ラグビーリパブリック

みなぎる自信。フランスSOジャリベール、南アフリカとの準々決勝ではデュポンとのコンビで大仕事の予感

2023.10.11

まだ24歳。イタリア戦では 自らトライも奪った。(Getty Images)



「このイタリア戦からすでにノックアウトステージ」とプールステージ最終戦に臨んだフランスは、60-7で圧勝して準々決勝へ歩を進めた(10月6日)。プールステージを全勝で終えたのは2003年以来のことだ。

 この試合で最も注目されていたのは、ナミビア戦で頬骨を骨折したアントワンヌ・デュポン(SH)の穴は埋められるのかということだった。

「試合開始から80分間、真っ向勝負して強度を上げ、クリーンなボールをHBに出し、BKが自分たちのプレーをできるようにしたかった。FWは大きな責任を負っていた」と主将のシャルル・オリヴォン(FL)が試合後話していたように、レ・ブルーのFWは終始イタリアのパックを圧倒した。

 この日、デュポンに代わって9番のジャージーを着けたマキシム・リュキュも常にボールに付き、素早い球さばきでテンポを上げた。FWの働きのおかげで仕事がしやすい状況だったとはいえ、リュキュはスタッフの期待に応えた。

 この試合で私が最も注目したのは、もう1人のジョーカー、マチュー・ジャリベールだ。彼が才能のある選手であることは誰もがすでに認めていたが、代表チームにはロマン・ンタマックという優れたSOがもう1人いた。

 常に冷静で、自身を消してしまうぐらいチームを生かすことを優先するンタマックが『氷』に喩えられるなら、自ら攻めることを好み、華のあるプレーでスタンドを沸かすジャリベールは『火』だ。

「ラグビーを始めたのは父親がしていたから。小柄だったからBKに入れられた。頭を使いながらステップで敵を抜いたり、状況判断してチームを指揮することにすぐに夢中になった。グラウンドで責任を任されるが好き。それは今も変わらない。SOのポジションは戦術、反応、そして。敵よりも一歩先を読む、誰よりも先に考えることが求められる。それが好きなんだ」

 代表での2度目の先発出場となった2020年11月のスコットランド戦の前のジャリべールの言葉だ。

 ジャリベールがボルドーのプロチームでデビューしたのは2017年9月、まだ18歳だった。
 その5か月後のシックスネーションズの準備をする代表合宿に初招集され、アイルランド戦で10番をつけて初キャップを得るが、敵の激しいタックルを受けて30分で交代することになる。
 左膝後十字靭帯の部分断裂と診断された。

 戦列復帰までに1年かかった。その間に新たに招集されたンタマックが2019年ワールドカップ(以後、W杯)日本大会に参加することになり、今回はンタマックの負傷でジャリベールが自国開催のW杯でチームのプレーを率いることになるとは皮肉なことだ。

 日本大会後、2020年シックスネーションズで再び代表に招集されるが、『ファンタジスタ』と呼ばれる彼の創造的なプレーよりも、スタッフが準備したゲームプランを忠実に遂行するンタマックの方がファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)に好まれ、ジャリベールは「ンタマックの控え」に定着していた。

 代表スタッフも2人の卓越したSOの起用法を模索し、2021年のオータムネーションズカップのアルゼンチン戦、ジョージア戦の2試合でジャリベールを10、ンタマックを12に配置してみたが期待した成果は得られず、3戦目のNZ戦ではンタマックを10、ジャリベールを控えに戻した。

その後もンタマックが負傷やトップ14のスケジュールとの兼ね合いで出場できない時以外は後半に出場するインパクトプレーヤーとしての役割を果たしていた。

 しかし、今大会前の準備試合でンタマックが負傷し、ジャリベールがブルーのジャージーの10番を背負うことになった。

 彼の能力、スキルの高さやメンタルの強さはすでに知られるところだったが、大会直前の、しかもプレーの要(かなめ)となるポジションでの交代は、デュポンとンタマックのコンビがこの上もなく見事に機能していただけに不安視された。
 誰がンタマックの代わりを務めるかとメディアやファンが議論する中では、トゥールーズでデュポンと共にプレーし、SOも務めるFBトマ・ラモスの名前まで上がっていた。

 ンタマックが負傷した翌週のオーストラリア戦、代表スタッフはジャリベールを選び、彼もスタッフの信頼に応えた。ファンも安心した。開幕のNZ戦でもさらに安定したプレーを見せ、巧みに敵をひきつけてからパスを出し、WTBダミアン・プノーのトライを演出した。

「彼の試合に満足している。ディフェンスでは周囲とのコネクションをさらに良くする必要はあるが、期待通りのプレーをしてくれた」とフランス代表アタックコーチのロラン・ラビットの試合後のコメントだ。

 イタリア戦ではデュポンが不在、ボルドーでコンビを組むリュキュとチームのプレーを操縦することになり、ジャリベールがさらに主導権を握った。

 フランスの8トライのうち、タックルを受け宙に浮いた状態でプノーにキックパスを出すなど3つのトライをアシストし、自らもスピードと踊るようなステップで敵を抜いて1トライ決めたが、敵ゴール前のラインアウトモールからのトライ以外に全てジャリベールが絡んでいる。

「自分のプレーを変えるつもりはない」と開幕前にジャリベールは言っていた。
 また、イタリア戦の前にはコンビを組むリュキュも「マチュー(ジャリベール)はアタックを好む傾向がある。試合の中で1度や2度は彼が行ってもいいと思うけど、チームには遂行するべきゲームプランがあるから時々彼にブレーキをかけなきゃいけない」と笑いながら言っていた。
 しかしこの試合でジャリバールは周りを生かしながら、自らの持ち味も殺さない、ちょうど良いバランスを見つけた。

「僕は自由が必要なんだ」と言いつつも、「時にはキックを使って敵陣に入り、ゲームを落ち着かせる必要がある。そうすればみんな一息つけるし、FWがさらにいい仕事をしてくれるということに気づいた。そこは僕がまだ成長しなければならないところ」と2020年のジャリベール自身も足りていないところを認めていた。

 あれから約3年、イタリア戦後には「チームでいいパフォーマンスができたことが嬉しい。僕がフィールドに入る時の第一のミッションはチームができる限り最高のプレーができるようにすること」と話した。
 チームの引き立て役に徹する。

 ボルドーのチームメイトは「リュキュとコンビを組みながら、マチューは多くのことを学んだ」と言う。

 準々決勝で対戦する南アフリカのFWは獰猛でディフェンスも容赦ない。イタリア戦でチームの信頼を確実なものにしたジャリベールにとっては新たなテストになる。

 デュポンの手術を担当した外科医からデュポンの戦列復帰の許可が出た。今週末の南アフリカ戦での復帰が予想される。
 開幕のNZ戦でハムストリングを負傷したHOジュリアン・マルシャンの状態が先週の時点で50パーセントと言われており、この試合での復帰は難しそうだ。

 フィジカル戦を好む南アフリカ相手に肉弾戦に強く、ジャッカルの鬼であるマルシャンを欠くのは辛いところだが、ガルチエHCが「2つ目の決勝」と呼ぶこの対戦を、自国大会優勝のミッションを背負った33人のブルーの戦士がどう戦うかが楽しみである。


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