会見場に入る。大勢の記者がいるのを見回し、小声で「すご…」と感嘆したような。
シオサイア・フィフィタが、ワールドカップデビューを間近に控えている。
「いままでハードワークしてきた。あとは試合で、しっかり楽しみたいなと思っています」
現地時間10月8日、スタッド・ド・ラ・ボージョワールでのアルゼンチン代表戦にWTBで先発する。
話をしたのは2日前。試合会場を視察後に会見した。187センチ、102キロの24歳は、空中戦やフィジカルバトルで期待される。
本人がイメージするのは、蹴り合う流れで相手走者に迫り、倒すシーンだ。
「(味方のキックの弾道を)チェイスして、ビッグタックルをしたいと思っています」
故郷のトンガでは、母と一緒に寝るのが好きだった。親元を離れたのは2014年。単身で日本の北陸地方に渡った。
入学した日本航空石川高では、現クボタスピアーズ船橋・東京ベイの藤原忍と仲良くなった。段階的に日本語を覚え、全国高校ラグビー大会でもその名を知られるようになった。
2015年のワールドカップイングランド大会に触れたのは、高校2年の頃だ。南アフリカ代表に勝つ日本代表に憧れ、将来の道を定めた。
「最初、日本に来た時は、あまり日本代表に入りたい気持ちはなかったんですけど、2015年に南アフリカ代表との試合を見て、ワールドカップという舞台はすごいなという思いが沸いて…。その時のプレーは全然、だめだったけど、いつかワールドカップに出て世界と戦いたいと思いました」
奈良の天理大にいた2020年には、スーパーラグビーのサンウルブズに参加できた。プレーの幅を広げた。日本代表入りはその翌年。一時は正WTBとして活躍した。
ワールドカップイヤーは故障で出遅れたが、「柱メンバー」と呼ばれる控え組で奮闘した。
9月18日のイングランド代表戦前は、相手役のCTBに入った。向こうの好ランナー、マヌ・トゥイランギを真似てレギュラーにプレッシャーをかけた。
今度の出番は、段階的に告げられた。日程が進むなか、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ、トニー・ブラウンアシスタントコーチに順にほのめかされたという。
「(あらかじめ)ジェイミーには『しっかり準備しとけよ』と言われていて、ブラウニーには『来週(アルゼンチン代表戦に出るチャンスが)、あるよ』と。(チーム内での)メンバー発表で、11番に僕の名前が呼ばれた時は嬉しい気持ちでした。自分の役割をしっかりやってから、トライを獲りたい」
チームはここまで2勝1敗。アルゼンチン代表戦は、勝ったほうが決勝トーナメントに行ける重要な80分だ。
抜擢されたフィフィタは、「負けたら終わり。勝つためにしっかりと仲間と繋がり合いたい。フィジカルで勢いを作る。相手の弱いところをアタックしていきたい」。他の「柱」のメンバーからの祝福を背に、重圧をはねのけたい。