ラグビーリパブリック

妙技連発のリッチー・モウンガ、ブレイブルーパス同僚のリーチ マイケルからかかる期待。

2023.12.19

府中ダービーでプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたブレイブルーパスのリッチー・モウンガ (C)JRLO


 えっ。

 やられた側も、そう息をのんだのではないか。

 12月17日、東京・味の素スタジアムにいたのはリッチー・モウンガだ。ニュージーランド代表56キャップの29歳である。

 加わったばかりの東芝ブレイブルーパス東京の先発SOとして、国内リーグワン1部の第2節へ先発。相手は東京サントリーサンゴリアスだった。互いの本拠地が近いことから「府中ダービー」と呼ばれる一戦へ、当事者意識を持って臨んでいた。

「私は加入して間もなく、府中ダービーがどういうものなのかを肌で感じてはいませんでした。ただ、チームメイトの準備への姿勢を見てものすごいものなのだろうとわかってきて、きょうのチームメイトの戦いを見ても気持ちが入っているのが伝わった。自分もその一部になれて嬉しかったです」

 万人を驚かせたのは前半11分だ。

 0-3とビハインドを背負うなか、敵陣ゴール前の左隅へ駆け込んだ。右斜め前にあったモールから球をもらうや、ぴたり、と止まり、再び加速した。十分に人数を揃えていたサンゴリアス側の虚を突き、ワンハンドパスでWTB桑山淳生のトライを促した。直後のゴールキックも決めて7-3とした。

 続く22分。ハーフ線付近左のラインアウトから中央へ展開すると、小柄な相手が並ぶ左の区画へLOのジェイコブ・ピアスを走らせた。ラインブレイク。勢いをつけて右に展開した。

 その間、モウンガは敵陣10メートルエリア右中間へ回り込んだ。球を手にすると、防御と正対しながら右足の外側で右真横へキックパスを放った。

 弾道は、せり上がった防御の死角へピンポイントで届いた。

 それを受け取ったWTBのジョネ・ナイカブラは、ボールを前方へ蹴り出し自ら追いかけた。持ち前のスピードを活かし、7-6と迫られていたスコアを12-6と広げた。

 おぜん立てをしたモウンガはこうだ。

「相手の防御が(極端に)上がっていて、(その死角で)ジョネが空いているのが見えた。単純に、空いているところに蹴るだけでした」

 FLの佐々木剛の言葉を借りれば、ブレイブルーパスの強みには「デザインされたアタック」がある。クラブの元主将でもある森田佳寿コーチングコーディネーターが、相手の防御傾向を読んで各節の2週間以上前から攻める布陣、および計画を練る。そのプラットフォームへハイスキルを溶け込ませるのが、いまのモウンガである。

 続く27分。ブレイブルーパスはカウンターアタックから敵陣10メートルエリア左へラックを作り、ハーフ線付近でもらった楕円球をさらに自陣右奥へ回した。

 バトンは、中央近辺のモウンガから右中間の佐々木へ渡った。佐々木はせり上がってきた相手へ仕掛けながら、隣にいたLOのワーナー・ディアンズへ短くつないだ。

 BKの防御へ大型FWをクラッシュさせる「デザイン」を機能させたのは、22分までの流れと同じだ。首尾よく前進したディアンズは、ここから右に大回りしてきたCTBの眞野泰地の快走を促した。眞野は敵陣22メートル線の近くまで進むと、ナイカブラ、ディアンズと順に手渡しでつなげた。

 その約4分後には、敵陣ゴール前右でモウンガが身体を張った。

 相手ボールスクラムから駆け込んでくる相手NO8のサム・ケインを仕留め、佐々木、NO8のリーチ マイケルらと羽交い絞めにした。攻守逆転。PRの木村星南のトライと自身のコンバージョン成功で、19-6とリードを広げた。

 19-16と迫られていた後半15分頃には、敵陣中盤での連続攻撃で魅する。

 同10メートル線付近左で味方FWからボールを託されると、出足の鋭い防御の裏側へ右足を振り抜いた。同22メートル線付近右のスペースへ球を落とし、待ち構えていたFLの伊藤鐘平を走らせた。

「パスも、キックもどちらでもできるような位置に立ちました。チャージされずに蹴るには、十分な間合いを取れた」

 ブレイブルーパスはこの得点機も活かし、結局、26-19で開幕2連勝を決めた。モウンガは、この午後にチームが決めた全4トライに何らかの形で絡んだこととなる。

 この午後は、公式で3万1953人のファンがやってきた。前日に更新されたばかりのレギュラーシーズン1試合入場者数を早くも塗り替え、各クラブに大物が集結するリーグワンの可能性をにじませた。

 この舞台で千両役者となったのが、ほかならぬモウンガだ。

 さりげない動作も巧みだった。向こうからのキックを捕るや迫るタックラーをひらりとかわす、対面した選手のもとへまっすぐ駆け込んだままパスを放る…。

 リーダーシップにも長ける。今シーズンから副将を務めるHOの原田衛は、こう証言する。

「モウンガが来てくれたことで僕の仕事量が極端に減り、何もすることがない状態になっています。ハドル(円陣)など、チームなかで発信してくれて、それを僕は『いいこと言うな』と感心しながら聞いているだけです。チームがいい方向にいけるように発信してくれています」

 今秋はワールドカップ・フランス大会があり、モウンガは現地時間10月28日の決勝までプレー。その後、つかの間の休息を経て来日し、12月9日の開幕前に出た練習試合は1つだけ。急ピッチで仕上げていた。

 それでも、いち早くチームの動きや文化を理解していた。そう原田が明かす。

「ブレイブルーパスがどういうラグビーをしたいのか、それをするにはどうすればいいかをハドルのなかで言ってくれる」

 今シーズン、およそ10年ぶりにブレイブルーパスの主将になった日本代表のリーチ マイケルは、モウンガの視野や哲学をさらに引き出したいと話す。NO8で働く自身を含め、FW陣への注文を付けて欲しいという。

「モウンガ選手は引き出しが多く、自分で何でも起こせる。これからは『もっとFWはこういう動きをして』という、フィードバックをもらいたいです。(不満をため込んで)がまんしたり、イライラしたりしないよう、チームに要求して欲しいです」

 チームスピリットは古風な「猛勇狼士」も、モダンさをにじませるブレイブルーパス。24日の第3節では、コベルコ神戸スティーラーズと全勝対決をおこなう(兵庫・ノエビアスタジアム神戸)。

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