リーグワンの三重ホンダヒートに在籍する近藤雅喜は、選手でありながらレフリーもしている。
取材日より2日前の10月21日は、本拠地から遠い埼玉の熊谷ラグビー場へ移動。埼玉パナソニックワイルドナイツと豊田自動織機シャトルズの練習試合をさばいた。
プレシーズンにあたる夏から秋には、ほぼ毎週末、割り当てられたグラウンドで笛を吹く。高校生からリーグワンをはじめとした社会人まで、各カテゴリーの試合を担当する。
「熊谷が近く感じてしまうくらい、全国のいろいろなところに行っています。リーグワンのプレシーズンマッチも毎週どこかしらでおこなわれ、他のカテゴリーの試合も同時進行でやっています。週末は、どこかのグラウンドにいますね。吹いた試合のレビューには、すぐに取りかかります。グッドな判定もあれば、僕がエラーを起こしている判定ももちろんあります。ついているレフリーコーチの方からいろんなアドバイスをいただきながら、それらの分析をする」
日本ラグビーフットボール協会(以下、日本協会)は2005年、レフリーアカデミー制度を発足。国際舞台で活躍するレフリーを輩出するため、若手を集中的に鍛える。
近藤も今年からこのグループへ入り、期待を背負っている。平日には、同アカデミー制度で組まれる英会話クラスにリモートで加わる。
試合のビデオクリップを見ながら、自身がその場を担当していたらどう話すのかを表現。グラウンド内で笛を吹くマッチオフィシャル、タッチライン際のアシスタントレフリーと、さまざまな立場でシミュレーションする。
後に担当者からフィードバックをもらい、現場仕様の英語力を磨く。
目指すのは国際舞台で笛を吹くレフリーだから、語学力も必須だ。
ラグビーそのものの知識も蓄える。平日は三重でのチーム練習に出るが、折に触れてはFW第1列の同僚へスクラムについて質問。当事者ならではの感触をヒアリングし、レフリーとしてのジャッジに反映させる。
とにかく忙しい。
「いつ、休んでいるんですかね、僕。2~3日まとまった休みというのは、ないです。簡単に言ってしまえば、時間が足りない。選手の時は選手の活動にフォーカスして、少しでも時間があれば——まぁ、朝早くから自分で時間を作るんですけど——それはレフリーの活動に(費やす)…」
地元の愛知でラグビーを始め、大阪の東海大仰星高(当時名称)、明大を経て2017年にいまのチームに入った。
かねて周囲に勧められていたとあり、2022年のシーズン後に日本協会C級レフリーの資格を取った。いまではB級をパスし、リーグワン1部を担当できるA級の資格取得を視野に入れる。
7人制日本代表への選出歴があるだけに、同種目のあるオリンピックにもレフリーとして参加したい。
夢は広がる。
何より責任を感じる。
トヨタ自動車にいた滑川剛人・A級レフリーは、2022年限りで選手を引退した。いまトップレベルの選手とレフリーを兼務するのは、近藤ただひとりだ。
身長189センチ、体重97キロの28歳で、ポジションはFW第2、3列。今年12月から初参戦するリーグワン1部を見据え、今季の目標を語る。
「チームが目指している1部での上位進出に貢献する。また個人としては、よりアスリートの新境地にチャレンジしたい。トップレフリーとしてのパスウェイを歩む過程にあり、背負うものは大きいです。(SH出身の)滑川さんが成功の道を辿っています。次はFWの僕も続いていかないと。覚悟を持って取り組んでいきたいし、もっとレベルアップしたい気持ちもあります」
今秋にフランスであったワールドカップに触れ、「フィジカルの部分(激しさ)がワンランク上がり、キックの使い方の重要性も増している」とも語った。
世界の流れに伴い、国内シーンでもプレースタイル、ルール解釈に変化が見られるかもしれない。
選手の身体能力や判断力が高まっているのなら、「レフリーも、アスリート能力も上げていかないといけなくなります」。話の流れで言った。
「新しいラグビーがどうなるか、予想もつかないです」
自分にしか描けない未来予想図は、不確定要素がある点も含めておもしろい。