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【再録・解体心書②】秋に、会いましょう。ディラン・ライリー

2023.10.03

*ラグビーマガジンの人気コーナー『解体心書』にかつて掲載された、ワールドカップ2023日本代表メンバーのインタビューを抜粋して再録。(掲載内容はすべて当時のまま)

ディラン・ライリー[パナソニック ワイルドナイツ] *2021年8月号掲載

2023年のワールドカップに向け、1年ぶりに始動した日本代表。今回の遠征には同行していないが、2年後にイングランドやアルゼンチンのディフェンスを切り裂きそうなアウトサイトBKが控えている。そのスピードとフィジカルは、トップリーグ決勝でも存分に発揮された。5月で24歳になったばかり。いまは、晴れてサクラを着られる秋の代表シーズンに向け、黙々と汗を流している。(文:森本優子、写真:髙塩隆)



 6月16日、エディンバラに向けて出発した日本代表。ディラン・ライリーは5月27日から始まった合宿に、唯一遠征メンバー外で参加した。代表資格取得は今年の秋だが、チームが日本を発つ前日まで帯同した。

「松島(幸太朗)がいないのでBKが足りなかったのと、秋から資格がとれるので来てもらった」と、藤井雄一郎チームディレクターが理由を説明する。

「ツアーには行けないのに、合宿に呼んでもらえた。選手もスタッフも全員が温かく私を受け入れてくれました。とても栄誉なこと」

 ライリー本人も感謝を口にする。パナソニックに加入したのは’17年12月。リーグ戦デビューは加入2季目(2019年度)の開幕クボタ戦。爆発的なスピードで一気に注目される存在となり、全6試合に先発。3季目の今季はさらに成長。全11試合で先発、13番をつけた。187㌢102㌔のサイズに、チーム内でも福岡堅樹と一、二を争う初速。ジョセフHCが早々と合宿に呼んだのも、メンバーの構想に入っているからだろう。

 ライリーは今回パナソニックから同時に代表入りしたベン・ガンター、ジャック・コーネルセンと同じく、豪州クインズランドでプロを目指していた青年だ。母国で声はかからず、ワイルドナイツからトライアウトの誘いを受けて来日した。

「もともと若くて才能のある選手をつれてきて、日本で育てたいという考えはありました」(飯島均GM)

 ロビー・ディーンズ監督を核としたスタッフが広くアンテナを張り、選手をリストアップ。様々な関係者に評価を尋ね、本人と面接した上で、トライアウトへと進む。それゆえ、ラグビーで人生を築いていこうという強い決意を持った若者が集う。加入後はコーチ陣が、一からラグビーの基礎を仕込み、フィットネスを鍛えて育て上げる。まさに「メイド・イン・太田」の選手たちだ。

 ライリーが生まれたのは南アフリカのダーバン。南ア人の父と英国人の母親のもと、10歳で豪州のゴールドコーストに移住した。

「家では英語を使っていたので、アフリカーンスは話せません。ダーバンとゴールドコーストは環境も似ているし、両親は新しい挑戦を始めたかったのだと思います」

 父親はラグビー選手ではなかったという。移住したばかりの頃は、南アなまりの言葉も、すぐにオージー英語になり、すんなり地元に溶け込んだ。

「幼いころから、将来はプロのスポーツ選手になりたいと思っていました。高校に入るまではクリケットをやっていましたが、16歳のころ、“スポーツで身を立てるなら、ラグビーかな”と、ラグビーでプロを目指すようになりました」

 ラグビーの強豪校であるサウスポートスクールに所属。卒業後はNRCブリスベンシティでプレー、U20豪州代表にも選ばれ、レッズU20の練習にも参加していたが、正式なプロ契約ではなかった。

