信頼の厚さを独特の表現で伝えた。
日本代表のスクラムドクター、長谷川慎アシスタントコーチは、「ふたりが先(先発)でもいいと思っています。(起用の)順番はジェイミー(ジョセフ ヘッドコーチ)が決めているので(自分には決定権はない)」と話した。
その『ふたり』とは、クレイグ・ミラーとヴァル アサエリ愛。日本代表のスクラムを支える左右のプロップだ。
両者とも埼玉パナソニックワイルドナイツ所属。お互いをよく理解している。
開催中のワールドカップ(以下、W杯)で日本は、プールDの中で戦っている。
ここまで2勝1敗。チリとサモアに勝ち、イングランドに敗戦。10月8日のアルゼンチン戦に勝てば、ノックアウトステージに進む。
ふたりは共に、チリ戦、イングランド戦、サモア戦の後半にプレーした。
ミラーはチリ戦、イングランド戦では、それぞれ後半18分、後半10分から登場し、ヴァルは両試合とも後半スタートからピッチに立った。
サモア戦には、ふたりとも後半7分から出場している。
ミラーにとっては初めてのW杯。独特の空気を楽しんでいる。
「いい経験を積めています。選手たちは、試合ごとに自信を深めています。たくさんのファンがいる素晴らしい雰囲気の中で、一人ひとりがベストを尽くす気持ちでプレーしています」
10月2日のトレーニングではアルゼンチン戦に向け、タックルの練習が繰り返された。
FWのダイレクトプレーを仕掛けてくることは分かっているからだ。
ミラーは「相手のモメンタムを止めることが大事」と話す。
もともとタックルの数は多い。しかし、ハードなコンタクトを好むアルゼンチンが相手となれば、もう一段ギアを上げなければいけない。
「(強いタックルをするため)常に体を(相手と)スクエアにして、前に出させないようにしないと。それがボールを取り返すことにもつながるので」と気を引き締める。
アルゼンチンは、情熱的なスクラムを組んでくることでも知られている。
そんな相手に対しFWは、週末の試合でのスクラムについて、より一体感を高めるためのキーワードを決めることにした。
長谷川コーチのそんな提案に、「ブラザーフッド」の言葉を出したのがミラーだった。
「お互いのために力を尽くすことが大事」と思うからだ。
すべての力を出し切る覚悟で戦いに挑む。
2019年のW杯も経験し、準々決勝進出をかけたスコットランド戦にも出場しているヴァルは、同じような状況で戦うアルゼンチン戦について、「あの大会を経験している選手たちも多いので大丈夫」と自信を見せる。
「みんなで同じ絵を見てプレーすることが大事。勝ちに行きます」と、力強く燃える胸の内を言葉にした。
優しい表情で「アサ」と親しまれる男は、練習時に感じているフィーリングを、「みんなのコミュニケーションが高まって、スクラムなどがレベルアップしているように思う」と話す。
前述の前回大会のスコットランドとの一戦では、ケガをした3番の具智元に代わり、前半21分から急遽出場。チームの勝利に貢献した。
その経験は、ふたたび訪れた『負けたら終わり』の試合でも力になるだろう。