ、スペアリブというネーミングの方が格好いい。歯ごたえは柔らかすぎず、固すぎず。甘辛いたれをつけたら、なんぼでもいけまっせー。
昨年の3つの主力商品、たら白子、さんまの灰干し、下仁田ネギも健在や。牛スジを煮こんでトロトロにしたチゲ鍋、牛ハラミや牛ホルモンもある。牛肉系はナガタクが指導員をつとめる阿倍野(あべの)のラグビースクールの同僚から仕入れる。バッチリや。
もち、この店の当初からのウリ、関アジや関サバもまだまだありまっせ。
「この値段で出せてんのはウチだけ」
変わらずナガタクは力を込める。九州と四国の豊予海峡で取れる魚たちは脂が乗って、口に入れたらとろけそうやで、しかし。
この刺身類に関して、ナガタクとマーちゃんがツートップの時は、フェミニズムがさく裂するで。えっ、どゆこと?
「女性のみのお客さんは、盛り合わせ、って注文しんでいいんですわ。勝手に1品サービスします。カップルはあきまへんで」
とナガタク。女性だけなら、ぜひともレッツゴーひろみコンサートや。
店の中は楽しい雰囲気がただよっている。ナガタクが昔、顔を軸に選んだ嫁はこうのたまいながら接客にいそしんでいる。
「わたくしは石田ゆり子でこざいまーす」
アコちゃんは、マーちゃんと入れ違いに板場に入るが、福々しい顔は年末年始にぴったり。ワイは好きやで。「オー、ファンタスティック」と叫ぶ純和風女子店員もいる。
時間があれば、従業員はお話しまくり。ナガタクは板場の中からそれを見て言う。
「仕事、そっちのけですわ」
このゆるさもワコーのウリのひとつやね。
ワコーでは。メニューにお代は書いていない。それでもひとりで飲んで、食って、ナガタク曰く、
「4000円ほどやと思います」
安っすー。年内の営業は30日まで。せやから、全国高校大会の2回戦が終わった後にも行けるで。近鉄吉田駅からなら、電車一本。なお、31日から新年11日まではお休みや。
みなはん、今年も1年、お疲れさまでしたー。ワコーでうまいもん食って、飲んで、しゃべって、よい新年をお迎えくださーい。
◆炉ばた ワコー◆
■住所 〒541−0054 大阪市中央区南本町3−4−9 本町センター街内
■電話 06−6252−2757
■営業時間 17時〜深夜2時
■定休日 土日祝(定休日は貸し切り時のみ開店、店長に相談してねー)
■座席 46席(カウンター9、テーブル37)
■予約 可(ただし、食材が見える人気のカウンター席は不可。開店前に並びましょう)
■最寄り駅 大阪メトロの本町駅。7番出口から徒歩2分。
■喫煙 可(カウンターは広めにとってあるので、煙は気になりません。念のため)