「当時はスーパーラグビーが目標でしたが、チャンスがなかった。次のレベルに進みたい気持ちが強かったので、トライアルの話がきたときは迷いませんでした」

 当初、日本に関しての知識はそれほどなかった。

「高校時代から対戦して知り合いだったガンツ(ガンター)が日本にいたので、電話してどんな様子か聞きました。何よりガンツ自身が日本での生活を楽しんでいた。未知の場所に行く際、知り合いのアドバイスは心強いものです」

 ’17年11月に来日。12月に正式に契約する。

「オーストラリアでは、そこまでラグビーについて深く考えたことはありませんでした。パナソニックに来て、いろいろな選手と話してトレーニングする中で、プロとして自分がどう成長すべきか学びました。

 頑健な体躯に、天性のスピード。スキルの吸収も早かった。’18年のトップリーグデビューを目指していたが、開幕直前の東芝との練習試合で膝に大ケガを負う。’19年1月から始まったカップ戦に出場し、同年秋のリーグ戦でデビューした。

 昨季はダミアン・デアリエンディ(南ア代表)、今季はハドレー・パークス(ウエールズ代表)と、世界のトップクラスのCTBとコンビを組んだことで、成長が促進された。

「インターナショナルレベルの選手とペアを組めたことは、私にとって貴重な経験でした。試合に出るたび、新しい発見がありました。彼らは経験豊富で、コミュニケーションをとってくれるので、最初からやりやすかった。はじめのうちは彼らのアドバイスに徹して、徐々に自分のプレーを出していきました」

 今季のトップリーグでライリーの出色のプレーを挙げるなら、決勝・サントリーサンゴリアス戦で前半5分、SOボーデン・バレットのパスをインターセプトしてそのままトライした場面だろう。

「あのときはパナソニックのラインアウトをサントリーがターンオーバーして、こちらがプレッシャーを受けている状況。サントリーはボールをワイドに動かしてくると予想していました。
 ボーデンにプレッシャーをかけようと思って飛び出したら、ボールが浮いているのが見えた。自分のタイミングで取れると判断したので、思い切って奪いに行きました」

 序盤でのインターセプトは、7点差以上の重圧を相手側に与えた。

「ロビーさんは“インターセプトも技術”と言います。あの場面、かなり確信を持って行っていた。バレットはランニングに長けた素晴らしい選手ですが、スタンディングパスが狙い目だったのかもわからない」と飯島GMは見る。

「決勝はいいスタートが切れましたが、その後、やらなくてはいけないことがたくさんあった。それをやったことが結果につながった」

 後半に追い上げられたものの、31-26でチームとして6季ぶり、トップリーグで最後の王者に輝いた。

「優勝したのは、U20州代表の試合以来です。一流選手と一緒にプレーして優勝できた。その間隙は格別でした」

 歓喜の翌日はベスト15の表彰式に出席、数日の休みを経て日本代表の別府合宿に合流した。

 ライリーにとっては、パナソニック以外で初めて参加する日本のチーム。まずは練習時間の違いに驚いた。パナソニックの全体練習長くて2時間。一方の日本代表は、1日3部練習も珍しくない。

「パナソニックより、強度も時間も激しくて長い。慣れるまで2~3日かかりました。ジャパンのスタイルはスピードを活かしたい自分の考えと似ています。もっとフィットネスを上げて、最後までスピードを落とさないプレーをしなくては」

 合宿では、同じポジションのラファエレ ティモシーや中村亮土と、コミュニケーションをとった。

「今回の合宿の一番の目的は、短い時間でチームになること。私も積極的に他の選手と交流することを心がけていました」

 代表入りを希望しながら、昨年のコロナ禍で帰国、居住年月を満たせず選考から外れた選手もいた。パナソニックの選手たちは、コロナ禍での厳しい環境をクリアしての代表入りだ。ライリー自身、母国には昨年3月以来、15か月帰国していない。

「きつい部分もありましたが、代表になりたいという目標がしっかりしていたし、親も応援してくれたので、問題なく過ごせました。何よりガンツ、コーニー(コーネルセン)と仲間がいたことが支えになった」

