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【再録・解体心書④】19歳の開拓者。福井翔大

2023.10.05

*ラグビーマガジンの人気コーナー『解体心書』にかつて掲載された、ワールドカップ2023日本代表メンバーのインタビューを抜粋して再録。(掲載内容はすべて当時のまま)

福井翔大[パナソニック ワイルドナイツ] *2019年6月号掲載

 1年前の春、詰襟の制服を脱いだばかりの青年が、国内トップチームの門を叩いた。大学に進学せずトップリーガーになったのは、少しでも早く世界に追いつき、追い越したいから。高校時代はチームも個人も抜け出た存在。だから、上には上があると体験できた。まずは青いジャージーで信頼を得る存在になって、大きく羽ばたきたい。(文/森本優子、写真/髙塩隆)



 1年前、18歳の若さでプロラグビー選手となった福井翔大。パナソニックで1シーズンを過ごし、順調に成長を続けている。

 トップリーガーとしてだけではない。ユースの合宿でも忙しい。この3月はジュニア・ジャパンでフィジーに遠征。4月上旬にはTIDキャンプに参加、6月には、ブラジルで開催される「U20ワールドトロフィー」が控える。ジュニア・ジャパンでも主将を務め、同世代ではプレーも精神面でも中心的な存在になっているのだが…。

「パナのカップ戦とかぶってしまうので、(ワールドトロフィー参加は)迷ってます。U20日本代表も、もちろん大事ですけど、去年、パナで(試合に)使ってもらって負けてしまったので、こっちもリベンジしたい」

 19歳の心は揺れている。世界大会より、国内リーグを優先しているのではない。正反対だ。

 福井が生まれたのは福岡市と隣接している糟屋郡粕屋町。父・由樹さんはCTBとしてコカ・コーラでプレー。福井も父の影響で5歳のとき、かしいヤングラガーズに入った。

「小さい頃、背はまあまあ高かったけど、ガリガリでした。小3くらいまでは、あまり面白さを感じなかったけど、4年生あたりから、ちゃんとラグビーになってきて、楽しさを知りました」

 小学校時代は、毎週金曜に水泳にも通っていた。中学に進むと、土日はかしいでラグビーを続け、箱崎清松中ではバスケット部に所属した。

「ほぼ幽霊部員。友達と仲はよかったから、遊びに行く感覚でした。ラグビー以外向いてないと思います」

 進学した東福岡での経歴は華やかだ。1年でレギュラー(全国大会前に負傷し、メンバー外)、高2で全国優勝。高校日本代表など各種ユース代表にも選ばれている。本人は自身を「ビビリなんです」と分析する。東福岡も、当初は進学する気は全くなかった。

「親にはずっと“ヒガシは絶対行かない”と言ってました。“県選抜にも選ばれてるし、家からも近いんだから、もったいない”と言われてたんですけど、行っても試合に出られる気が全くしなかった。最初は“県でベスト8くらいのチームに入れたらいいな”と思ってました」

 それが変わったのは、中学3年で福岡県選抜に選ばれてから。年末の大会に向けて2か月間、チームとして練習を積み、花園で開催された全国ジュニア大会で見事優勝を飾る。キャプテンは福井が務めた。

「あれが僕の人生のターニングポイントでした。僕の年代、かしいはあまり強くなくて、強かったのは草ヶ江、鞘ケ谷、筑紫丘。どんなに頑張っても勝てない。ひたすら練習する日々でした。それが福岡選抜に選んでもらって、勝つ経験が出来た。仲のよかった選手たちがみんなヒガシに行くというので、じゃあ俺も行こうかな、という感じ。ヒガシでも最初は通用しなくて、ケガもしました。でも諦めないで頑張っていたら、いつの間にかレギュラーになっていました」

 県選抜での経験は、引っ込み思案だった少年を大きく変えた。そして、将来を決定づける出来事は高2の3月に訪れた。花園で優勝し、先輩の箸本龍雅主将(現明大)らと、高校日本代表に選ばれてアイルランドに遠征したときだ。2年生で選ばれたのは福井とアシペリ・モアラの2人。最終戦でU19アイルランド代表と対戦し、31-50で敗れた。

「ボコボコにされました。そのとき、キクさん(菊谷崇/FWコーチ)に“これからアイルランドの選手たちはプロに行くんだよ”と聞かされた。すでにこれだけの差をつけられてるのに、大学行ってたら、絶対追いつくのは無理。その頃から“大学に行かずに、すぐトップリーグに行きたいなあ”とぼんやり考えるようになりました」

