ラグビーリパブリック

【再録・解体心書③】楽天家で行動派。長田智希

2023.10.04

*ラグビーマガジンの人気コーナー『解体心書』にかつて掲載された、ワールドカップ2023日本代表メンバーのインタビューを抜粋して再録。(掲載内容はすべて当時のまま)

長田智希[早稲田大学] *2019年10月号掲載

同じく年代代表に選ばれ主将を務めてきた福井翔大(パナソニック)が言う。「あいつが本当のキャプテン。『おっさん』がいてくれたから、自分でもなんとか務まった」。スパイクを脱げば素顔は、のんびりとした優しい『おっさん』。オフの穏やかさは、オンのたぐいまれな勤勉さと対をなしている。(文/成見宏樹、写真/髙塩隆)



 あらゆる年代代表に選出され、実績を残すエリートである。

 バランスの取れたプレーの術を持ちながら、ミッドフィールドで誰よりも体を張り、メンタルたくましく周囲を引っ張り、勝負を制していく。

 2019年7月21日、ブラジルはサンジョゼ。また一つ、うれしいメダルを胸にした。U20日本代表として、U20トロフィーを制す。ポルトガルとの決勝は、わずか1点差の勝利だった。

 選手たちの間で重要な役割を果たしたリーダーの一人に、長田がいる

 福井翔大主将は「頼りにしている」と公言、プレーの説得力だけではなく、穏やかで素直な人柄は、いつも人の輪の中にあった。あだ名は、「おっさん」。まだ十代。踏んだ舞台は数多くエピソードは尽きないが、ここは、大学シーズン直前に味わったサンジョゼの「美酒」の話から。

「僕らが予想していたよりも、ポルトガルはずっと、フィジカルが強いと感じました。FWがスクラムで踏ん張ってくれたから何とかなりました。やっぱりセット、特にスクラムが強いって、しやすいなあって思いました。ポルトガルに対してもっと準備もしたかったですけど、今回は直前にメンバーが変わったりで、選手としては一戦、一戦、目の前のことだけ考えて戦っていました。

 大会が始まった時には、まだチームは完成していなかった。戦いながら、サインができるようになったり…。正直、ずっと準備してきた僕らからすれば『サインくらい覚えてきて』と感じてしまうのですが、そこは、突然招集された選手も、たいへんやったと思います。こちらも伝えきれてないところがある。だから、まず、思ってることはしっかり言おう、伝え方は考えよう、と。もとからいる奴らからフォローしていこうって話は、しました。

 うれしかったのは、ケニア戦ですかね。ポルトガル戦(優勝決定戦)の前だったので、リザーブ中心の先発だったんですが、このメンバーが、それまでみんなでやろう、と言ってたことを試合で体現してくれた。ディフェンスでも、タックル数がみんな多かったんです。

 U20は、去年のチャンピオンシップも選んでいただいて(出場なし)いたので、責任というか、次の年代に繋がないといけないという気持ちはありました。来年の選手には、今度はチャンピオンシップでは勝ってほしい。少し、ほっとしています」

 ラグビーの最終目標は、という質問には日本代表と答えた。これほど赤白のジャージーを着た人でも、やはりフル代表には憧れるものなのか。

「ラグビーを始めた時から、日本代表はかっこいい、すごいっていうイメージがありました。だれ、というわけでなく、いいなあと。U20にも選んでもらっていますが、これは、年代別のものであって、本当のジャパンとは別物やと思います。いろんな世代の人がいて、チームがあって、それぞれに歴史を積み上げてきた中で、今の、ベストの人がそれをつかみ取るのがジャパンだから。

