ラグビーリパブリック

連載①ユース世代を考えよう。[U20編]

2023.11.07

前列左から浦安DRの栗原徹コーチングコーディネーター、大久保直弥U20代表HC。後列左から日本協会の中山光行CRO、野澤武史TIDマネージャー(撮影:BBM)

 ワールドカップ2023フランス大会で、日本代表は2勝2敗の3位でプール敗退に終わり、2大会連続の決勝トーナメント進出とはならなかった。

 望んだ結果を得られなかった原因はいくつか考えられるが、4年後や8年後、さらにその先を見据えた時に、メスを入れなければいけないのはユース世代の強化、育成、普及の体制だ。

 特にU20の強化は日本ラグビー界にとって、長年の課題とされてきた。
 日本ラグビー協会で全カテゴリーの代表強化を担う事業遂行責任者(CRO)の中山光行氏は、「U20世代の強化がこれから一番大事になる。この世代をどういう形で鍛えていくかが、日本代表の強化に大きく関わってくる」と話す。

 今年4年ぶりに再開されたU20チャンピオンシップでは、日本は5戦全敗。トロフィーへ降格した。
 参加チーム数が12となった2015年以降、日本は昇降格を繰り返し、チャンピオンシップでの勝利は2015年度の一度のみに終わっている。

 今大会からフル代表と同じ代表資格(5年間の継続居住など)が適応され、これまで出場していた高校から来日した留学生を選出できなくなった。
 その分、今大会の結果を過去の大会と同列で評価するのは少々酷だが、高校代表は欧州の強豪国とも対等に戦えているだけに(今年3月はアイルランドに1勝1敗)、U20の強化に変化を加える必要があるのは明白だ。

 他国ではU20のすぐ先にプロの世界が広がっている。大学の部活動でラグビーを続ける選手がほとんどの日本とは、競技に打ち込む環境が大きく変わるタイミングだ。
 それでは、全員が高校卒業後にプロ選手になればいいのかというと、それが正しい道とは言えないだろう。いまの環境をうまく活かしながら、ジャパンスタイルを模索する必要がある。

 今回は中山氏のほかに、浦安DRのコーチングコーディネーターで今大会は代行HCも務めた栗原徹氏、新たにU20代表HCに就任した大久保直弥氏、そして日本協会TIDマネージャーの野澤武史氏を招き、対談形式でユース世代の問題点を洗い出し、解決策を訊いた。

 野澤氏がまず指摘したのは、「大学生の公式戦の少なさ」だ。
「大学ラグビーの良い側面は、満員の国立で試合ができること。あの緊張感は他国にはないのでは。ただ、(主要3リーグ所属のチームは)1年間で公式戦が7試合しかしない。プラスαで選手権の数試合。その中で競る試合は3、4試合程度」

 昨季まで慶大の監督だった栗原氏も、「練習試合を含めれば、試合自体はたくさんやっている。ただ対抗戦と練習試合で大きくパフォーマンスが変わる選手もいた。やはり緊張感のある試合をやれるかは大事」という。

「提案されたことがあるのは、U20の学生大会をジュニア選手権(B戦)とは別にやるのはどうかと。世代的には大学1、2年が多く出るC戦に近いのですが、”大会”となれば先ほど話した緊張感がグンと高まる。そうすれば極端な話、直弥さんはその大会とAチームで試合に出ている選手だけを見れば、セレクションを完結できる(漏れなく選考できる)。大学同士では難しいので、関東協会や日本協会に主催してもらう必要がありますが」

 大久保氏も、「ジャパンの強化を考えれば、U20チャンピオンシップで結果を残すことだけを考えればいいということではない」と話す。

「大会前の数か月だけコミットするのではなく、選手権を終えたらU20のチームをすぐに編成して、(開催中の)リーグワンの前座試合を半年間やらせてもらうのはどうか。相手はパナソニックのBチームとか、Aで試合に出ていない選手と対戦する。メンバーの入れ替えもしながらチームで半年間動くことで、チームとして成長できる。セレクションをずっとやっていても、チームは成長できないですから」

 今年度のU20は、マネジメントサイドの準備不足が反省として挙がった。当初の予定では3月上旬にメンバーを固める予定も、最終決定は4月下旬まで時を要した。
 チームとして長期間、動くことによるメリットは大きい。例えばスクラムの押し方を早い段階で意思統一できるし、海外選手との体格差を埋めるための体づくりの経過を見守ることもできる。