 帰国後ほどなく、熊谷で春の高校選抜大会が始まった。そこで藤田雄一郎監督と進路についての話し合いをしたときのこと。すでに多くの大学から誘いが来ている中、本人は悶々とした日々を送っていた。

「大学に行かずにトップリーグなんて、普通に考えたら、ありえない話じゃないですか。大学もせっかく誘ってくださってるし、将来のこともある。選んだ道が正しいのかも分からない。ずっと口に出せなかった。

 進路の話をしているとき、監督が察してくださったんです。“お前、どうしたん?”って。大学の話をしてくれたんですけど、全然耳に入ってこなくて、ずっとボーッとしてた。よっぽど嫌な顔をしてたのかもしれません(笑)。

 そこで自分の気持ちを話しました。そうしたら“協力しよう”と言ってくださって、チームを探してくれて、パナソニックだけがOKの返事をくれたんです」

 大学を経ずにトップリーグに行くことを決めたのは、東福岡で培った信念があるからだ。

「周りが強い環境じゃないと、上にいくのは厳しい。自分が最も成長出来るのは、いちばんきつい環境に身を置くこと。実はそれがいちばん楽な方法じゃないかな、と」

 十代でその確信を持てるなら、上の世界に進むのも納得だ。

 かくして一昨年11月16日、東福岡高校で会見を開き、パナソニックへの入団を発表。昨春から、太田で一人暮らしが始まった。念願かなったとはいえ、プロになった当初は、目に見えない負担がかかっていた。

「周りはテレビでしか見たことのない人ばかりで、僕が勝手にびびってしまって、話しかけられなかった。ずっとお腹をこわしてて、病院に行ったら、ストレス性胃腸炎と言われて。それで4~5㌔痩せました」

 練習での戸惑いも大きかった。

「レベルはめちゃくちゃ高かったです。いちばん初めの練習でタッチフットをやったんですが、コリーさん(現FWコーチ)にふざけて背中をタッチされただけで、しゅっと息が止まりました。強すぎて。“やばい。こんなに差があるんだ”と。でも練習しているうちにいつの間にか慣れていきました」

 トップリーグデビューは10月20日のキヤノン戦。その週も「メンバー発表の2日後、緊張でお腹こわしました。僕、お腹にくるんです」

 後半34分、マット・トッドの交代で出場。プレー時間は6分だった。

「プレー時間は短いんですけど、あの場に立たせてもらっただけで、幸せだなあと感じました」

 最終的に、トップリーグは交代で6試合に出場した。

「1年目は思っていたより試合に出られたので百点。前例がないから基準をつけづらいけど、僕の中では楽しかった」 

 高校からトップリーグに進んで、最も違いを感じたのはスピード。

「ヒガシももともとテンポははやいし、高校ラグビーも身軽さが売りじゃないですか。でもいざ入ってみたら、こっちのほうが全然はやくて、パフォーマンスどうこうより、試合についていくだけで必死。最近、ようやく慣れてきました」

 迎えた2年目。目指しているのは先発だ。昨季、先発で出場したのは練習試合のNTTコム戦とNEC戦だけ。

「6月のカップ戦は代表選手も抜けているので(先発を)狙ってます。試合に出たくてたまらない。練習も、最初はついていくだけだったのが、いまは練習内容を楽しめているし、“ここはこうしよう”と考える余裕が出てきた。若い力でチームを変えて、パナを優勝させたい」

 今は毎日が楽しい。何より好きなだけ練習が出来る。去年着ていた試合ジャージーが、すでにピチピチになってきたのも嬉しい。2年目の日々を「いま、苦がない。僕にとって無駄がないんです」と断言する。

「プロになってすごくよかったと思っています。身体もでかくなったし、色々な考え方の人に会うことが出来た。同年代だけでは絶対出来ない経験が出来ている」

 トップレベルの練習に慣れてくると、ユース合宿とのギャップも感じるようになってきた。

「コンタクトレベルが全然違うし、スキルも違う。U20の合宿から戻ってパナの練習に参加したら、慣れてるはずでしたけど、正直、うわっと感じた。最初ついていけなくて、おいてきぼりにされて…。ちょっとショックでした」

 影響を受けた人物として名前を挙げるのは、昨季所属していたFLマット・トッド。 

「トディは人間性もプレーも、全部が素晴らしくて、NZに帰ってしまうときはすごく寂しかった。彼に会えたのは、僕の人生の宝。みんな、“ポーウィー(デービッド・ポーコック)もすごいよ”って言うんですけど、僕は全然知らなくて。会うのが楽しみです」

