ラグビーリパブリック

明大・伊藤耕太郎、廣瀬雄也主将の欠場にも「全員がまとまれるチャンス」と決意。

2023.11.18

ランを持ち味とする明大のプレーメーカー、伊藤耕太郎(撮影:向 風見也)


 少し、フィールド上で言い争いになった。

 11月5日、埼玉・熊谷ラグビー場。明大ラグビー部4年の伊藤耕太郎は、加盟する関東大学対抗戦Aの慶大戦に出ていた。司令塔のSOを務めた。

 54ー14と大量リードで迎えた後半14分。自陣10メートル線付近左のスクラムから、伊藤耕は大外へ展開するサインプレーを指示した。

 しかし廣瀬雄也主将が、異なる動きをしたいと求めてきた。

「絶対、いけるから」

 敵陣22メートル線エリアより向こう側へのキックを狙った。それがバウンドしてタッチラインを出れば、「50:22」ルールに伴い自軍ラインアウトを得られるが、果たして成功できるのか…。そう思った伊藤耕は、改めてパスを回そうと主張する。

 隣のインサイドCTBで先発の廣瀬は、頑として譲らなかった。

 結局、スクラムから出たボールは廣瀬が捕った。いったん、右を向きながら、左側へキック。相手の虚を突き、見事に「50:22」のキックを決めた。

 伊藤耕は改めて、廣瀬の芯の強さを感じた。

「俺はこう思っている、というのを、しっかり持っている選手」

 歴代2位となる過去13度の大学日本一を誇る明大にあって、伊藤耕は廣瀬とともに1年時から主力入り。創部100周年を迎える今季は、経験値のある上級生同士が中心となり段階的に進歩してきた。

「春はチャレンジ。BKなら裏側へのキック、オフロードパスを。FWも細かいスキルを(磨いた)。夏合宿が終わってからはボールを持っていない時の動きなど、細かい部分を徹底してきました」

 個々の技術と連動性を活かし、複層的な陣形を作って攻める。

 FWが3人ひと組のユニットを作るなか、伊藤耕、廣瀬らBK陣は自由自在にポジショニング。的を絞りづらくさせ、数的優位を作る。

「前を見て判断する。空いているスペースにアタックする。(戦術的な)原則はあるのですが、BKは自由に」

 見据えるのは、2018年度以来の大学選手権制覇だ。

 今度の慶大戦では白星をつかんだが、66ー40と打ち合いを強いられていた。入れ替わった選手同士の連携などに、ややトラブルが生じた。

 この試合に先立ち、選手同士のミーティングを試合前日のみから「週に4回」に増やしている。普段から意思疎通を図ることで、慶大戦で見られた課題を徐々に克服したい。

「以前はコーチに頼ってしまう部分がありました。提示されたものをやりきることはできていたのですが、主体性(が必要)。試合中にコーチはいないので、流れが悪い時間帯も自分たちで建て直さないといけない。(普段から)自分たちで相手を分析し、やるべきことを明確にするのが大事かなと」

 春頃に導入しながら、やや疎かになっていた習慣も再徹底する。

 下級生への問いかけである。

 練習の合間や終了後に円陣を組む際、リーダーシップのある4年生ばかりが話すのではなく「どうだった?」と3年生以下の部員に質問する。個々の当事者意識を促す。

 伊藤耕はこうだ。

「僕たちが引っ張ることはもちろん、下級生がもっとプッシュしてくれることがチームの総合力アップにつながります」

 挑戦に試練はつきものだ。

 トレーニングのさなか、廣瀬がうずくまったのは11月15日。対抗戦Aの山場となる、選手権2連覇中の帝京大とのゲーム(東京・秩父宮ラグビー場)を4日後に控えていた。

 廣瀬は痛みと悔しさからグラウンドを拳で叩き、周りも動揺を隠せなかった。明大は向こう数週間、主将抜きで戦わねばならない。

 もっとも今季は、神鳥裕之監督いわく「4年生は気が利き、頼もしい」。かねて廣瀬は、ルビコンと呼ばれる3軍以下の同級生が主体的にミーティングを開いてくれるのが心強いと感じていた。

 伊藤耕も、その「頼もしい」学年のひとりだ。

 リーダーが失意の退出を余儀なくされた日も、しばらくすれば我に返った。廣瀬が戻るまでの心構えに触れる。

「最初はひとりでめちゃくちゃ焦っていたのですが…。ネガティブに捉えるんじゃなく、全員リーダーとなってやっていける、まとまれるチャンス(と考える)。僕自身、これまで、何だかんだと雄也に頼っている部分がありました。試合中、意見が割れた時に、どう声をかけたらいいかわからないこともありました。でもこれからは、BKだけではなくFWもまとめる。僕のチーム、というマインドで行きます」

 Z世代と称される。子どもの頃から周りにスマートフォンがあった。

 廣瀬ら複数の仲間がインターネット上の書き込みの一部に心を悩ませるなか、独特な走りを繰り出す伊藤耕は「気にしない。エゴサもしないです」。マイペースな性格はそのまま、組織をドライブするつもりだ。

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