半田裕己は、近大の主将だ。
同期でHOの平沼泰成と「共同主将」の体制をとる。近大としては初めての試みだった。
愛くるしい顔立ちからは、リーダーの威厳というより、優しさを感じさせる。
本人は苦笑する。
「これまでリーダー的なことをあまりやってきませんでした。泰成も正直、キャプテンタイプではないんです。ほんまに今年のキャプテン、誰がやんねんって感じだったと思います」
4年生の代は例年に比べ人数が少なく、Aチームに入るメンバーも限られている。昨季からのレギュラーは、共同主将の2人だけだ。必然的に、キャプテン候補に名前が挙がった。
「正直、それまでは覚悟が決まっていませんでした。でも去年の最後、京産に負けた試合で2人ともプレーがあまり良くなくて悔しい思いをした。試合が終わった直後に、来年2人で一緒に頑張ろう、ほんまに勝ちにいこうと。僕から声をかけました」
キャプテンになれば自ずと人前で話すことが増える。はじめは上手いこと喋れなかった。そのことで、仲間たちを不安にさせたと思う。
「OBの方や現役の前で話す時、2人とも笑われてました。大丈夫かよ、と。でも日が経つにつれて上手くなったと思います。要点を伝えられるようになりました。泰成と、お互いに成長したなと」
役職は、人を成長させる。
スタンドオフとしてプレーに関する指示はこれまでも出してきた。4年生になって増えたのは、チームを鼓舞する声だ。
試合後の会見で記者から「一番に声を出している」と言われた時は嬉しかった。
後輩の目からは、より体を張るようになったようにも映るという。
「キャプテンが一番に体を張らなければいけないというのは、竜人さん(福山・2季前の主将/現相模原DB)を見て感じていた。ひたむきさは意識しています」
教育実習もリーダーの階段を上る後押しをした。社会科の教員免許を取得するため、春に母校の四條畷中に通った。
「教えたのは第二次世界大戦で、めちゃくちゃ難しかったです(笑)。いろいろ大変でしたけど、そこで周りを見る力がついたと思います」
4回生になって自身の成長を実感するとともに、同期の成長も感じた。
「僕の学年は思っていることを言えない学年でした」
シニアとジュニアでチームが分かれたとき、上のチームであるシニアに入るメンバーが少なかったから、どうしても同期が一緒にいる時間は限られた。
そこで、PRの森山優大が提案した。
「本音で話そうと。1個下の学年はみんなで飲みに行って、ラグビーの話を涙を流しながら熱く語っていると聞いていました。僕らもそれをやろう、と。シラフでしたけど(笑)。でも泣きながら思いを話してくれた人もいました。そこから学年の雰囲気は変わったと思います。それぞれの立場でみんながリーダーシップを発揮してくれるようになりました」
学生コーチの波田怜央は、4回生になってからこの役職に就いた。もともとは選手だ。脳震とうに悩まされ、部を辞める選択肢もあった中で、スタッフとしてチームに残る決断をした。そうした人の思いに触れた。奮い立った。
近大はここまで3勝3敗として4位以下が確定、入替戦出場の可能性もない。リーグ最終節の12月2日は立命館大と戦う。勝って今季を締めくくりたい。
「後輩たちに良い形でバトンをつなぎたい。どれだけのものを残せるかにフォーカスしたいと思います」
ラストゲーム、全力でいく。