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「あらためてその存在の大きさに気づく」。「嘘だと思っている」。堀江翔太引退へ、周りの反応いろいろ

2023.12.07

引退発表会見後、すぐにグラウンドに出てトレーニングをした堀江翔太。(撮影/松本かおり)



 堀江翔太が引退する。

 ラグビー日本代表76キャップの37歳は、自身が積み上げてきたトレーニング、身体の使い方を伝え広める活動に注力すべく、おおよそ「1年半前」には辞めるタイミングを決めていたという。

 その思いを公にしたのは12月6日。所属する埼玉パナソニックワイルドナイツの拠点でのことだ。まずは朝のチームミーティングに先立ち、同僚へ報告した。

 正午には記者会見に出た。まもなく、ニュースサイトのトップページに引退の報せが載る。本人のスマートフォンにも、大量の通知が届いた。

<辞めるの?>

 送り主はリーチ マイケル。東芝ブレイルブーパス東京の一員で、堀江にとっては4度のワールドカップを一緒に戦った日本代表の盟友だ。

 リーチからもらったメッセージについて堀江が話したのは、午後の練習を終えてからだ。昼の会見で約1時間も記者の質問に答えたうえ、発表後最初のトレーニングを経てさらに取材に応じた。
 堀江は来年5月までの国内リーグワンを戦い切ったうえで、スパイクを脱ぐ。

「(リーチへの返事は)『シーズンが終わってから辞めるよー』って。何人かは、(今季のプレーを)やらずに辞めると思っているかもしれないですね」

 繰り返し強調するのは、「もちろん、できる。調子よくできている」という感覚だ。心身の状態はよく、進化を実感している。師事する佐藤義人トレーナーも、「(引退は)寂しいですね。(肉体は)落ちていない。むしろ上がっています」と認めるほどである。

 本人の意志は、固い。

「1年半、考える時間があったので」

 ワールドカップ後の国内リーグを最後の舞台に定め、その旨を開幕直前に伝えると決めたのは、応援してくれた人たちに雄姿を見てもらうためだ。

「国内でプレーしている姿をファンの人に見せるというのも恩返しやし、パナソニックでプレーすることはパナソニックの恩返しになる」

 ワイルドナイツの坂手淳史主将は、自軍、さらには日本代表で、8学年上の堀江と正HOの座を争ってきた。

同じHOのポジションで多くを学んできた坂手淳史(左)と、1番、2番で長くスクラムを組んできた稲垣啓太。(撮影/松本かおり)

 引退の件を聞き、それまでに見た情景を思い返した。

 今秋のワールドカップフランス大会に出た堀江は、タックル、スクラム、ランで圧倒的なインパクトを示していた。坂手はしみじみと話した。

「(引退の)話を聞いて、あれだけのパフォーマンスを出していたのは、そういう(日本代表でプレーするのはこの大会が最後だという)気持ちもあったからかな、と。賭ける思いが、プレーに出ていた」

 堀江はどんな存在だったか。記者団に聞かれて答えた。

「プレーだけではなく、いろんな所に気が回るところ、コミュニケーション力が高いところもお手本になる。今年も一緒にできるので、いろいろと吸収していきたいと思っています」

 日本代表、ワイルドナイツでSOを担う松田力也は、堀江のリタイアを「僕はいまだに信じていないし、嘘だと思っています」と捉えた。

 2019年の日本大会に出たあたりから仲を深め、公私で行動を共にすることが増えた。佐藤氏を紹介してくれたおかげで、昨春に左ひざ前十字靭帯断裂の大ケガをしても首尾よく戦列に戻れたと考える。

 フランス大会日本代表の正SOとして、ゴールキック成功率95パーセントと高い結果を残した。これから円熟期を迎える29歳は、「考え方、メンタル、ラグビーのこと…。堀江さんと長く過ごしたからこそたくさん学ぶものがあり、あの舞台(ワールドカップ)でも自分のやりたいようにできた」と感謝する。