 自分はまだ全然そのレベルにないので、ポジションなども想像できません。でもできれば…CTBで選ばれたい。

 本当にこの先は、今のままでは全然通用しないと感じます。自分のポジションは海外出身の選手も入るし、一体どうやったら、あのレベルに入り込めるのか、考えます。

 たぶん、今までの自分は『泥臭く、地味なプレーで貢献できたら』というスタンスでなんとかやってきた。場数を踏んでいるから、『気が利く』的なことも言ってもらえますが、それも、ここからの上の人にはみんな備わっている。つまり、僕の持っているものは普通になっていくと思う。だから、プラス、自分なりの大きな武器を持ちたいんです」

 ふわりとした受け答えの中で、考え尽くした答えが次々に表明される。自己分析はむしろ悲観的なほど厳しいが、やってみなくちゃわからないという前向きさが行動力の源か。日本代表に少しでも近づくために、早稲田で何をしよう。そんなプランも持っている。

「チャレンジしたいと思っています、今年は」

 たとえば、タックル一つとっても、今までは「抜かれない」が第一義だった。これからは「ここ一番」で相手を仰向けにひっくり返すタックルも、できるようになりたい。一発で流れを変えるような。そのためのリスクは自分の中で負っていきたいと覚悟を決めている。ディフェンスの考え方にも、幅が生まれるだろうか。

 ラグビーとの出会いは、同級生の友達の誘いがきっかけだった。

「笹岡海斗(京都成章→京産大)が誘ってくれて。小4でした、他に小1から空手もやっていたのですが、初めての試合で、ボール持って走るって、ただそれだけってシンプルさがすごく良かった。自由で、楽しいって思いました。ちなみにその時はFWで出てました」

 足は当時から速く、中学ではBKに。部活動でラグビーを続けるため、車で20分ほどの神川中に越境して通った。高校の進路は、実はあまり深刻には考えていなかった。

「近くの強いところかなあ、という程度、それが、中学の先生に勧められて仰星に」

 東海大仰星では1年からリザーブ出場、3年になった時、過去の3年生の姿を、もっと見ておけば良かったと悔やんだという。

「1年から一生懸命やっているつもりだったけど、3年になったら、もっとやっておけばと思った。だから、3年では出し切りました。大学に来てすごく意識しているのは、先輩の姿をしっかり見ておくことです。あとは、1、2年だからできることは、今やっておく」

 ディフェンス面でのリスクを負うというのもその一つなのだろう。

 本来はまったくキャプテン・キャラではない、というのが本人の分析だ。高校3年で指名を受けた時には戸惑った。

「僕ですか? っていう。いったい、どんなキャプテンになれるだろうと考えて、まとめる力が自分にあるとは思えなかった。言葉よりもプレー、誰よりもしんどいことをやる、やり続けるしかないと思いました。ウエートも、練習も、試合でも。誰よりもやる」

 しかし、非情にも限界は花園でやってきた、という。長田たちの花園優勝までの道のりは山あり谷ありだった。選抜は予選リーグ敗退、なかなか結果が出ない中で迎えた冬。3回戦では、秋田工と同点、トライ数差で辛くもしのいだ。

「あのレベルになると、プレーだけじゃ、やっぱり足りないと思いました。勢いがあればいいけれど、みんながしんどい時、インゴールやハーフタイムにどんなことが言えるのか、どんなことを考えているのか、特別なものがないと、それが伝わらないと、局面が変えられない。みんなを勝たせられない」

 しかし、それはキャプテンの思い込みだったかもしれない。背中を見続けてきた部員は、なんとかサポートしたいと、長田にプレーでお返しをしてきた。

「みんなが、いいプレーで持っていってくれたんです。自然と、自分も最後の方はみんなに声がかけられるようになった」

 花園は最後に、最高の思い出の場所になった。

 進学先に選んだ早稲田は、プレースタイルが自分に合うと思って決めた。

「僕は、止まった試合よりもテンポの中で生きるタイプ、BKとFWがリンクして動くところもいいと思いました」

 ここでも1年から出場を重ねている。昨年は、7試合に先発出場。主にWTBとして活躍した。敗れた大学選手権準決勝はフル出場でノーサイドを迎えた。

「最後の明治戦は、自分らがアタックで疲れて、ミスして負けてしまった。ああいう場面で自分が局面を打開できていたら、と思えて悔しかった。ピンチでも、『どうにかできる選手』になりたい」

