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【連載】プロクラブのすすめ⑬ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] スポンサーシップの考え方

2023.12.09

(撮影:中嶋聖)

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 13回目となる今回は、3季目のプレシーズンを振り返り、スポンサーシップを主題に語ってもらった。(取材日11月30日)

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――ブルーレヴズにとって3季目のシーズン開幕が迫っています。プレシーズンの手応えを。

 11月はキヤノン、トヨタ、三菱重工と戦って、最終スコアは負けていますが、いずれも前半は互角に戦えていました。後半はメンバーをいろいろ試している感じもあったので、心配はしていません。
 手応えと成長を感じました。特にコンタクト局面は強くなっている印象です。延岡合宿の成果が出ていると思います。

 藤井(雄一郎)さんのアタックと(長谷川)慎さんのスクラム、2人の得意分野がうまく絡み合えば、上位チームにも一泡吹かすことができると期待しています。
 シーズンを通して成長し、まずはベスト4争いに食い込みたいですね。

――グラウンド外も教えてください。今季のスポンサーの成果は。

(11月28日にスポンサーなど関係者を招待した)2023-24シーズンキックオフパーティーには約200名の方々に来ていただきました。またパートナー企業の社数は11月末時点で106社となっており、昨季終了時点では84社でしたので社数は順調に伸びています。

 また、今季はホストゲーム8試合すべてにマッチスポンサーをつけることができそうです。12月、1月の試合はすでに決まっていて、3月、4月も順調に商談を進められています。昨季は半分くらいでしたので、ありがたいことです。

 ただ、売り上げはもう少しあげていかないといけません。1年目は3億円、2年目は3億1000万円、そして今年は3億4000万から6000万円の間になりそうです。本当は4億円を超えたかったですね。

――微増の要因は。

 1年目はチームがゼロから始まるということで、いろんな企業さんから応援していただき、予想を大きく上回りました。
 ただ、2年目、3年目ははじめて名刺を交換するところから始まり、提案して検討していただくという通常のプロセスを踏みます。なのではじめから金額が1000万、2000万円ということにはならず、スポンサー商品の最低金額を50万円に設定しているなかでまずは100万、200万円からという企業さんが多いです。

――来季に向けてはどうアプローチしていく。

 一人が担当できる社数は限られているので、営業担当は絶賛募集中で、もう1人、2人増やそうと考えています。いまは責任者含めて3人。自分の仕事も、多くは営業になりますが。

 われわれプロスポーツクラブは、スポンサーの契約にいついては1年に1回の商談になるわけです(ブルーレヴズは主に6〜8月)。その商談を迎えるまでの関係作りがすごく大事になる。ブルーレヴズを応援したいという気持ちになってもらう、ラグビーに対して熱い思いを持って応援していただくための関係作りです。「(営業担当の)◯◯君のためなら応援するよ」と言っていただければ本望です。1回お会いして終わりではなく、フォローし続けることが大切。その分、営業担当の人数が必要になります。

 来季は、まずは在庫(スポンサーを露出できるスペース)を売り切ることにチャレンジしていきます。ジャージーのスポンサーは昨季から変わっていません。背中の上やパンツの下に空いたスペースがまだあります。
 将来的には単価を上げていきたい。ただ、試合数が増えたり、チームが強くなったり、注目度が上がったり、観客動員が増えたり、テレビ露出が増えたりしないと、納得を得られるものではないと思っています。

――スポンサー料を最低50万円からに設定しているわけは。

 50万円はサッカーやバスケと比べても安くないと思います。5万円、10万円のケースもあると聞きます。広く支援を募るにはその方がいいと言う意見もありますが、その形を取っていません。それは(Bリーグの)栃木や茨城の時でも徹底していました。
 スポンサーの数を増やしたいと思うと、どうしても価格を下げる方向に意識が向きがちになる。でも本来は、どうやって自分たちの評価を高くするかに目を向けるべき。どういうブランドイメージにするか、どうやってメディア露出を増やすかなどを考えるということです。

 これまでサッカーやバスケなどは自分たちの価値を過小評価して、単価を安くしてでも支援を請う傾向がありました。
 べらぼうに高いのは当然理解されませんが、(まだまだマイナー競技の)ラグビーであってもサッカーのJ2クラブやバスケのB1クラブと同等の評価をしてほしいと思っています。
 ラグビー界全体で価値を上げていきたいですね。各クラブとはエリアも違うので競合しない。なので情報を隠すことはしません。われわれよりも高く売っているクラブがあるなら、われわれもそこにチャレンジしないといけないと思っています。刺激し合う関係でいたいです。

――ホスト開幕戦(12月17日・神戸S戦)のチケットの売れ行きは。

 チケットはW杯効果で販売を開始した直後にグッと売れた分、いまは鈍化しています。1万人を超えそうですが、(目標である満員の)1万4000人にはまだ足りない。開幕までの残りの期間でどういったプロモーションをしていくか、まさに議論しているところです。

 ラグビーは40、50代がボリュームゾーンで、20代、30代、そして10代からはなかなか興味を持ってもらえていない課題感があります。
 ブルーレヴズでも40代、50代の方で半分くらいを占めています。いま若い人たちはバスケに高い関心がある。
 われわれとしては、その対策として社内で「U29会議」を立ち上げました。29歳以下の社員が10人くらいいるので、若者向けのイベントや告知を一定の予算の中で自由に企画してもらおうと。1月13日のホストゲーム(東京SG戦)で彼らの企画がおこなわれる予定です。

――確かに若い人たちのバスケ人気は加熱している。

 若者の目に触れる機会が多かったと思います。バスケ W杯がメディアでかなり取り上げられていました。
 でもやはり大きいのは、BリーグがSNSのプロモーションをきめ細かくしっかりやっていること。各クラブが相当努力しています。

 観客動員数もめちゃくちゃ伸びています。インドアで冬でも寒くないし、得点の機会がたくさんあってルールもわかりやすい。これはラグビーにはないものですから、うかうかしていられません。
 ラグビーも、各クラブが地域にしっかり根を張って、コアファンをどう楽しませるか、20代の新規ファンをどう獲得するかを、考えないといけない。リーグや協会がしっかりプロモーションをしてほしいという意見も多いですが、それは違うと思っています。

 本質的には各クラブがホストエリアでどれだけラグビーを見たい人を増やせるか、若い人たちに関心を持ってもらえるか、これをひたすら模索し続けることが必要です。
 Bリーグはいま、その両輪がうまく回っています。各クラブが必死にやっているなかで、W杯での大きな露出があった。人気がハネるのは必然だったと思います。

 この「(各クラブが)必死にやる」状況を作れるかが大事なんです。つまり、独立採算でやるということ。そうでないと拍車はかかりません。
(プロクラブの)われわれの場合は稼がないと極端な話、チームがなくなる。経営者として僕も毎年評価される。死に物狂いになるわけです。

――思えば、東芝ブレイブルーパス東京、浦安D-Rocks以降、独立分社化するチームは現れていません。

(社内の中で)事業化しているクラブは多くなっています。それはもちろん良い流れなのですが、とはいえより大きな成長はないと思っています。3年後に売り上げ◯億円を達成するとか、リスクを取って事業を拡大させていくとか、株主から評価されるとか、そういったことは社内の事業部という形態ではあまり問われませんから。クラブの独立分社化を早い段階でラグビー界は進めていかなければいけないと思っています。



PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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