ラグビーリパブリック

府中で始まる新生活の前に、NZ代表SOモウンガが誓う。「W杯を国に持ち帰る歴史の一部になりたい」

2023.10.29

アイルランド戦ではトライを呼ぶ突破を見せた。(撮影/松本かおり)



 あと数時間で世界王者が決まる。
 2023年10月28日、21時(現地時間)。フランスはパリ郊外のサンドニにあるスタッド・ド・フランスでラグビーワールドカップ(以下、W杯)のファイナルがおこなわれる。

 2019年大会に続いて南アフリカがその座を守るのか。ニュージーランドが2015年大会以来の頂点に立つのか。
 どちらのチームが優勝するにしても4回目のW杯制覇となり、歴代最多優勝となる。

 両チームのスターティングメンバーには、大会後に日本のリーグワンでプレーする選手が計12人。ベンチスタートの選手まで合わせると、その数は13人にもなる。

 大会後、海外クラブに移籍する選手は他にもいる。特にオールブラックスには、この試合を最後に代表活動から離れる選手も少なくない。

 10番を背負ってプレーするリッチー・モウンガも、その一人だ。
 大会後は東芝ブレイブルーパス東京でプレーする。現地では、3年契約と伝えられている。

 モウンガは29歳。2018年6月のフランス戦で初キャップを得て以来、今大会の準決勝まで55キャップを重ねてきた。
 そのうち38戦はSOで先発したもの。458得点を記録している。

 クルセイダーズで実績を重ね、判断力を磨いた。
 自らの仕掛けが特徴的で、大一番となった準々決勝のアイルランド戦では、ラインアウトからの攻撃で防御ラインを突破。WTBウィル・ジョーダンのトライを呼んだプレーが印象的だ。

 決勝の前日会見で決戦への胸の高なりについて聞かれ、「エネルギーや意識のほとんどは土曜日の試合に向いている」と答えた。
 最高の状態で立ち向かって来るスプリングボックスとの戦いへ向け、できる限りの準備を重ねている。

「自分のノートを見返し、ゲームプランを再確認しています。同時にオフの日は、みんなと良い1日を過ごし、リフレッシュもできました。みんなで過ごす最後の1週間、すべての瞬間を思い出に刻むような過ごし方をしています」

 いい時間を過ごした。
「週の初めは、試合に向けてやるべきことを、一つも残さずカバーするべくトレーニングとミーティングを重ねました。『心のありかに体あり』という通り、体の準備はもちろん、心の準備にも意識を向けています」

 自分を含め、ファイナルを終えるとオールブラックスを去る選手たちが何人かいる。
 新しい人生が待っている。

「正直チーム内で、今大会を最後に去る者、残る者などといった話はしていません。意識はすべて、勝利を自分たちの手に近づけるために何ができるかということだけを話してきました」

 そんな日々を「いつも通り」と言う。
「皆それぞれ、キャリア、人生の異なる章を歩んでいます。自分個人にとっては最後かどうかではなく、W杯を国に持ち帰る歴史の一部になりたいという思いが一番強い」と胸中を吐露する。

「自分の意識は、すべて土曜日に向いています。その後どうなるかは、正直まったく考えていません。他の選手も多くが自分と同じなのでは、と思う。もちろんどこかのタイミングで、今回を機にオールブラックスを去ることについて他の選手たちと話をすることにはなるでしょうが、いまは(キックオフの)土曜日の21時がすべて、です」

 オールブラックスのレジェンドのひとり、SOのお手本と言っていいダン・カーターがチームに顔を出したときにアドバイスを受け、あらためて気づいたことがあった。
「DCのような選手たちが周りにいてくれることは、本当にありがたい。的確なアドバイスをくれる」と話す。

「過去にオールブラックスでプレーした選手の言葉に共通しているのは、自分の仕事を高いレベルで、強い意志を持って、一貫してやり続けることの大切さです。それが、主なメッセージとして伝わってきます」

 肝に銘じる。
「それが最も大切だと身をもって体感しています。チームに求められるのは、高いプレッシャーの中で、自分のプレーを何度も繰り返すこと。決勝でも、プールステージの試合でも、クラブラグビーでも、必要なのは自分の仕事をやることだけ」
 集中する点はシンプルだ。

 南アフリカとの対戦は、過去8戦に出場し、4勝3敗1分け。
「将来思い返した時に、土曜日の試合が自分のキャリアのベストゲームになるようにしたい」と淡々と話す内側に、覚悟が感じられた。


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