 一緒に練習しているのが現役オールブラックスでは、違いを感じるのも無理はない。もちろん、ユースの重要性も楽しさも分かっている。

「同年代でやると、同窓会みたいで楽しい」

 人生はタイミングだ。3年で高校日本代表に選ばれて同じことを感じても、すでに決まった進路は変えられない。福井は2年生で選ばれたから、トップリーグという選択肢が生まれた。若くして頂を垣間見た人間が、より高いレベルに身を置きたいと願うのは、自然なことだろう。カップ戦を逃すと、もう今年の試合はないのだ。

「よく周りから“まだまだ先は長いんだから、急がなくていいよ”と言われます。でも、去年があまりに楽しくて刺激的で早く終わり過ぎて、“このままだと、すぐ引退しちゃうんじゃないか”と焦ってます」

 まずはパナで通用する選手になること。代表云々は、その先だ。

「将来のことはまだ漠然としています。まずは目先のことを考えようと。そうしたら、必然的にいろんなことがついてくる。今あるベストを出そうと思っています」

 U20に関しては、これからじっくり考えて結論を出すという。どちらの道を選ぼうと、目指すゴールは変わらない。

File
●名前/福井翔大(ふくい・しょうた)
●生年月日/1999年9月28日
●身長・体重/186㌢・99㌔
●学歴/松島小→箱崎清松中→東福岡高校
●代表歴/高校日本代表、U18日本代表、ジュニア・ジャパン、U20日本代表、U20セブンズ日本代表
●家族構成/父・由樹さん、母・由美さん、姉・花実(かさね)さん、妹・綾乃さん

Rugby
●ラグビーを始めた学年/年中(5歳)
●ラグビーを始めた頃の憧れの選手/父
●ポジションの変遷/BK→FW→BK→FW
●一番印象に残っているゲーム/高校2年時の高校日本代表対アイルランド代表戦
●尊敬する選手/吉永純也さん(東福岡の2年先輩・現法大3年)。「1年でレギュラーになったのが僕と丸山(東海大)と平尾(立命大)の3人。2人は先輩と仲良くしてたんですが、僕は臆病だった。そのとき、ずっと良くしてくださったのが純也さん。“絶対この人についていこう”と思いました」
●目標とする選手/マット・トッド(クルセイダーズ)
●もっとも敵にしたくない相手/マット・トッド
●どこに勝つのが一番うれしい?/オールブラックス
●影響を受けた人物/藤田雄一郎先生(東福岡監督)、菊谷崇さん(高校日本代表FWコーチ)、マット・トッド(前パナソニック)。トッドは「初めて身近に接した世界レベルの選手」
●気に入った遠征地/オーストラリア
●好きなラグビー場/秩父宮ラグビー場
●好きな海外チーム/クルセイダーズ
●ラグビーのゴールは?/なし

自分のこと
●好きな飲み物/コーラ
●苦手な食べ物/レバー
●好きな本/ONE PIECE
●好きなタレント/ダウンタウン
●よく見るサイト/You Tube
●好きな映画/ボヘミアン・ラプソディ
●好きな俳優/浜辺美波
●好きな音楽/ケツメイシ
●趣味/犬。実家では飼っているが、今はYou Tubeで可愛い犬の画像を探す
●ニックネーム/福ちゃん、ショウタ
●尊敬するスポーツ選手/室伏広治。「男の憧れ。最強じゃないですか」
●試合前に必ずやること/ジェルで髪の毛を固める
●ラグビーをやっていなかったら/考えられない
●いちばん落ち着ける場所/家
●帰省したとき必ず食べるもの/博多ラーメン一双。高校の近くにある
●ジンクス/たくさん寝る
●故郷(福岡)の良いところ/ご飯が美味い
●故郷お勧めのお土産/めんべい。群馬に戻るときは買って帰る
●これがなければ生きていけない!/犬。実家で飼っているのはジャック(トイプードル)、アリス(ミニチュアダックスフンドとチワワのミックス)

My Favorite
●宝物/母方の祖父からもらったペンダント(写真下)。実家は下関にある。「小さい頃からおじいちゃんもおばあちゃんも大好きで、遊びに行くのが楽しみでした。おととしくらい、遊びに行ったときにもらいました。なんだか、由緒ありそう」