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【車いすラグビー日本選手権予選・福岡大会】連覇を狙うFreedomが全勝で本大会進出!

2023.10.03

(陸上で培った)コアに力を伝達して車いすを押す動きや体力がラグビーに役立っていると語るパク・ウチョル(右/Fukuoka DANDELION)(撮影/張 理恵、以下同)

今井友明(右/RIZE CHIBA)はチームの成長のため自身の経験と知識を伝えていくつもりだ。(左・日向顕寛/RIZE CHIBA、中央・池透暢)



 ボールを追いかけ懸命にトライをする全力プレーに、福岡が沸いた。

 9月23日と24日、「第25回車いすラグビー日本選手権予選 福岡大会」が福岡市立住吉小中学校 体育館で開催された。

 先月の東京大会に続いておこなわれた今大会には、Freedom(高知)、Fukuoka DANDELION(福岡)、RIZE CHIBA(千葉)の3チームが出場し、会場を揺るがすほどの大声援のなか、白熱した試合が繰り広げられた。

 総当たり戦を2回実施した全6試合の結果、FreedomとFukuoka DANDELIONが日本選手権(2024年1月開催)の出場権を獲得した。

 4戦全勝の首位で予選を突破したのは、日本選手権連覇を狙うFreedomだ。
 昨年度の日本選手権では全員ラグビーで悲願の初優勝を果たし、7月に自主大会として開催した「Freedom Cup」(※)でも圧倒的な強さで全勝優勝した。

※Freedom、Fukuoka DANDELION、TOHOKU STORMERS(東北、昨年度の日本選手権・準優勝)の3チームが参加。

 Freedomは日本代表キャプテンの池透暢と強化指定選手の白川楓也を擁し、2人が同時に入るラインアップはオフェンスとディフェンス、それにゲームメイクにおいても卓越したパフォーマンスを見せた。

 しかし、中心メンバーの渡邉翔太と、練習熱心でめきめきと実力をつけている森澤知央が欠場した影響は大きく響いた。
 池がベンチスタートしたRIZE CHIBAとの初戦は、試合開始直後に6点をリードされる波乱の幕開けとなり、思わぬ苦戦を強いられた。

 ヘッドコーチを兼務する池は、「合宿を重ねながら繰り返しやってきて成長したと思ったが、いざ試合になると消極的になったり、みんながバラバラな動きをしていた。技術や戦術が自分たちのものになっていないということを痛感した」と試合を振り返る。

 それでも、これまで以上にスペーシングを意識した連係プレーや、力強さが加わった白川のランとパスはFreedomが目指すラグビーをしっかりと示していた。

 試合が進む中でプレーを見直し、声を掛け合って車いすのポジションやターンの向き等、細かい修正をしながら、徐々に本来の動きを取り戻した。
 こうした修正力は、セオリー通りの動きをただ覚えるのではなく、どうしてこういう動きが求められるのかを考え、答えを導き出しながら、チームで根気強く土台を築いたからこそ成し得るものだろう。

 チーム設立メンバーのひとり、61歳の和田将英が4試合で14のトライを挙げるなど奮闘ぶりを見せ、7名(うち、3名が45歳以上のオーバーエイジプレーヤー)で戦い抜き、昨シーズンからの公式戦連勝記録を13に伸ばした。

「目標は、日本選手権連覇」と、キャプテンの白川はブレずに語った。
 連覇達成に向け、Freedomが本大会でどんな戦いを見せるのか、注目したい。

日本選手権連覇という目標に向けチームを牽引したキャプテンの白川楓也(右/Freedom)(左はパク・ウチョル)
日本代表として活躍する池透暢(左/Freedom)と乗松聖矢(右/Fukuoka DANDELION)は世界レベルのプレーで観客を魅了した

 2勝2敗の2位で日本選手権への切符を勝ち取ったのは、福岡を拠点に活動するFukuoka DANDELION(以下、DANDELION)だ。地元開催ということで、会場はお手製グッズを持った応援団で埋めつくされた。

 来月、フランス・パリで開催される「国際車いすラグビーカップ」で戦う日本代表メンバーに、同チームから3名(乗松聖矢、安藤夏輝、草場龍治)が選出された。

 3人ともディフェンス面で大きな役割を担うローポインター(障がいの重い選手)とあって、ディフェンスの強さには定評があったが、キャプテンの安藤が「うちのチームは走るのを武器にしている」と自信満々に語るように、今大会では国内トップレベルの走力を見せつけた。