 オフの時間は有効に使われた。3人で「ザ・ブランク・コレクティブ」というブランドを立ち上げたのだ。

「3人ともクインズランド出身で仲がいい。去年はたくさん時間があったので、何か始めたいね、と、ちょうど1年前の6月に立ち上げました。役割はきっちりと分かれているわけではないのですが、僕が写真を撮って、コーニーがウェブデザイン、ガンツがまとめ役」

 バッグはすでにオンラインで発売され、パナソニックの選手たちも愛用している。特徴は取り外しの効く「仕切り」が何枚もついていること。遠征に出ることも多い、彼ら自身の経験をもとに考え出された。

「デザインに関しては、3人で話し合いました。試合が終わった後、東京に出かけることもある。一般の人も、出張で仕事が終わってジムに行くこともあるでしょう。仕切りを使って、自分の使いやすいようになればいいなと」

 ブランド名も「買ってくれた人が自由に使えるキャンパスのように」と、ブランク(空白)という単語を入れた。現在はダッフルバックが主だが、将来的にはバックパックやアパレルにまで広げたい考えだ。

 スタッフによると3人はそれぞれ個性が分かれており、最年長のコーネルセンはスマートで落ち着きある長男タイプ。ガンターはよく喋る陽気なガキ大将。同い年のライリーはシャイでもの静かな性格だという。パナソニック同様、日本代表でも揃って出場することもありそうだ。

 二人が参加した今回の欧州遠征は、テレビの前で応援する側に回る。

「日本代表がどういうラグビーをするのか、実際に経験しました。厳しい練習を経てきた仲間が勝ってほしいと、心から願っています。私も今回の合宿で、ジェイミーからいくつか課題をもらいました。秋には代表として試合に出たいので、その前にまだ努力しなくては」

 秋まで太田と熊谷で汗を流す日々が始まった。それでも目指していたサクラは、手の届くところにある。飯島GMも期待をかける。

「大きくて速くてディフェンスもいい。もう一つ、顔もカッコいい(笑)。すごい奴はカッコいいんです。スター性もあるし、世界でもトップレベルのアウトサイドCTBになれる可能性がある」

 秋の日程発表が待ち遠しい。

File
●名前/Dylan Riley
●生年月日/1997年5月2日生まれ
●身長・体重/187㌢・102㌔
●学歴/サウスポートスクール
●代表歴/U20オーストラリア、U20クインズランド
●所属クラブ/ボンド大、パナソニックワイルドナイツ
●家族構成/父、母

Rugby
●ラグビーを始めた年齢/11歳
●ラグビーを始めた頃の憧れの選手/パーシー・モンゴメリー(南ア代表FB)
●ポジションの変遷/CTB、WTB
●一番印象に残っているゲーム/2021年トップリーグ決勝・対サントリー
●尊敬するコーチ/キャリアに関わってくれたすべてのコーチ
●影響を受けた選手/特になし
●プレーしてみたいチーム/日本代表
●好きな国/アメリカに行きたい
●好きなラグビー場/熊谷ラグビー場、秩父宮ラグビー場
●好きな海外チーム/Cleveland Browns(NFL)
●これからのラグビーのゴールは?/テストマッチに出自擁する

自分のこと
●好きな食べ物/日本食
●好きな日本食/寿司
●苦手な食べ物/特になし
●好きな本/特になし
●好きな映画/The Blind Side(しあわせの隠れ場所)
●好きな俳優/Adam Sandler
●趣味/特になし
●ニックネーム/Dyl(ディル)
●尊敬するスポーツ選手/トム・ブレイディ
●太田で好きな場所/スターバックス
●ジンクス/試合前に音楽を聴く
●母のアドバイス/自分に自信を持つこと

MY FAVORITE
●クインズランド出身のチームメートであるジャック・コーネルセン、ベン・ガンターとともに昨年6月に立ち上げたバッグのブランド「The Blank Collective」。彼ら自身がモデルとして登場、オンラインで購入可能。https://theblankcollective.com.au