ラグビーリパブリック

農家で鍛えたコーバス・ファンダイク、日本代表になるなら「犠牲」を厭わない。

2023.12.09

昨季はプレーオフ2試合も含めて16試合に出場した。(撮影/向 風見也)



 ラグビー選手を辞めたら農家になりたい。実家の稼業だからだ。

 南アフリカ出身のコーバス・ファンダイクは、子どもの頃から家の仕事を手伝ううちに頑丈な身体を作りあげた。

 それが競技活動にも役立っているのだ、と頷く。

 畑で耕した麦の詰まった大箱を、両手で抱える。垂直に持ち上げ、トラックの荷台に移す。牛の餌やりに必要なこの動きが、「ラインアウトのリフトみたい」だと思うことがある。重い箱を持ち上げる作業が、飛び上がった味方を支える動きに重なるという。

 身長196センチ、体重108キロの29歳。FWの第2、3列に入り、空中戦の「ラインアウト」はもちろん、タックル、接点でのファイト、タッチライン際での大きな突破で魅する。

 いまは、所属する日本の横浜キヤノンイーグルスでの通算5季目のシーズンを心待ちにする。

 埼玉・熊谷ラグビー場での開幕節(対埼玉パナソニックワイルドナイツ)を2日後に控えた12月8日、都内の拠点で話した。

「味方の勢いをつけ、相手の勢いを消す。FWを引っ張り、いいBKにボールを供給したいです」

 イーグルスは今季、コーチングスタッフを入れ替える流れで防御を磨き直す。

 ファンダイクは「変えたというより、去年足りていなかったところを強化した感じ。1対1のタックル、アティチュードを改善しました。ゲインライン(攻防の境界線)を絶対に取られないように」。自身は「フィジカルなプレーをする」と、変わらぬパフォーマンスを約束する。

「やるべきことを、続けてやっていくだけです。あとは、運命に任せます」

 自国のストーマーズのプロ選手として国際ラグビーのスーパーラグビーへ挑んだのは、2016年からの計3シーズンだ。

 来日したのは2019年。当時のイーグルスには自国出身のコーチや選手が多く、すんなりと加入を決められた。2020年夏以降は、いまも指揮を執る沢木敬介監督の攻撃的なスタイルを楽しめている。

 リーグワン初年度の2022年シーズンは、リーグのベストフィフティーンに選ばれた。昨季もクラブ史上初の4強入り(1部12チーム中3位)を果たすまで、身を粉にした。

 ここで自ずと芽生えたのが、日本代表入りへの意欲である。

「クラブレベルでやっていれば、代表チームを目指すのは自然なこと。その、レベルでやりたいと思ったのです」

 ラグビーでは、所定の条件を満たせば出生国以外でも代表選手になれる。

 ただしルーツを持たない国で代表資格を得るには、原則、その国で5年以上続けて住まなくてはならない。連続居住のミッションをクリアするまでの間、許される一時帰国の期間は1年あたり2か月ずつと定められている。

 ファンダイクは、覚悟を決めている。

「スケジュールはタイトになるが、犠牲は、払わないといけない」

 シーズン中は妻と暮らす。「日々の生活を楽しんでいます。チームメイトの奥さんをはじめ友達もできて、文化も気に入っています」と笑う。日本が好きなのは自身も然りだ。

「人々が礼儀正しく、勤勉です。インフラも整っている。それに、食べ物もおいしいです。焼肉、鉄板焼きもいいし、お好み焼きが好き。ラーメンも…」

 アフリカ大陸で培われた足腰、背中、上腕が、アジアの島国に溶け込んでいる。


Exit mobile version