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【車いすラグビー日本選手権予選・沖縄大会】無敵のBLITZが貫禄の首位通過を果たす。

2023.11.03

「競技人口の少ない関西で強いチームを作って活気づけたい」と奮闘するWAVESの浜野健二HC。(撮影/張 理恵。以下同)



 10月28日と29日、「第25回車いすラグビー日本選手権予選 沖縄大会」が沖縄市体育館(沖縄県沖縄市)で開催された。

 東京、福岡予選に続いておこなわれた今大会には、BLITZ(東京)、Okinawa Hurricanes(沖縄)、WAVES(大阪)の3チームが出場し、チームカラーを活かした三者三様の戦いが会場を沸かせた。
 総当たり戦を2回実施した全6試合の結果、BLITZとOkinawa Hurricanesが日本選手権(2024年1月開催)の出場権を獲得した。

15年ぶりの沖縄開催となった予選大会で迫力あるプレーを見せた島川慎一(左/BLITZ)と仲里進(右/ハリケーンズ)

 4戦全勝、破格の強さで1位通過を果たしたのは、東京を拠点とするBLITZだ。
 島川慎一、小川仁士、長谷川勇基ら現役日本代表を擁し、さらに今年度は池崎大輔も加わって、登録メンバー9名のほぼ全員が代表経験者というエリート集団である。

 今季初の公式戦となった今回の予選では、攻守において国際試合さながらのスピードとパワーを見せつけ、4試合すべてで相手を20点以上引き離す貫禄の勝利を飾った。

 なかでも、一番障がいの重い「クラス0.5」で国内トップクラスの実力を誇る長谷川が抜群の存在感を放った。

 コートを広く見渡し、豊富な運動量で相手の足を止める。そして、日本代表の岸光太郎ヘッドコーチも認める、国内ナンバーワンの正確な「ヒッティング」(※)で早いトランジションを生み出し、攻撃のリズムを作った。
(※投げる代わりに拳などでボールを打って、パスやスローインをおこなうプレー)

スピードにヒッティングにと存在感を放った長谷川勇基(左/BLITZ)

 体調不良により3か月間「ラグ車」(競技用車いす)に乗っていなかったという長谷川だが、そのブランクをまったく感じさせないキレッキレのプレーでチームの勝利に貢献した。

 また、池崎とともに今シーズン新加入した山村泰史も、最終戦でスタートに起用されるなど様々なラインアップで活躍した。
 22年ぶりに車いすラグビーを始めた山村は、現在55歳。子育てが落ち着き、今年1月におこなわれた日本選手権を観戦して「自分もできるんじゃないか」と復帰を決めた。

 22年前は、かつて日本選手権で5連覇(2000〜2004年)を果たした「チーム フェスタ」に所属し、そのときのチームメートが、ヘッドコーチを務める荻野晃一と島川だった。ラグビーをまた始める、という山村の言葉に、「はじめは冗談かと思った」と笑う島川だが、ラグ車を新調して本格的に競技に復帰すると、誰よりも練習熱心でどんどん上達しているという。

「やってみたら面白くてハマってます」と山村。ムードメーカー的なキャラクターに、チームの雰囲気もやわらかく、楽しくなったそうだ。

22年ぶりに競技復帰した山村泰史は「ラグビーが面白い」と第二の青春を謳歌している

 頼もしい新メンバーも加わり、目指すは日本選手権チャンピオン。
 島川は、「日本一を絶対に獲らなければいけないチーム。気を抜かずに、本大会ではゲーム内容にもこだわって勝ち切りたい」と気合十分だ。
 日本選手権で最多優勝回数を誇る古豪・BLITZが、第17回大会(2015年)以来となる優勝を狙う。

 2戦2勝の2位で日本選手権出場を決めたのは、Okinawa Hurricanes(以下、ハリケーンズ)だ。
 15年ぶりに本拠地である地元・沖縄で予選大会がおこなわれたとあって、会場には家族をはじめ元気な応援団が訪れ、「チバリヨー」と書かれたうちわが揺れた。

 仲里 進、若山英史、壁谷知茂といった現役を含む日本代表経験者が所属する実力派ぞろいのハリケーンズは、連係を生かした「つなぐラグビー」が印象的だった。

 壁谷がサイドライン近くを激走してボールを運び、相手ディフェンスを引きつけたことで生まれたスペースに若山が走る。ボールハンドリングもできる「ローポインター」(障がいの重い選手)、若山がパスを受け取りトライ。クラブチームならではの連係と距離感で得点を重ねた。