 今大会では中山氏いわく、日本はパス回数が4番目に多く、ボールキャリー数は2番目に少なかった。つまり、横にボールを動かせても、前に出られていない。

 現場を指揮した栗原氏は言う。
「スキルはジャパンも負けてない。スペースにボールを運べればゲインできる。ただ、相手のモメンタムを消せる選手とモメンタムを作り出す選手がほしい。はやめにチームとして動ければ、目標体重などを提示して体づくりをおこなえて、そうした選手を育てられる」

 野澤氏は、U20の課題に「指導の一貫性」を挙げた。これまでU20のHCは長くても2年で交代している。その度にコーチ陣も一新してきた。
「そうすると、次に失敗の経験が生きない。高校代表が結果を出せる要因のひとつは指導に一貫性があるから。高校の先生たちが少しずつメンバーを入れ替えながら、うまく引き継いでいる。一気にコーチ陣が全員変わる、みたいなことが起こらない。U20も組織化するのは必須です」

 東海大の木村季由GM兼監督も、対談の数日後にあった取材機会で似たようなことを口にした。
「大久保さんの上に、中長期的なビジョンを持った役職の方を置く必要があると思います。彼が現場に集中できるように。大学側が懸念するのは、長期間の合宿で学生が授業に出られなくなること。そうしたことは現場のHCではなく、協会の責任のある人が丁寧な説明を持って、理解させる努力をしてほしい。決して大学側が後ろ向きなわけではなく、むしろできる限り協力したいわけですから」

 U20を組織化し、フル代表や高校、U17との連携を密にできれば、本当の意味でのパスウェイの役割を果たすことができるだろう。
 中山氏も「フル代表のHCがしっかり連携をとりながら、下のカテゴリーの技術指導や選手選考をオーガナイズするのが、本来あるべき姿」と話す。

 中山氏はさらに、こうした連携とは別の課題もあると続けた。
「日本の一番のウィークポイントは、U20とフル代表の間の強化がごっそり空いていること。大学3、4年、リーグワンの1年目あたりの選手をいかに強化していくかを考えていかないといけない。本来はジュニア・ジャパンをうまく使って強化していく必要があるけど、現状それができていない(今大会はU20がジュニア・ジャパンとして大会に参加)」

 昨季から導入されたリーグワンのアーリーエントリーをさらに早め、3年生からリーグと大学との二重登録できるようにするのが一つの方策として考えられる。
 アイルランドでは同様の形で強化が進められていると中山氏は言う。
「大学でも練習するし、リーグワンのチームでも練習できて、試合にも出られれば選手として相当伸びる」

 栗原氏も「今回のチャンピオンシップに行って、早い段階でリーグワンにチャレンジしたいと話す選手が何人かいました。このままだと、大会で痛感した強度の高さを自分の中では意識してやっているつもりでも、少しずつ大学レベルに慣れていってしまう」と、その必要性を訴える。

 高校卒業後に、大学を経由せずプロ選手としてリーグワンのチームに直接加入し、はやくから高い強度に触れるのも手だろう。
 今回のW杯のメンバーでいえば、FL福井翔大(東福岡→埼玉WK)やLOワーナー・ディアンズ(流経大柏→BL東京)、SO李承信(大阪朝高→帝京大中退→神戸S)がこのルートにあたる。

 ただし、リーグワンで若手育成を進める難しさもあると中山氏は指摘する。
「パナソニックのような強豪チームだからできるということもあると思う。残りの14人の選手が一流だからカバーできる。他のチームがなかなか18、19歳の選手を起用するのは勇気がいる。そうすると気がつけば3、4年が経ち、同期が入ってきてしまう」

 FWの育成には時間がかかると、大久保氏は補足する。
「FWとBKでは成長曲線が違う。BKの方が早く伸びる(通用する)。FWはまずセットプレーをやらないといけない。フィジカルやコンタクトレベルも、トップとの差は大きい」

 スクラムの強化が本格的に始まるのは、1.5㍍ルールがなくなる大学からだ。対して、リーグワンのチームは大学ほどスクラムを練習では組まない。その分、成長機会が減っている可能性も否定できない。
 摂南大の瀬川智広監督は、「(それまで指揮していた東芝と)スクラムの練習量が全然違う。大学ではしっかり組み込んで、土台を作らなければいけない」と以前明かしていた。

 日本協会は、最短で2035年でのW杯再招致を明言している。その時に主軸となるのは、現在の高校生年代。
 つまり、U20の強化策を早急に考え、実行に移す必要があるのだ。

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