 今年はリスキーなプレーにもチャレンジしたい、という試みには、悔しいラストゲームへの思いがある。

「早稲田は、常に日本一を目指すチーム。歴史があって、常に勝たなくてはいけないチームなんだと、日々感じさせられます。だから、ベスト4では全然満足できない」

 間もなくシーズンイン。

 今季は、本人も望むCTBでの出場が増えそうだ。

「スタイル、考え方を少し変える意味では、去年のWTBよりも、CTBの方がたくさんボールに触れて、たくさんタックルの回数もある。その方がやりやすい。機会がたくさんあれば、チームに対してできることもいろいろ広がるのでありがたいです」

 8月31日、菅平での開幕戦に長田の姿はあるか。

 ラグビーファンは今年、変わろうとするエースの模索と成長の過程を見ることができる。

 スポーツ科学部に通う長田は体育教員免許の取得を目指している。これだけラグビー部の予定が詰まり、代表の遠征もある中で、単位は取れているという。

「トップリーグに行きたい。そのあとは指導者、よりもまず先生のイメージが強いかもしれません。高校時代、湯浅先生(大智/ラグビー部監督)以外にも、これはという先生と何人か会えました。自分の教科に対して熱くて、こちらを見てくれている感じ。一度『長田、ラグビーを言い訳にはするなよ』と厳しく言ってくれました。仰星にはそういう先生がいるんです」

 小さく胸を張るおっさん。高校と合わせて中学資格も取るべきか、いま悩んでいる。

File 
●名前/長田智希(おさだ・ともき)
●生年月日/1999年11月25日
●身長・体重/179㎝/88㎏
●学歴/大山崎小→神川中→東海大仰星高→早稲田大スポーツ科学部2年
●代表歴/高校日本代表、U17日本代表、U20日本代表、ジュニア・ジャパン
●家族構成/母・幸子さん、兄・優輝さん(2歳上)

Rugby
●ラグビーを始めた学年/小4(亀岡ラグビースクール)
●ラグビーを始めた頃の憧れの選手/特になし
●ポジションの変遷/FW(小4)→CTB
●一番印象に残っているゲーム/2017年度全国高校ラグビー決勝・大阪桐蔭戦
●尊敬する選手/齋藤直人(早大4年)
●目標とする選手/自分は自分なので、特になし
●もっとも敵にしたくない相手/中野将伍(早大4年)
●ライバル/特に考えない
●どこに勝つのが一番うれしい?/どこでも同じうれしさ
●影響を受けた人物/湯浅大智(東海大仰星監督)
●気に入った遠征地/ブラジル・サンジョゼ(2019年U20トロフィーで)
●個人として最も重視するプレーは/タックル
●ラグビーのゴールは?/日本代表

自分のこと
●好きな食べ物/ハンバーグ
●苦手な食べ物/刺身
●好きなタレント/西野七瀬
●よく見るサイト/YouTube
●好きな映画/「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」
●好きな俳優/特になし
●趣味/映画鑑賞
●ニックネーム/おっさん(中学くらいから)
●尊敬するスポーツ選手/武尊(格闘家)
●試合前に必ずやること/音楽を聴く「You Raise Me Up」
●ラグビーをやっていなかったら/何かスポーツ選手
●いちばん落ち着ける場所/実家
●帰省したとき必ず食べるもの/ホットケーキ
●ふるさと自慢/自然がいっぱいです
●これがなければ生きていけない!/コンタクトレンズ
●誰でも3人、ディナーに招けるとしたら/家族がいいです

My Favorite
●宝物/花園の優勝メダル(写真下)「いろいろプロセスがあって取れたものなので(高3時)、うれしかった。微妙に、ダサいのが素敵ですよね。昔からデザインが変わっていないそうですね」