チーム唯一のハイポインターとしてアグレッシブなプレーを見せた高校3年生の奥原悠介(ハリケーンズ)

 そして、チーム最年少で唯一の「ハイポインター」(障がいの比較的軽い選手)、奥原悠介の成長が目を引いた。高校3年生の奥原は前回の日本選手権に初出場し、この1年は、スタミナをつけるため、走る練習に多くの時間を費やしたという。
 今大会では、試合を観に来たご両親に「自分がゴールするところを見てもらいたい」と奮起し、鍛えたランに加え、積極的にボールに絡むアグレッシブなプレーでチームを勢いづかせた。

 成長の陰にはライバルの存在もある。言葉を交わしたことはないと言うが、同学年で、障がいのクラスも同じAXE(埼玉)の青木颯志の名前を挙げ、「自分も負けてられない」と力を込める。
 そして、「車いすラグビーは人生を変えてくれたスポーツ。日本を代表する選手たちと戦えるような、味方をしっかりリードできるようなハイポインターになりたい」と目標を語った。

 日本選手権に向け、キャプテンの若山は「キープレーヤーはいないが、コミュニケーションを取りながら全員が最大限に力を出せば、強い相手に対しても戦える。さらに連係の精度を高めたい」と意気込みを語った。本大会でも存分に発揮されるであろう、ハリケーンズのパスワークに注目だ。

 そして、0勝4敗の結果で、プレーオフへと望みをつなげたWAVES(大阪)。
 チーム結成2年目、初勝利を挙げることはできなかったが、1年前の予選大会から見違えるほどの成長を遂げた。

 その成長を大きく促したのが、今年度、WAVESに移籍して選手兼ヘッドコーチを務める浜野健二の存在だ。
 昨シーズンまで、日本代表キャプテンの池透暢がヘッドコーチを務めるFreedom(高知)に所属し、前回の日本選手権では初の日本一にも輝いた。
 神戸市出身・在住の浜野は、「地元・関西のチームでプレーしたいと思った。自分の知識を伝えながら、少しでも強いチームを関西に作れたら」と、WAVESへの移籍を決めた。

 49歳の浜野は、2004年のアテネから2008年の北京パラリンピックまでの間に、アジア・オセアニア選手権や世界選手権に日本代表として出場した経験を持つ。WAVESのヘッドコーチ就任後は、車いすラグビーの戦術をチームに落とし込み、試合に対する気持ちをメンバーに伝えた。

 Freedomや池から学んだことは大きいと話す浜野は、「WAVESが目指すのはチームプレー。コートに出ている4人だけで勝つのではなく、チーム全員が各々の役割をして、みんなで勝つのが一番の理想」と、方向性を明確に示した。

 キャプテンを務める副山大輝も、チームの成長を実感している。
「(浜野の加入で)戦術の理解が深まり、ラグビーというものを知れて、大きな刺激になっている。何よりも、チームプレーが大切なこの競技で、コートでもベンチでもお互いに声掛けができるようになったのが一番の成長だと思う」

 そして、11月のプレーオフ大会に向けては、「プレーオフのためだけに、この1年間、練習してきたと言っても過言ではない。絶対に勝って日本選手権に行きたい」と闘志を燃やした。
 結成2年目のWAVESが、日本選手権・初出場をつかみ取れるのか。プレーオフでの戦いに注目だ。

 沖縄予選の結果により、日本選手権に出場する8チーム中6チームが決定し、残り2枠をかけて、11月25日と26日にプレーオフ大会が開催される。
 SILVERBACKS(北海道)、RIZE CHIBA(千葉)、そしてWAVES。
 最後の切符を手にするのはどのチームか。熱い戦いが予想される。

プレーオフを制し日本選手権の初出場を目指すWAVESの副山大輝(左)と小林和史(右)
攻守の要としてオールラウンダーの活躍を見せた、頭脳派プレーヤー・壁谷知茂(左/ハリケーンズ)(右は荒武優仁/BLITZ)

【第25回車いすラグビー日本選手権予選 沖縄大会】試合結果
◆10月28日
BLITZ ○ 77-7 ● WAVES
Okinawa Hurricanes ○ 50-24 ● WAVES
Okinawa Hurricanes ● 35-61 ○ BLITZ
WAVES ● 9-69 ○ BLITZ

◆10月29日
Okinawa Hurricanes ○ 42-29 ● WAVES
Okinawa Hurricanes ● 37-58 ○ BLITZ


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