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【再録・解体心書⑤】毎日願うこと。アマト・ファカタヴァ&タラウ・ファカタヴァ

2023.10.06

*ラグビーマガジンの人気コーナー『解体心書』にかつて掲載された、ワールドカップ2023日本代表メンバーのインタビューを抜粋して再録。(掲載内容はすべて当時のまま)

アマト・ファカタヴァ&タラウ・ファカタヴァ[大東文化大学] *2018年10月号掲載(アマトがW杯日本代表メンバー)

アマト(写真左)とタラウは1994年生まれ。大東文化大がかつて大学日本一を成し遂げたシーズンに生まれた双子が、悲願の王座奪回をフィールドで力強くリードする。海外留学生の出場枠が3人に増える今年、その存在感はいやがうえにも増す。いまでも故郷の母の言いつけを守り、眠る前には聖書を開く。試合前には、ある一節を決まって復唱する。頂点に続く道のりを静かに見据えている。(文/多羅正崇、写真/高塩隆)



 今季の大学ラグビーは海外留学生の出場枠が「2」から「3」に増える。国際色豊かな大東文化大学にとっては追い風だ。

 大東大の3つの椅子のうち2つは、この強力なツインズが占めるだろう。最終学年になったアマト、タラウのファカタヴァ兄弟だ。

 NO8が定位置のアマトは、強力なフィジカル、ランスキルに加え、陣地挽回のキックを担うこともある。

「むかしはWTBだったので、キックのスキルが必要でした。スタンドオフがいなければ、僕が蹴ります」(アマト)

 主にLOを務めているタラウは、強力なボールキャリー、ラインアウトのほか、ブレイクダウンで下働きもする。

 オフロードパスは2人とも得意だが、むやみにボールを放ることはしない。
「オフロードパスをするには、ゲインラインを取ることが必要。無理はしない」(タラウ)

 22年ぶりにリーグ戦を制覇した昨季から、さらにスケールアップしそうなモスグリーン軍団。
 指揮官は、’94年度の大学選手権優勝メンバーで、復権に尽力している青柳勝彦監督。出場枠が増えることのメリットを感じている。

「去年はファカタヴァ兄弟が出てしまうと(出場枠が2だったため)、バックスのシオペ(ロロ・タヴォ/2年)が出られませんでした。バックスに突破できる選手が少なかったので、フォワードで突破口を開くラグビーをやっていました。今年はバックスに1人、外国人選手が入るということは大きいです」

 青柳監督いわく、今季の理想型のひとつを示すことができたのは、LOタラウ、NO8アマト、CTBシオペが同時出場した春季大会の慶大戦だという。
 NO8アマト、CTBシオペが次々と突破し、11トライ63得点をマークした。

「ファカタヴァ兄弟に関しては、もちろんディフェンスもしていますが、ペネトレーターで前に出てもらって。そこをうまく日本人につないでいきたいですね」(青柳監督)

 ただその後の春季大会ではケガ人が増えた。14-80で大敗した明大戦では、和名のみの先発メンバーで臨んでいた。
「帝京大戦あたりまでメンツが揃っていました。明大戦は(外国出身選手は)みんなケガで、日本人にもケガが多かった。そのぶん、ほかの選手が出場して経験を積むことができました」(青柳監督)

 当の本人たち、アマトとタラウは、今季の出場枠増について独自の意見を持っている。
 シンプルに攻撃力アップを喜ぶというより、ピッチ上のコミュニケーションが増えることが、なにより嬉しいのだという。

「3人になると意志疎通が取りやすい。1年生のときはすごく難しかった」(アマト)
「グラウンドに(トンガ出身選手が)3人いると、良いコミュニケーションが生まれる。フォワードに2人だけだと難しい」(タラウ)

 ピッチで縦横無尽に見える彼らだが、言葉による連係の面では、これまでトンガ語で会話できる相手がピッチに1人しかいなかった。その相手が「1」から「2」に倍増することは、ピッチ上の世界が広がる感覚があるようだ。

 シオペは来日2年目だから、兄弟には新たな役割も生まれている。
「シオペは、まだ日本語があまり分からない。だから、僕らが日本語で聞いたことを、シオペにトンガ語で教えることもある」(タラウ)

 青柳監督は最近の2人について、「だいぶ日本語を覚えた」と満足げだ。2人はピッチ上の通訳も務めている。
 外国人枠の増加で、アマト、タラウの重要性、存在感は増していくことになりそうだ。

 1994年12月7日。トンガの首都ヌクアロファで、アマト、タラウは同時に生を受けた。5人姉弟で、姉が2人、弟が1人いる。

 2人を熱心に教育した母ヴィカさんは、敬虔なクリスチャンだ。現在もトンガで暮らし、2人が帰国する2月のシーズンオフを楽しみにしている。
 アマトとタラウもクリスチャン。就寝前のお祈りは、忘れないようにしている。

「『ゴッド、ヘルプ、ミー』と祈ります。ほかにも、『ラグビーのスキルを教えてください』とか、『テストが分からないので助けてください』と祈ります(笑)」(アマト)

 アマトはおどけてそう答えたが、宝物として見せてくれたのは、トンガ語の聖書。2人で一冊。母ヴィカさんが贈ってくれた聖書は、幾度となく開いてきたからだろう、すこし傷んでいた。

 モスグリーン軍団にはまだ双子がいる。ファカタヴァ兄弟の同期で、主務を務めている大野翔太、そして寮長を務める雄太もツインズだ。
 その大野主務は、4年間をともに暮らしてきたアマトとタラウについて「真面目です」と語った。

