観戦者が続々とスタジアムに向かう時間帯、3つの高校のラグビー部の部員たちが集まっていた。
11月23日に国立競技場でおこなわれた100回目の早慶戦。その試合の観戦に、群馬から3校のラグビー部が足を運んだ。
高崎高校、前橋高校、太田高校の3校だ。
地元で、「たかたか」、「まえたか」、「たたか」と親しまれる県立の進学校で、ラグビー部の活動も活発だ。
この日は慶大ラグビーのOBたちの招待を受け、顧問や引率者も含め、70人を超える参加者が伝統の一戦を観戦した。
招待者側には思いがあった。
身近な先輩や関係者と交流を持つことにより、大学トップレベルでプレーすることが遠い世界の話ではないと感じてほしかった。
今回の呼びかけをおこなった中心人物のひとりである反町雄輔さん(44歳)が言う。
反町さんは高崎高校から一浪して慶大に入学し、青春時代を日吉で過ごした人だ。
4年生になってレギュラーとなった。慶大ラグビー部での濃密な時間が自身の人格を形成してくれたと感じている。
「今回は群馬の高校に声をかけさせていただきましたが、今後はいろんなOBたちが、他県や他地域の高校生たちに、同じような呼びかけをやっていってくれたらいいな、と思っています」
自分たちがやることは、強制でも強引な勧誘でもなく、きっかけ作りだと思っている。
今回集まった高校生たちに、プレゼンターとして入場券を手渡したのはOBの黒澤利彦さんだった。
高崎高校から慶大に進学し、慶大ラグビー部やクボタで監督も務めた方だ。
群馬県の大先輩は、チケットを渡す前に少年たちに呼びかけた。
自分も何十年も前は、君たちと同じ立場だった。ラグビーをやってよかった。
そんなことを話した後、「ぜひ、どこかの大学でラグビーを続けてください」と続けた。
それが慶應だったら嬉しいけれど、とは話したが、ラグビーを続けてほしい気持ちが第一だった。
現在、慶大ラグビー部に所属する進学校出身の部員たちがエールを送る時間もあった。
近くを通りかかった廣瀬俊朗さんも輪に加わり、現チームの指揮を執る青貫浩之監督も駆けつけた。
同監督は、「僕らもチャレンジしています。みんなも」と呼びかけた。
高崎高校のLO、山口幹太は大学ラグビーへの憧れを胸に秘めた1年生だ。
小学生の時に高崎ラグビークラブで全国大会を経験。その時に勝つことの楽しさを知った。大学でもラグビーを続けたい希望が頭の中にある。
立派な体格は「まだ成長中」という少年は、同じ高崎RC出身の早大HO佐藤健次に憧れ、「高崎高校と同じように、勉強とスポーツの両立ができそう」というイメージで、進学先に筑波大を思い浮かべる。
この日の100回目の早慶戦を見て、どう思ったかは分からない。しかし、両チームの選手たちが発する熱を感じたのは確かだろう。
3年後、何色のジャージーを着ているか分からない。
ただ、大学でも楕円球とともに生きていてくれていたら、このプロジェクトは成功なのである。