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オールブラックスのハカと対峙したアイルランドが『8』の字を描いた理由

2023.10.15

『8』を描いたアイルランド。大声援にハカの声はかき消された。(Getty Images)



 緑のジャージーを着た23人が「8」を描いた。
 開催中のラグビーワールドカップ(以下、W杯)の準々決勝、アイルランド×ニュージーランドが、10月14日、スタッド・ド・フランスでおこなわれた。

 37フェーズにおよぶアイルランドの最後の猛攻を止め、28-24の激戦を制したニュージーランド。
 同チームの試合前の『ハカ』に対し、アイルランドの選手たちは、『8』の字を描いて黒衣の儀式を受け止めた。

 例えば2019年W杯の準決勝でオールブラックスと対戦したイングランドは、『V』の字になってハカを見つめた。
 対戦チームがその気迫をただ受け止めるだけでなく、自分たちの意志を示すことは度々ある。

 今回のアイルランドの『8』は、2016年10月16日に急逝したアンソニー・フォーリー氏への思いを込めたものだった。
 試合後、SHジェイミソン・ギブソンパークは、「アクセル(アンソニー)・フォーリーが亡くなって7年が経ちました。私たちは、再び『8』を結成するにふさわしい時期だと考えた」と試合後に話した。

 フォーリー氏は2016年に亡くなった時、42歳。アイルランドの強豪・マンスターでヘッドコーチを務めていた。
 現役時はNO8で、1995年のプロデビュー以来マンスター一筋。200試合に出場した。

 アイルランド代表としても62キャップを持ち、キャプテンを務めたこともある。
 1995年大会と2003年大会の2度、W杯にも参加した。

 尊敬される彼が亡くなったのは、遠征先のパリのホテルだった。
 ヨーロピアンラグビー・チャンピオンズカップのラシン92との対戦を日曜日の午後に控えていた。
 自室で眠るように他界したことが、その日のキックオフ数時間前に伝えられた。

 今回オールブラックスと対戦した日は、フォーリー氏の命日の2日前。さらに、場所は天に召されたパリ。
 アンディー・ファレル ヘッドコーチ率いるアイルランド代表は、故人への敬意を表して『8』を描くことを決めた。

 アイルランドは2016年11月5日、シカゴ(アメリカ)でのオールブラックス戦でも同様に『8』を描いてハカと対峙した。
 その試合は、フォーリー氏が亡くなった後の最初のテストマッチだった。

 同日はアイルランドが、オールブラックスとの初対戦から111年目にして初めて勝利を挙げる、歴史的な日となった(40-29)。
 今回歴史を変えることはできなかったけれど、世界中の人たちが、緑のジャージーの結束と濃密な時間を見た。

 多くの人たちにとって忘れられない試合となった。


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