 大東大では寮内の掃除を全学年で行っている。アマトとタラウはウエイトルームの担当だが、練習後、練習着のまま掃除をするなどし、学生幹部のチェックに間に合わせているのだという。

「今まで長くラグビー部を見てきている方も、『2人は仕事をきちんとやる』と言っています。僕たち双子は、アマト、タラウと1年間、食事当番を担当しました。2人の仕事を見てきましたが、しっかりしていますね」(大野主務)

 大野主務が言うには、アマトはとにかく皿洗いのスピードが速かったそう。一方のタラウは、大きな鍋を丁寧にじっくり洗う姿が印象的だったという。双子とはいえ、性格にもプレースタイルにも細かな違いがある。

 そんな食事当番のエピソードを当人にぶつけてみると、タラウは肩をすくめるようにした。
「トンガの家でやっていました。食べたら、お皿を洗う」(タラウ)

 当たり前のこと。そう言わんばかりだった。

 2人とも来日1年目は日本語が分からずに苦労した。しかし4年目になって、寮生活にも、日本の文化にも慣れた。
 タラウの好物はとんかつだ。納豆は、2人とも来日当初から食べることができた。ただモツは今でも苦手だ。

 トンガの主食はイモだから、ときどき故郷の文化に触れたくなる。
 そんなときは「チャリで駅のスーパーに行く」(タラウ)。そしてスーパーで買い込んだ辛口のインスタントラーメン、チキンをいっしょくたに煮込み、それをおかずに蒸かしイモを食べる。創作トンガ料理も手慣れたものだ。

 キャンパスライフは、慣れた部分もあれば、慣れない部分もある。
 2人が通うのは外国語学部。4年生になって、1、2限目の授業が週3、4日ある。テスト前は寮の食堂で課題に向かうこともあるし、大学の図書館で勉強することもある。

 ただ大学の友達は決して多くないのだという。
「あんまり友達はいない。ラグビー部だけ(笑)」(タラウ)

 キャンパスには、筋骨隆々の男子が好きな女子もいると思うが…。
「日本の女の子は、筋肉がきらい。怖いからだと思う(笑)」(タラウ)

 いくらスポーツマンが好きな女子大生でも、さすがに身長195㌢、体重120㌔の双子は迫力があり過ぎるのかもしれない。

 2人は将来、プロのラグビー選手として生きていきたいと考えている。

 大学4年になって、現行の代表入りの条件である3年以上の継続居住は満たしていることになり、サクラのジャージーも意識している。

 日本代表入りの希望について尋ねた。
「チャンスがあれば、(日本代表に)入りたい」

 ツインズらしく、同じ答えが返ってきた。
 では、もしもトンガ代表から招集がかかったら?

「ちょっと難しいです。トンガ代表に入ると、トップリーグでプレーすることが難はると思う。将来のこともあるので、日本代表の方が良いです(笑)」(アマト)

 2人にとって、トップリーグは最も身近な憧れの舞台。憧れのトンガ出身選手は、フェツアニ・ラウタイミ(トヨタ自動車)、シオネ・テアウパ(クボタ)、ヘル ウヴェ(ヤマハ発動機)らだ。

 ラグビーは2人にとって特別なのだから、試合には特別な心構えで臨んでいる。
 2人には試合前夜のルーティンがある。母から贈られた聖書をたずさえ、ベッドに入り、ある一節を読み上げるのだ。

「試合前の夜は、ベッドで聖書を読みます。小さな声で」(タラウ)

 読む箇所は、638ページの第8節と決まっている。「Mou kamata kihe ‘Eiki’ ‘oilo ‘oku sai〜」から始まる一文だ。神を信じることの大切さが書かれている。ただ、本当の意味はトンガ人じゃないと分からないと思う、とアマトは言う。

 母ヴィカさんは、毎晩祈ることを2人に言いつけ、日本へ送り出した。試合前夜のルーティンは、トンガに暮らす母とつながる大切な時間でもある。

 大東大で育った2人が迎える、大学ラストシーズン。最強の双子は大東大の栄光を祈っている。

File
●名前/Amato Fakatava/Talau Mokafoa Fakatava
●生年月日/1994年12月7日生まれ、23歳
●身長・体重/195㌢、120㌔/190㌢、110㌔
●学歴/ティマルボーイズ高→大東文化大外国語学部4年
●クラブ歴/マリスト・アルビオン

Rugby
(以下、左がアマト)
●ラグビーを始めた学年/13歳/13歳
●ポジション/WTB→FL・NO8/WTB→LO
●尊敬する選手/特になし/リッチー・マコウ
●プレーしたいチーム/ジャパン、トンガ/ジャパン、トンガ
●好きな国/日本、オーストラリア、ヨーロッパ/特になし
●ラグビーのゴールは?/プロラグビー選手になること/プロラグビー選手になること

自分のこと
●好きな食べ物/ポーク、ビーフ/ポーク
●好きな日本食/寿司、ラーメン、焼き肉/寿司
●好きな本/聖書/特になし
●好きな映画/『ミッション:インポッシブル』/『タイタニック』
●好きな俳優/ジャッキー・チェン/トム・クルーズ
●趣味/卓球、映画鑑賞/旅行
●ニックネーム/特になし/モカフォア
●ラグビーをやっていなかったら/no rugby, no life/特になし
●いちばん落ち着ける場所/トンガ/自分のベッド
●ディナーに3人招くことができるとしたら/両親と友人/母、父、姉

My Favorite
●宝物は二人共通。聖書と、讃美歌の本。「トンガでは、日曜日は何もなくみんなで祈る。教会に行って、ヒム(讃美歌)をうたいます」(アマト)