 加えて、2019年のアジア・オセアニア選手権で韓国代表のエースとして活躍した朴雨撤(パク・ウチョル)、朴承撤(バク・スンチョル)兄弟の存在がチームに大きなエナジーをもたらした。
 日本のクラブチームでプレーしたいと数年前に「日本車いすラグビー連盟」に問い合わせ、DANDELIONを紹介してもらいチームに加入した。

 昨シーズンは新型コロナの影響で来日がかなわなかったが、約4年ぶりにチームに合流し、今大会で3回目の出場となった。今ではすっかりチームに馴染んでいる。

 2019年に韓国代表を引退し、兄弟で車いす陸上へと転向した。陸上でも韓国代表に選出されるほどの実力を誇るが、大好きなラグビーの練習もふたりで続けている。

 スピードと熱いハート、それに聡明さも兼ね備える弟・ウチョルは「チームがより良いパフォーマンスを出せるようサポートしたい」と語り、障がいの重い兄・スンチョルも「スクリーンをかける等、少しでも仲間が楽に戦えるようなプレーでチームに貢献したい」と力を込める。
「家族のように親切な」チームメートやスタッフへの感謝を胸に、プレーで応えていくつもりだ。

 そんな朴兄弟に、乗松も絶大な信頼を寄せている。
「自分に似て負けず嫌い。キツいこともたくさんあるけど、いつも笑顔でやってくれる彼らに、僕はいつも助けられている。来年もその先もずっと一緒にラグビーをやりたいと言ってくれているので、共にがんばりたい」
 思いがあふれ、目に涙を浮かべた。

 国境を超えラグビーで結ばれた絆が、どんなチームプレーを作り上げるのか。DANDELIONの成長に期待が高まる。

 そして、最後までくらいつきながら、本大会への出場権獲得はプレーオフへと持ち越されたRIZE CHIBA。派手なプレーはないが、一人ひとりが自分の持ち場で、やるべき仕事をしっかりとこなした。
 今大会では『コミュニケーション』を心がけたといい、トークを重ねながらそれぞれの動きを確認し、よりスムーズな連係へとつなげた。

 その中で、ひときわ大きな声でアドバイスを送り続け、リーダーシップを発揮したのは、日本代表としての経験も豊富な今井友明だ。

「僕たちはまだ成長段階。スーパースターがいない分、個々の力を合わせて、4人でディフェンスをして4人でゴールまで進めるチームにしたい。僕自身の成長にもなるので、積極的に声がけをしながらメンバーにどんどん知識を下ろして、チーム全体の力になりたい」

 攻撃の起点となるインバウンド(※コートにボールをスローインするプレー)に苦しみながらも、コミュニケーションで糸口を探りながら状況を打開した。ターンオーバーを奪うと全員で喜び、あと一漕ぎの踏ん張りどころでは、仲間の背中を押す声がベンチから送られた。

「僕らのチームは一人ひとりがラグビーを楽しんで、みんながチームを盛り上げられる。負けていたとしても最後まで仲間を応援し、その中で経験して、格上にも勝てるようなチームになっていきたい」

 キャプテンの日向顕寛が、笑顔で語る。
 そうして、11月のプレーオフで日本選手権への切符を勝ち取り、本大会では積み重ねた経験を活かして勝利をつかむと誓った。

 福岡大会の結果により、日本選手権に出場する8チーム中4チームが決まった。10月28日と29日には沖縄大会(会場:沖縄市体育館)がおこなわれ、さらに2チームが決定する。
 沖縄でどんなドラマが待ち受けているのか、ティップオフまであと1カ月だ。

【第25回車いすラグビー日本選手権予選 福岡大会】試合結果
◆9月23日
Freedom ○44-40● RIZE CHIBA
Fukuoka DANDELION ○48-36● RIZE CHIBA
Fukuoka DANDELION ●40-56○ Freedom
RIZE CHIBA ●45-47○ Freedom

◆9月24日
Fukuoka DANDELION ○46-35 ● RIZE CHIBA
Fukuoka DANDELION ●44-47○ Freedom

「優しいチームメートに感謝している、何度も来たい」と語る兄のパク・スンチョル(左/Fukuoka DANDELION)、右は吉村潤二(RIZE CHIBA)


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