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【連載】プロクラブのすすめ⑫ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] ふたりの上昇請負人

2023.11.02

10月21日に開いた記者会見。藤井雄一郎新監督(左)を迎えた(撮影:中嶋聖)

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 12回目となる今回は、アメフトやバスケで培った、チーム力を高めるための考え方を語ってもらった。(取材日10月31日)

◆過去の連載記事はこちら

――キャプテンのクワッガ・スミスがW杯優勝メンバーになりました。

 4年前のW杯の決勝ではメンバーに入れませんでしたけど、今大会は試合に出られて、しかも終盤のピンチの場面でターンオーバーしてチームを救った。あれだけオールブラックスが勢いづいていた時間帯で、ターンオーバー3つです。
 出場時間は毎試合約20分と限られた中でも、ターンオーバーの回数は大会を通じて1位。かなり効果的な活躍をしていたと思います。そんな選手がわれわれのチームの一員であることは、本当に誇らしいことです。

 クワッガはW杯の時でもブルーレヴズのことを気にかけてくれていました。南アフリカとトンガの試合では、試合後に僕が手を振ったら気づいてくれて。そのあとLINEで(トンガ代表で今季加入のチャールズ)ピウタウとの2ショット写真も送ってくれました。クラブのPRにぜひ使ってくれと。

 チームとしてしっかりお祝いをしたいですし、そういう選手がいるということを静岡県内にしっかりPRしていきたいですね。
 もちろんクワッガに限らず、W杯を戦ったピウタウ、藤井さん(雄一郎監督)、(長谷川)慎さん、吉水さん(奈翁・通訳)も。

 今季の開幕前には、コロナが明けたこともあり、自治体の方やスポンサーの方、総勢200〜300名をお招きしたキックオフパーティーを開催しようと思っています。そこでも5人の活躍を労いたい。チャンピオンチームのメンバーがいることも伝えていきたいです。
 日程があえばクワッガの記者会見であったり、知事への表敬訪問であったり、ステークホルダーの皆さまへ優勝報告ができたらと思っています。内内でお祝いするのはもちろんですが、対外的にも彼が自分を誇らしく思えるようなシーンを作りたいですね。

――山谷さんが現地観戦で感じたこと、レヴズでも活かせると思ったことは。

 日本×サモア、ニュージーランド×イタリア、南アフリカ×トンガの3試合を見てきました。
 演出に関しては、そこまで凝ったものはなかった印象です。というのもメインディッシュ(試合そのもの)がめちゃくちゃ美味しいので、味付けしなくていいんですよね。素材だけで十分楽しめる。
 レベルの高いガチンコの戦いの素晴らしさを体感しましたし、6万の観客の盛り上がりそのものがエンターテインメントでした。みんなでウェーブをしたり、歌を歌ったり。
 われわれクラブとしては勝っても負けてもお客さんを楽しませなければいけないので、W杯とは違い演出で楽しませることも大事なのですが、ラグビーそのもので楽しめる状態というのは究極の目指す姿ではありますよね。

 あとは、日本にも歌があるといいなと思いました。日本は「ニッポンチャチャチャ」しかかけ声がない。
 ブルーレヴズにも、阪神タイガースの「六甲おろし」のように、勝った試合後やハーフタイムにみんなで歌って盛り上がるお約束のものがあればいいなと。静岡県歌とか、いろいろ聴いているところです。

――サモア戦では、富士山ヘッドを被った姿が映像で抜かれていました。

 (お笑い芸人の)しんやさんが目の前に座っていたこともありましたが、(映るのは)狙い通りでした。なにか爪痕を残さないと、とは思っていたので(笑)。トンガと南アフリカの試合では、富士山ヘッドだけではなくて、レヴズのジャージーも着ていきました。

――ホスト開幕まで1か月半ほど。チケットの売れ行きは。

 一般販売も昨日(10月30日)から始まりましたが、やはり例年より反応が良いです。W杯でラグビーの注目度が上がっていると感じます。
 W杯で関心を持ってくれた方にきちんとアプローチしていきたいです。われわれのチームのプロモーションだけではなくて、相手チームが例えばサントリーであれば、コルビ選手が来ますし、神戸とのホスト開幕戦では世界最優秀選手のアーディー・サベア選手が来ます。クワッガとのNO8対決も見られる。
 そうしたことをうまくプロモーションできれば、ラグビーに関心の薄い方でも、きっと興味を示してくれる。W杯で起きた出来事に、われわれがしっかりアジャストすることが大事だなと感じています。

――グッズで考えていることは。

 クワッガの活躍を、旬なうちに取り上げようと話しています。W杯での写真は権利上難しいのですが、そこは知恵の出しどころです。ピウタウのグッズについては、もうまもなく発表できると思います。

 100キャップに到達したり、何かの記録を達成したり、スポーツはいろんなことが起きる。そうした「何かが起きた瞬間(モーメント)」に反応するアジリティはすごく大事です。それをSNSのコンテンツやグッズに活かしていく。
 日本ラグビー界では、例えば優勝してもその日にチャンピオングッズは売っていないですよね。両チームが作らないといけないリスクこそありますが、他のスポーツでは当たり前の動きだったりします。

