フランスで開催されている、ラグビーワールドカップ(以下RWC)もいよいよノックアウトステージに入る。
現在のニュージーランド(以下、NZ)は、3年に1度の選挙戦の真っただ中。当然メディアの扱いの大半を占めて連日トップニュースとなっている。
しかし、準々決勝に向けてNZ国内のラグビーファンの気持ちの高まりが大きくなっているのをヒシヒシと感じる。
10月5日(開催国フランス時間)、オールブラックスはプールAの最終戦でウルグアイに勝利し、ノックアウトステージ進出の切符を掴んだ。スコアは73-0。点数だけを見ると圧勝だ。
しかし前半、ウルグアイの闘志みなぎるパフォーマンスに苦労した。特に最初の20分間は、プレッシャーを受けてエラーが目立ち無得点。後半こそ修正し、7トライを追加して合計11トライを奪ったが、すっきりした内容とは言えない試合だった。
オールブラックスの準々決勝の対戦相手は、アイルランドに決まった。圧倒的な強さを見せつけてプールBを1位通過。自信をもってノックアウトステージにやってくる。
アイルランドはプール最終戦でスコットランド相手に開始早々からエンジン全開で36-14と勝利した。世界ランキング1位の実力を存分に見せつけた試合だった。
NZ国内のラグビーファンは、隙のないアイルランドのラグビーを見てナーバスになっている。
メディアでも連日アンダードック(勝ち目が薄い)と言われ、ラグビーファンだけにとどまらず、元選手、コメンテーターまでもがオールブラックスの勝利は厳しいと見ているようだ。
◆オールブラックスの興味深いセレクション。注目のロイガードは、メンバー入りならず
フランス時間の10月14日、21時にキックオフとなるアイルランドとの大一番に向け、オールブラックスのメンバーが発表された。
先に発表されたアイルランドの先発メンバーの変更はなし。一方のオールブラックスは休養から主力選手を戻したことにより、プール最終戦から7人の先発メンバーが変更になっている。
FW陣から見ていくと、危険なタックルで2試合の出場停止処分が明けたイーサン・デグルートが戻ってきて1番を付ける。
ウルグアイ戦で膝の負傷で途中退場したタイレル・ロマックスは、予想より回復が早く背番号3を付けて出場する。
デグルートは、開幕戦のフランス戦ではスクラムで苦戦した、ロマックスはケガがちだ。この2点は懸念材料も、大一番で選ばれている。セレクターの期待度の高さがうかがえる。
ロック陣は、大ベテランのサム・ホワイトロックをベンチに下げ、今季絶好調のスコット・バレットが先発。ブロディー・レタリックとのコンビを組む。
FW第3列は、休養から戻ってきたアーディー・サヴェアがNO8で先発。6番シャノン・フリゼル、7番サム・ケインとともにブレイクダウンでの奮闘に期待がかかる。
BKに目を向けると、休養から9番アーロン・スミス、13番リーコ・イオアネが戻ってきた。先週ベンチスタートのボーデン・バレットは、大一番で先発に戻した。15番を付け、モウンガとのダブル司令塔になる。
メディアを騒がせた事のひとつに11番のセレクションがある。今季オールブラックスの左WTBとして毎試合キレのあるランを見せていたマーク・テレアは、RWCでも大活躍していた。
しかし、レスター・ファインガアヌクが11番で選ばれた。
テレアが外れた理由は、当初はケガと言われていた。しかし、メンバー発表後の会見では、本人にチームルールの違反があったと判明した。結果、メンバー外となったようだ。
ディフェンスをかわす能力の高さを思うとテレア不在は痛い・しかし、ファインガアヌクには違った魅力がある。パワフルなランでチームに勢いをもたらすことが期待できる。
ベンチに目を向けると、SHの控えは、フィンレー・クリスティーが選ばれた。
今週に入りトークバックラジオでは「チーム・ロイガード、チーム・クリスティー」と言うように、どちらがSHの控えになるのかの議論が活発になっていた。
劣勢な時に流れを変えるランプレーが期待できるロイガードの評価は高いだけに、メンバー発表後はNZ国内のメディア、ラグビーファンを驚かせた。
クリスティーのセレクションについて指揮官のイアン・フォスターは、「フィンレー(クリスティー)は、ディフェンス面で優位性があると考えている。ディフェンス面では、ラック周辺でのアクションが多くなると思う」と語った。
アイルランド対策により、ロイガードより経験値があり、ディフェンスの強いクリスティーをベンチに指名したようだ。
一方でPRの控えのセレクションは、オファ・トゥンガファシ、ネポ・ラウララの経験のある2人より、代表2年目のフレッチャー・ニューウェル、そして新人のタマティ・ウイリアムズに託した。
両選手はボールキャリーがよく仕事量も多い。SHのセレクションと同様に、アイルランド対策としてのPRの選択があるのだろう。
このセレクションが、試合にどう影響が出るか興味深いところだ。
◆勝利のカギは、FW戦とセクストン封じ
ここ近年の両者の対戦を見ると2021年は20-29、2022年は3度対戦し42-19、12-23、22-32とオールブラックスの1勝3敗でアイルランドに分が悪い。内容は、FW戦での劣勢がいちばんに挙げられる。 ここ数年の課題であったFWのフィジカルバトルの劣勢は、今年のザ・ラグビーチャンピオンシップでは復活の兆しが見られた。
しかし、RWC開幕直前のウォームアップ戦の南アフリカ(7−35)、RWC開幕戦のフランス(13-27)の2つの敗戦ではFWは劣勢だった。
今回は、ケガ人が復帰してザ・ラグビーチャンピオンシップのメンバーで挑む事になった。
強力なアイルランドFW相手に、激しいフィジカルバトル戦の準備はできている。
スクラム、ラインアウトのセットピースで安定感抜群のアイルランドが崩れるとは考えにくい。
ブレイクダウン、ディフェンスも素晴らしく、チームとしての完成度がとてつもなく高い。
その中でも、38歳の大ベテラン、司令塔のSOジョニー・セクストンのゲームメイクの上手さが挙げられる。一つひとつのプレーの選択が非常に優れていて、他の選手もそれにならっている印象だ。
オールブラックスは、セクストンにプレッシャーをかけることがFW戦と同様に大事になる。
アイルランドは過去、ラグビーワールドカップでのノックアウトステージでの勝利がない。
前回大会、RWC2019の準々決勝では14-46でオールブラックスに完敗した。
前回大会のリベンジをして初の準決勝進出をすることができるか注目される。
一方のNZ国内のラグビーファンは、オールブラックスに、昨年のホームシリーズ敗戦のリベンジを期待している。オールブラックスは、ファンの声に応えることができるだろうか。
すさまじい試合となるのは間違いない。