自身2度目のワールドカップファイナルへ向け、強大なライバルへの思いを胸に秘めている。
フランスで開催中のラグビーワールドカップ(以下、W杯)は10月28日、いよいよ頂上決戦を迎える。
大舞台で激突するのは、ともに4回目の優勝を掴みたい南アフリカとニュージーランド。前者にとっては、連覇のかかった大一番だ。
この試合で南アフリカの9番を背負うのがファフ・デクラークだ。
横浜キヤノンイーグルスに所属する32歳は、2019年大会でもファイナルで先発し、横浜の地で世界一を手にした。
その日、32-12のスコアで退けた相手はイングランドだった。
今回、キックオフ時間の21時(現地時間)に対峙するのはオールブラックス。チームとしても、長い歴史の中で最大のライバルとして意識してきた相手だ。
デクラークも、これまでに11回戦ってきた。自身の対戦成績は、4勝6敗1引き分け。手強い相手だ。
そんな好敵手との激戦を目前に、「決勝です。相手が誰でも特別な舞台であることに変わりはない」と言う。
ただ両チームが刻んできた歴史を振り返れば、「オールブラックスとのW杯での決勝は1995年大会以来となる。南アフリカの国民の多くが当時の記憶を思い出すという点では特別かもしれません」と話した。
「いまのチームの選手たちで、当時のことを鮮明に覚えているのはドウェイン(NO8フェルミューレン/37歳)とデオン(HOフーリー/37歳)くらいかもしれませんが、両国のライバル関係が本格的に始まったのは(定期的に戦うことになった)その試合だと思っています」
互いのチームが優勝へ死力を尽くすタフな試合になる。
54キャップと経験豊富な男は、ビッグゲームになることを確信する。
ファイナルの2日前の記者会見でチームの先頭に立つシヤ・コリシ主将は、「夢に見た舞台とも言えないほどのところまで来た」と感情を口にした。
デクラークも、「この場にいられることがどれだけ幸運か感じています」と同意する。
「この試合が自分の代表キャリアラストになる可能性もゼロではありません。自分のすべてを出し切って記憶に残るプレーをしたいと思います」
決戦へ向け、1995年の大会を制したメンバーたちが何人も練習会場に足を運び、自分たちに直接メッセージを伝えてくれているという。
「彼らのサポートを背中に感じながらの試合になる。彼らが国にどれだけの誇りをもたらしたか、そして僕らがどれだけもたらしうるか、その大きさを感じています。頑張って優勝カップを持ち帰りたい」と思いを口にした。
ファイナル出場予定メンバーの中にSHは自分ひとりだけ(ベンチスタート8人は、FW=7人、BK=1人。BKはFBが専門のウィリー・ルルーのみ)。しかし、平常心だ。
「何も変わりません。これまでにも同じような布陣で戦うことはあったし、自分自身、何度も80分間出場してきました」と自信を見せる。
「最後まで(ピッチに)立っているためにペース配分しながらプレーして勝てる試合ではないでしょう。開始から自分たちのベストを出し続ける必要がある」と話す。
「クワッガ(スミス/FW第3列)も9番をカバーできます。彼は疲れ知らずだから、何かあっても大丈夫。チェズリン(コルビ/WTB)も練習で9番に入ることもあるので、自分が出し切ってしまうことを恐れてはいません」
優勝の決まるフルタイムの瞬間に「ピッチに立っていられたらベスト」も、「勝てればなんでもいい」とチームマンに徹する。
トイメンに立つのは、世界一のSHと評されるアーロン・スミス。124キャップを持ち、技術の高さと豊富な経験値でオールブラックスを支える存在だ。
デクラーク自身、これまで何度も戦ってきた。
「大きな存在」と認めるライバルについて、「チームの潤滑油として、フィールド内でのプレーやコミュニケーションだけでなく、フィールド外でも、これまでに苦しい時期をどう切り抜けてきたかなど、若手に経験を伝えていると思う」と、その存在価値についてリスペクトする。
「これまで、何度も対戦してきました。一貫性のあるパフォーマンスが、世界最高と呼ばれる所以だと思います。W杯後も(スミスがトヨタヴェルブリッツに加わるから)日本で何度か対戦できそうで、幸運に思う」と笑顔で語りながらも、「今回は、なんとか彼に勝ちたい」と意欲を口にした。
報道陣から、キックオフの21時までの時間の使い方について「髪のセットをするのか」と問われても、「もちろん髪のケアは必要」と笑顔で返す余裕があった。
エンターテイナーが、自分のやりたいことを自由に演じられる展開になれば、連覇は近づく。