 尊敬する先輩と一緒に戦える時間は、残すところあとわずか。初戦は12月10日に埼玉・熊谷ラグビー場でおこなわれる。昨季3位の横浜キヤノンイーグルスと戦う。
 シーズン全体を見据えて松田は言う。

「(決勝で)勝って堀江さんを送り出す。何も言わなくても、そういうムードだと思う。堀江さんの泣くところが見たいです。人前で、大泣きしてもらおうかなと」

 チームを率いるロビー・ディーンズ ヘッドコーチは、堀江のセカンドキャリアへ向かうマインドに好印象を抱いている。

「嘘だと思っている」と松田力也。(撮影/松本かおり)

「素晴らしいキャリアを重ねるほど(身を引く)潮時が難しくなりますが、その意味では彼はいい位置にいる。このシーズンを悔いの残らないようにしてくれれば」

 堀江はワイルドナイツで2013年度から4季、主将を務めている。2014年就任のディーンズにとっては、このクラブを率いるようになって最初に手を組んだ主将である。当時は伝統的な堅守速攻のスタイルをブラッシュアップすべく、防御の出足をよりシャープにさせていた。指揮官の述懐。

「チームのラグビーをそれまでと違う風にすべく、一緒にクリエイティビティを担っていました。私自身、楽しくできました。常に進化しなければいけないことが難しいところなのですが、彼はそれを達成し続けていた。相手チームに分析されるなかでも、自分のパフォーマンスを発揮していた」

 続けるのは、生けるレジェンドを賞賛する言葉だ。日本代表がワールドカップで結果を残してきた歴史の流れに堀江がいたと、再確認させる。

「いるチームをそれまでになかった最高の地位に持ち上げた選手。2015年のブライトンでの勝利(イングランド大会初戦で南アフリカ代表を制した)、2019年の日本大会での決勝トーナメント進出…。合計4度のワールドカップ出場は素晴らしいことです。さらに彼は、ファンの皆さんがわからないところで、すごく多くの仕事をしています。身体やマインドをどう管理するかに力を入れていて、プライベートと仕事のバランスもよく取っています」

 若き日の堀江の背中を追ってきたひとりに、左PRの稲垣啓太がいる。

 2013年度のトップリーグで新人賞に輝き、2014年以降は日本代表に入って不動の存在となった通称「笑わない男」。今回の報告を受けて言った。

「(ワイルドナイツに)入った時から背中を見て育ちました。偉大な人がチームから去る。皆、あらためてその存在の大きさに気づくんじゃないでしょうか。誰にでも終わりはある。ラグビーができる時間は無限じゃない。そう実感したと思う。ロビーさんも言っていました。『本来いるはずの人間がチームを去る時が来る。誰にでも起こりえる』。その瞬間、皆の表情は違う感じがしました」

 ワイルドナイツに入ってからの約3年は、よく堀江に「怒られていた」。先輩の「立て!」という叱咤を肝に銘じ、グラウンドに倒れている時間を減らすようにした。一緒にいるだけで、自身のスタンダードを引き上げてもらえた。

 何より堀江自身が先んじて海外に出たり、年齢を重ねてもなお向上する姿を示したりと、その一挙手一投足で周りに刺激を与えていた。稲垣は続ける。

「色んなチームの人間が堀江さんをリスペクトしているでしょう。日本のラグビーの基盤を気付いたイメージが、僕の中にある」

 稲垣も松田と同じように、堀江のラストシーズンによい結果を残したいと思っている。ただ、その気持ちをわかりやすく表現することはなかった。あえて、そうしなかったのだろう。

「それ(内なる思い)を口にするか、というのは別な話です。しっかり目の前の試合を勝って、それを積み重ねていって、最後の最後に、去年の悔しさを忘れないで持っていたら、それでいいと思います。そして最終的に結果が出た時に、あぁ、堀江さん、よかったねという風になればいいんじゃないかと。堀江さんもそういう気持ちでしょう」

 昨季はプレーオフ決勝で敗れている。雪辱を果たすための第一歩として、12月10日のホストゲームをにらむ。


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