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【トップイーストリーグBグループ】富士フイルムが今季2勝目。原動力は「選手のリンク」

2023.10.06

この日キックパスに反応してトライをあげ、流れを引き寄せた富士フイルム照屋



 トップイーストBグループで戦う、富士フイルムBIグリーンエルクスが元気だ。
 昨シーズンはBグループで4位という少々不本意な結果におわるも、今シーズンは10月1日のクリーンファイターズ山梨戦に勝ち、この時点で2勝1敗。勝ち星では日立Sun Nexus茨城と並んでトップを走っている。

 2勝のうち1つは昨シーズンBグループ優勝の丸和運輸機関AZ-MOMOTARO’Sを倒しての1勝だった。
 前年の結果を見て甘く見ると、痛い目にあうことは間違いなさそうだ。

 ここではその2勝目の試合を振り返りながら、混戦が続くトップイーストBグループの今後についてもみてみたい。

 10月1日、多少過ごしやすくなったとは言え、まだまだラグビーの試合には厳しい暑さの残るこの日、ホーム開幕戦を迎えた富士フイルムは、外国人選手を中心にフィジカルの強いクリーンファイターズ山梨を迎え撃った。

 その山梨の今シーズンの補強は目を見張るものがある。
 7人制日本代表経験のある盛田気(ちから)、リーグワンチームからは豊田自動織機のルーカス・ボイラン、河合航、ブランクはあるもののNECから飯山竜太、三菱ダイナボアーズからタウマファイ竜、釜石シーウェィブスからマルコム・サムなど、大卒選手も合わせると実に19人もの選手が加わっている。

 FWからBKまでバランスよく補強している。やはりこのチームは、体の大きい外国出身選手が相手にとって何よりの脅威だろう。

今シーズントヨタ時自動織機から移籍の大型LOルーカス・ボイラン。

「山梨さんはフィジカルの強い選手が多い。これを打ち消すためには選手同士がリンクしてやってゆきたい」
 試合前にそう語ったのは富士フイルム小熊康洋ヘッドコーチだ。

「アタックでもディフェンスでも、しっかりリンクして、ディテールにこだわって精度をあげてゆくこと、これを春からこだわってきた。それが(前回の丸和戦で)ようやく形になってきた」という。

 スコアボードは、キックオフからしばらくは大きく動かなかった。富士フイルムのPG1本の3点が刻まれただけだった。
 山梨が縦の突破で何度もゴールに迫るものの、富士フィルムのディフェンス陣が浅めにこれを受け止め、インターセプトやルーズボールの処理などでピンチを脱出する。

 前半25分、富士フイルムはラインアウトからFB照屋林治郎(東海大)が相手ギャップを突いてトライを奪った。
 前半終了間際にもキックパスに反応したWTB萬田開人(関東学院大)がトライ。前半を20-3で折り返す。

 このあたりの展開が「リンクして守る」という今シーズンの目指してきたラグビーなのだろう。たまたまボールが出たところに選手がいた。たまたま飛び出した選手がインターセプトした。
 というよりは、お互いに「こうしたらここに誰がいる」という意思疎通がある上でのプレーであったように見える。

ラインアウトからギャップを突いてトライを狙う富士フイルム萬田

 一方の山梨の注目の新加入の選手たちは、いずれも8月末の選手登録期限ギリギリ。外国籍選手の場合はそれ以降に合流している。

 期待の新戦力ではあるが、この短期間にどこまで仕上げられているのかが不安材料ではある。そのためなのか、あと少しのところでミスがでてしまう。
 ただ別の見方をすれば得点差こそあれ、パワーにまさる山梨がリズムに乗ってくれば全く行方のわからない展開である。

 しかし後半になって、流れをつかんだのは富士フイルムだった。6分にはCTB矢澤巧久留(法政大)がインターセプトし、そこからのパスで鹿内凌(日本体育大)がトライ。
 ちなみに矢澤の下の名前は「たくる」と読む。父親がラグビーをしていたというから、やはりそういう意味なのだろうか。ぜひ聞いてみたい。