――ブルーレヴズとしてはそうした対応力がついている。

 想像力は常に持っていましょうというのは話しています。昨シーズンにはキヤノン戦でクワッガがデクラーク選手を引きずったトライがあって、印象的なシーンだったので何かプロモーションしようと。あのシーンを切り取ったTシャツを販売しました。(次ページに続く)

 クワッガモーションTシャツ ©SHIZUOKA BlueRevs
南アフリカ×トンガ戦での山谷社長。ブルーレヴズジャージーと富士山ヘッドで全力応援(撮影:谷本結利)

――10月21日には日本代表ナショナルチームディレクターを務めた藤井雄一郎・新監督もチームに合流した。

 私も宮崎のキャンプに3日間行って、練習を見てきました。
 新しい監督が来ると選手の評価はフラットになる。選手たちはかなり声を出して練習に取り組んでいると感じました。

 宮崎のキャンプでは、日本代表が浦安合宿でやっていたジョン・ドネヒューさんのタックルセッションをやっていました。ずっと見ていましたが、本当にしんどそうで。これを乗り越えれば、確実に選手の成長に繋がるなと思いました。
 そうした藤井さんが持っている豊富なネットワークを肌で感じた。日本代表のS&Cコーチをしていたアダムさん(キーン)にもスポットで入ってもらいました。
 藤井さんがチームに合流する前にも、イングランド代表の元コーチでキッキングのスペシャリストの方にもスポットで招いていました。家村(健太/SO)とか若い選手は特に刺激になったと思いますし、プレシーズンマッチでもその効果は感じました。キックはわれわれの課題でもありましたので。

――とはいえ、監督が合流してから開幕までの日数は短いです。

 開幕までの1か月でアジャストできると思うし、そもそも開幕戦を100%完成した状態で臨むチームはほとんどないですよね。
 アメフトやバスケに関わっていた時もそうでしたが、強いチームはシーズン中に成長できる。開幕戦と最終戦では見違えるようなチームになっているのが理想です。

――シーズン中に成長できるチームは、何が良くなっているのか。

 シーズンが始まればコンディションを整えることがメインになるので、ウエートをガンガンやってフィジカルを成長させる、みたいなことはできません。
 高められるのはプレーの精度であったり、共通認識のところです。状況に対する判断や認識がみんな同じであるか、相手が分析してくる中での対応など。
 あとは、ケガのメンテナンスも含めて良いコンディションを保てるかどうか。頭がクリアでも、体が疲れていればパフォーマンスは発揮できません。

――あらためてですが、今季は選手の補強というより、まずはコーチ体制を見直した。

 一度に両方着手できればいいのですが、お金は限られていますので、優先順位を考えれば、一番大事なことはラグビーをする上での方針づくりであったり、プランニング、選手のマネジメント。監督やコーチが大事になってきます。

 これまでのコーチが良くなかったということでは決してないです。いまの状況や戦績を踏まえると、われわれには新しい指揮官が必要でした。潤沢なリソースがない中で、それを乗り越える強さが(宗像サニックスで同様の経験をしてきた)藤井さんにはある。事業と強化のバランスへの理解も大切で、日本代表はまさにそこのせめぎ合いだったと思います。

 野球やバスケはGM(ゼネラルマネージャー)のスポーツだと思っていて、極端に言えば良い選手を獲得できればいい。特にバスケは5人しかいないので、1人の能力がゲームに与える影響は大きいです。

 一方で、ラグビーはスター選手がいてもその選手1人ですべてを変えることはできない。ラグビーやアメフトはコーチのスポーツだと思っています。良い選手を獲得しても、コーチがチーム作りをしっかりできるかどうかで結果は変わってくる。

 もちろん、良い選手がいるかどうかは大きな要素ですが、その選手をどう活かすかを考えた時にはとても緻密なことをしていく必要がある。
 スクラムでいえば、単純に体重の重い方が勝つわけではないことを日本代表がW杯で証明したように、細部へのこだわりやノウハウがあれば、選手の能力が劣勢でも互角で戦えたり、時には上回ることもできます。

――山谷さんもアメフトやバスケでそうした経験を。

 そんな経験ばかりでした。優勝するだろうと思われるチームにいたことは、選手としてもコーチとしても社長としても一度もありません。

 アメフトの時も、作戦を細かくチェックして、ビデオを見ながらみんなの意思統一を徹底的にやってきました。
 ただ、コーチは選手にあれもこれも求めてはいけないと思っています。選手一人ひとりはシンプルなことをしているけど、集合体になると複雑なことができていたり、いろんなことに対応できるようになっている状態に持っていくべき。自分のやることが、試合の時にはクリアになっているときが一番自分の能力を発揮できる状態ですから。

 アメフトにはチームのルールや戦術を書いたプレーブックというものがあって、分厚いものを作ってくるコーチはダメだと思っています。いかに選手にはシンプルなものを渡しながら、チームとしてはいろんなことにアジャストできるような状態になれるかが大事。
 100通り戦術があって100通り対応するのは難しい。3つだけ覚えておけば70通りくらい対応できる、みたいなことを編み出すのがコーチの力だと思っています。
 そうした考え方ができるコーチを連れてきたり、そうしたことにアジャストできる選手を見つけることが、GMや社長の役割だと思っています。

PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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