日本ラグビーにとって、恩人の一人と言っていいだろう。
まもなく始まるリーグワンのディビジョン3、中国電力レッドレグリオンズのエドワード・カーク(FL/NO8)だ。
2016年に発足し、2020年まで活動したサンウルブズ。その初代メンバーの一人として、スーパーラグビーを戦った。
同チームでキャプテンを務めたこともある。
2017年からキヤノンに所属し、広島にやって来たのは2022年シーズンに向けての準備期間からだ。
きっかけは2021年6月。1試合限定で復活したサンウルブズのメンバーとして戦った、日本代表強化試合だった。
キヤノンとの契約は終了していた。
試合後の会見で「日本でプレーを続けたいのですが、まだ何も決まっていません」と話した。
後日、レッドレグリオンズから誘いの連絡が入る。広島で暮らすことを決めた。
「サンウルブズの立ち上げ時と似ていると思いました。(リーグワン発足で)新たに強化を進めたいと考えるチームの助けになりたいと考えました」と当時、語った。
レッドレグリオンズでの過去2シーズン、16試合に出場。昨季は出場した全9戦で8番を背負い、フル回転した。
日本でプレーを始めて8年が過ぎた。
まもなく始まるシーズンはレッドレグリオンズでの3季目。少しずつ力を高めるチームの変化を感じている。
「若い選手も多い。その選手たちの成長により、チームは2年前と比べてエナジーを得ています」
チーム初の外国人選手として、周囲の仲間たちに刺激を与えてきた。プロとしてのラグビーへの取り組み方は、社員選手たちにとっても参考になる。
仕事を終えてグラウンドに立つとき、意識はプロフェッショナルでないといけない。
そうでなければ、競争の激しいリーグの中では取り残されてしまう。
「ディフェンスやブレイクダウンでのスキルだけでなく、ラグビーと向き合う時の振る舞いや、1週間の過ごし方などをアドバイスしています。特に、FWの若い選手たちは質問してくる機会も多い」と言って目を細める。
選手としてさらなる高みを目指すとともに、周囲のコーチ的存在である現在。
32歳は、セカンドキャリアを考える年齢でもある。
オフの時間を使い、母国オーストラリアでコーチングの経験値を高めるだけでなく、普段からオンラインでの勉強を続ける。
メディアについての知見も広げている。
個性の違う一人ひとりの選手たちと真摯に向き合う。
それがコーチングの第一歩なら、母国だけでなく、カルチャーの違う日本で、指導経験を積める機会は貴重だ。
同じことを言っても、オーストラリア選手と日本人選手は、コーチと向き合う時の姿勢が違う。
「日本の選手は、素直に受け入れてくれることが多いのですが、オーストラリアでは、選手たちが自分の意見をぶつけてくることも少なくありません」
そういった違いを知ることも、自分の将来に役立ちそうだ。
広島は、母方の祖父母が出会った場所でもある。
オーストラリア軍の従軍医だった祖父と、看護師だった祖母。ふたりは広島の居酒屋で出会ったそうだ。実家には、日本人に混じって写る2人の写真がある。
穏やかな気候や人のあたたかさが「故郷のブリスベンに似ている」と話す。
この街で、仲間、ファンを、もっと笑顔にする。