 実は試合前に「もし試合のキーマンを挙げるとしたら?」という質問を小熊HCにぶつけるとこういう答えが返ってきた。
「山梨のフィジカルを止めるには12番、13番。がんばって止めてもらわないと」
 まさにこの期待に答える値千金のプレーだった。

 一方山梨も、チャンスは多数ある。むしろゴール前の時間帯は山梨のほうが長かったのではないかと思う。

 突進し、ブレイクアウトからまた突進し、そんな愚直なプレーが続く。後半14分ようやくLOのルーカス・ボイランが飛び込んで1トライを返した。なおこのトライは、ルーカスにとってトップイースト初トライである。

 2002年生まれのルーカスは実はまだ21歳、この試合の最年少選手だが、セットプレーにボールキャリーと、とにかくよく走った。
 この先もまだまだ伸び代のある存在はおおいに楽しみだ。

 さてこの時点で試合は27-10と、相手陣内に何度も攻め込む山梨の動きをみるかぎり、まだまだ予断を許さない展開だった。
 外国人にばかり目がいきがちだが、FB盛田気(大東文化大)、WTB佐藤樹(金沢学院大)など、どの国内選手も相手ディフェンスを押し込むプレーで着実に地域を挽回してみせた。

バックス陣も前に出る力がある山梨。FB盛田は7人制代表キャップを持つ

 ところが、後半20分過ぎから富士フイルムのFW陣が俄然力を発揮する。スクラムで2度ほど大きく押し込むシーンのあと、後半24分ついにスクラムでトライを奪う。
 これが大きく流れを引き寄せる。33分、44分とリザーブからHOに入った矢吹悠斗(関東学院大)が立て続けにモールからのトライ。試合を決めた。

 最終的なスコアは44-17。
 後半の山梨の反撃をたち切ったのは、やはり富士フイルムフロントロー陣の奮闘だろう。この日のプレーヤーめオブ・ザ・マッチにもPR1番の黒田 圭汰(法政大)が選ばれたのも納得だ。

 その黒田は試合をこう振り返った。
「とにかく低く、相手をしっかり押すことを心がけました。もう、ゴール前のスクラムは、気合いで押すしかないんで」
 この愚直さを持っていることこそが富士フイルムFW陣の強さである。

後半怒涛の攻勢の立役者となったFW陣。PR黒田がプレーヤーオブザマッチに選ばれたのも納得だ

 自分としてこのプレーは良かった、と言えるプレーは? と聞くと、「珍しくキックオフでキャッチができた」と冗談半分に言う。
 どうやらあまり器用なタイプではないようだが、器用でない選手が試合で活躍するには、それ相当の努力を積んでいなければならない。まして体格にまさる山梨を何度も押し込むプレーは偶然にはできない。

 後半に見せたFWの粘りが今後も発揮されれば、トップイーストBグループはますます混戦の度合いを深めてゆきそうだ。

 山梨も、おそらくこのままでは終わらないだろう。戦力的には間違いなくBグループ全チーム中最強の破壊力を備えている。個々の選手のスキルも高い。
 あとはシーズンの深まりと共に選手間のコミュニケーションが進めば、ここまでの0勝3敗という成績はまったく関係ない。

 まだまだリーグ戦は前半、これから秋の深まりと共にますます熱気を帯びてゆきそうだ。
 今シーズン成長著しい日立、昨年優勝の丸和、実力は折り紙つきの明治安田、そして絶好調の富士フイルム。山梨も今後調整が進んでくれば爆発力はグループトップクラスだ。

 どの試合も好カードであることは請け合いだ。ワールドカップはもちろんだが、秋のラグビーシーズン、トップイーストの観戦に出かけてみてはどうだろうか。


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