本人が謙遜する言葉に、周りが笑った。
「ただのメンバー外です」
各クラブから1名ずつが都内会場へ集まる国内リーグワンのメディアカンファレンスに、埼玉ワイルドナイツの堀江翔太がいた。
実施日は11月24日。翌日には、加盟クラブの練習試合が目白押しだった。各クラブとも、メディアカンファレンスへの参加選手を決めるのには熟考を要した。
日本代表としてワールドカップに4大会連続で出場してきた37歳の堀江は、25日に埼玉・熊谷ラグビー場でおこなう東京サンゴリアスとのトレーニングマッチには出ない予定だった(40分×2、30分×1の変則マッチで41ー48と敗戦)。
だから、都内のカンファレンス会場へ来るのは問題なかったのだ、という意味での、「ただのメンバー外」。ちなみに堀江が参加を辞退した場合は、オーストラリア代表のマリカ・コロインベテ、もしくは2022年入部で地元出身の橋本吾郎が出る予定だったという。
本番になれば「メンバー外」どころかリーグワン初代MVPでもある主力級HOは、この秋、フランスでワールドカップに臨んだ。
グループリーグ2勝2敗で決勝トーナメント行きを逃したのを受け、今後の日本代表が勝つには「個人の力を上げないと」。戦術理解度やチーム力が盤石と感じただけに、課題を明確にしている。
本人も帰国して早々、個人トレーニングを始めた。京都へ出向き、2015年から師事する佐藤義人トレーナーと、新たな方針で身体作りに励んだ。
「体重を上げてフィジカルを上げるのではなく、体重を絞ってフィジカルを上げられるのかどうかという実験が、僕のなかであって。身体の使い方でどうにかなるんじゃないかと。それはちょっと、提案しました」
一般的に「フィジカル」を高めると言えば筋量および体重の増加を試みそうなところだが、堀江は「身体の使い方」を突き詰めることで強さを生みたいと考える。その流れで、「体重を絞ってフィジカルを上げられるのかどうかという実験」をするわけだ。もともと「107キロ」あった体重を「104、5キロ」に定め、かつ、コアを強靭にする。
「これがうまいこといけば、体重が増えないで困っている選手もそれを覚えてしまえば(強くなれる)…となる。『こういう身体の使い方をすれば、タックルも負けずに行けるよ』って。それを一回、自分で試してやらんと」
本人は今後の代表活動への思いは、「フラット」。あくまで、これからのリーグワンでより良い選手であろうとするのに専心する。
チームへは「(11月)16日」に合流した。
「それ(チームへの合流)に向けて佐藤さんと一緒にやってきたんで、身体的には大丈夫です」
一方、新しいリーグワンのシーズンへ臨む気持ちについて聞かれれば、「メンタルって、やってみなきゃわからない」とも話す。
2015年を振り返ると、同年9月からのワールドカップ・イングランド大会、同11月からの国内トップリーグへ参加。翌年2月以降は、国際リーグのスーパーラグビーに日本のサンウルブズの初代主将として挑んだ。そのシーズン中、新しい代表チームでも船頭役を担った。知らぬうちに心身がすり減った。
この経験を踏まえてか、自分の、仲間の状態と丁寧に向き合いたいという。
「僕自身もそうですけど、うちは代表に行っている選手が多いから(日本代表だけで11名)、そのへんも気にしながら、引いて見ながらやらんと。パフォーマンスの上がっていない選手がいたら、メンタル的にいっぱいになっているかもしれないので。大丈夫と言いながら大丈夫じゃなかったりすることが結構、あるので」
旧トップリーグから通算して一昨季まで2連覇も、昨季はレギュラーシーズン1位通過と下馬評を有利にしながらプレーオフで準優勝に終わっている。
今季の開幕節は本拠地の埼玉・熊谷ラグビー場で、前年度3位の横浜キヤノンイーグルスと戦う。沢木敬介監督のもと、一丸となった個性派たちのハードワークが特徴だ。
ワイルドナイツは組織防御を持ち味とする。その一員たる堀江は、こう展望する。
「キヤノンもうちも総合力がいいチーム。どこかに偏っていない。クロスゲームになる。やる方は嫌ですけど、見る方はおもしろくなると思います」
昨季のプレーオフ準決勝で対戦した際は51ー20と快勝のワイルドナイツだが、取材のあった11月24日時点で南アフリカ代表勢は合流前だ。
開幕時までには陣容が整うにせよ、堀江は「まだ来ていない海外の選手たちは、試合しながら、調整しながらになる」と読む。持ち前の視野と想像力でクラブ自慢の「総合力」を整え、白星発進を目指す。