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【RWC2023】フランス代表WTBルイ・ビエル=ビアレは20歳の大学生。赤キャップのヤングマンを見よ

2023.09.25

ナミビア戦では2トライを奪い大勝に貢献した。(Getty Images)



 フランス代表は第3戦のナミビア戦で96-0というフランス代表史上最大得点を記録する勝利となった。

 この試合中、主将であり、フランスだけでなく、もはや世界のラグビー界のスーパースターとなっているSHアントワンヌ・デュポンが頬骨を骨折し大会継続が危ぶまれた。

 しかし、試合翌日にチタンのプレートを嵌め込む手術をおこなった。本人もSNSで「SHOW MUST GO ON(ショーは続く)。早くグループに合流したい」と発信、準々決勝での復帰を目指し時間との戦いを始めた。

 最近、アタックに積極性が見られないと批判されていたフランスだが、この試合では、WTBダミアン・プノーが3トライを挙げるなど、合計14トライを奪った。

 チームでプレーすることができず苦しみながらの勝利となったウルグアイ戦のあと、「選手たちのコミットメントと高い精度を取り戻すことが必要」と、ファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)がかつて『プレミアム』と格付けした主力選手を揃えた布陣で臨んだこの試合。1人だけ『プレミアム』に格付けされていない選手が出場していた。

 WTBルイ・ビエル=ビアレだ。
 ウルグアイ戦に出場し、20歳87日でワールドカップ初出場。2019年のロマン・ンタマックの20歳143日のフランス代表最年少記録を更新した。
 チームが苦戦する中、73分に初めて回ってきたボールでトライを決め、勝利を確かなものとした。

 またナミビア戦では、前半終了間際にデュポンのキックパスを受け取り1つ目のトライ。後半は自陣22メートルの左タッチライン側でボールを受け取り、練習で時速35キロを記録したトップスピードを発揮した。フィールドを斜めに横断し、2つ目のトライを決めた。

 試合が始まってすぐには、SOマチュー・ジャリベールからのキックパスをタッチラインギリギリのところでバランスをとりながらCTBジョナタン・ダンティーにパスをして、トライをアシストする場面もあった。
 25分には敵に絡まれながらも巧みに背中からパスを繋ぐなど、判断力とスキルレベルの高さも見せた。

 3か月前までは、U20の世界大会に出場する予定だったこのフランス代表の新星を現地メディアは『プチ・ルイ』と呼んだり、彼のイニシャルで『LBB』と呼んだりしている。

 LBBがラグビーを始めたのは5歳の時、父親がコーチをしているラグビースクールだった。すぐに夢中になり、寝る時もラグビーボールと一緒だったという。

 13歳で地元の最も大きなクラブであるグルノーブルに移った。
 頭角を現し始めたのはU18のカテゴリーに入ってからのこと。グルノーブルのS&Cプログラムのおかげでスピードが出せるようになった。
 スピードが出たことで自信がついた。自信がついたことで他のスキルもどんどん上達した。

 ちなみにグルノーブルといえば、イタリア代表のアンジュ・カプオッゾを育てたクラブで、さらに遡れば、元フランス代表WTBヴァンサン・クレールもグルノーブル出身だ。

 また先のU20の世界大会で最優秀選手に選ばれたNO.8マルコ・ガゾッティもグルノーブルで育った。
 コロナ禍で試合ができない期間、ともにフィジカルとスキルのトレーニングに徹底的に取り組んだ。

 その後LBBは、18歳でフランス代表U20に選ばれ、2021年のシックスネーションズで3試合に先発出場する。
 結局グルノーブルではプロチームでプレーすることのないまま、ボルドーへ移籍した。

 ボルドーでの1年目、トップ14は再開していたが、まだコロナの影響が残っていてプロの選手が試合に出られなくなりチャンスが巡ってきた。
 2022年1月8日、トップ14のブリーヴ戦にリザーブでプロチームの試合に初出場。翌週のチャンピオンズカップでは背番号15を着け、3トライ、1コンバージョンと17点をあげ、またトライアシストもするという大活躍だった。

 当時のボルドーのHCクリストフ・ユリオスは、「ルイは才能のある選手で、真面目に努力もするし、怖い物知らず。本当はまだ大切に育てたかったが、ケガ人とコロナの影響で仕方がなかった。観客からオベーションされるように途中で交代させたかったが、本人が聞かなかった」とこの試合の後で述べていた。

 このシーズンは8試合に出場し、その内6試合で先発出場。翌年の2022-2023シーズンは22試合に出場(内19試合先発)で1535分プレー。すっかりボルドーの主戦力となっている。

 スピードだけではなく優れたビジョンも持ち合わせ、ランのコースを読み、タイミングやスピードの緩急の付け方も上手い。そして何よりハングリーだ。

 また、『Wikipedia』を文字って『Rugbypedia』と周囲から呼ばれるほど、ラグビーの歴史や過去の試合、過去の選手、特にプレーや戦術に詳しい。コーチとも積極的に戦術の話もする。

 赤のヘッキャが目印だ。6歳の時に父親が、中古のカンタベリーの赤いヘッキャを買ってくれた。それ以来ずっとこのモデルを使ってきた。
 最近製造中止になって絶望していたところに、さらにトップ14の運営団体のLNRから知らせが届く。
 色を統一するために、白のジャージーを着るアウェーでは赤のヘッキャの着用をやめるように言われている。

「ボルドーのアウェージャージーは白で、赤のヘッキャだとテレビ映りが悪いと言うんだけど、そんなの不条理だ。このヘッキャには思い入れがあるのに」と不満を訴える。

 7月のW杯準備合宿に呼ばれ、「1年半前まではテレビで見ていた選手たちの中に自分が混じっているなんてとてもシュール。でもたくさん学ぶことがある。フランス代表でプレーすることは、ずっと夢だった。しかも自国開催のW杯なんて考えただけでもすごいこと。それぞれの試合が夢を見続けるチャンス」と言っていた。
 そのチャンスをしっかり掴んだ。

 大学では経営学を専攻している。この9月に予定されていた補講は12月に延期された。
 両親が厳しく、子どもの頃は成績が下がると『練習に行かせない』と言われていた。今は両立は難しいけど、時にはラグビーを離れて普通の大学生になって授業に出るのもいい気分転換になるし、現役引退後のキャリアの準備をすることも大切。少し時間がかかっても諦めずに大学も卒業する」と決めている。

 フランスの次の試合はイタリア戦。そしてノックアウトステージへと進む。
 同じポジションには、もう1人の赤のヘッキャのギャバン・ヴィリエールもいる。今後の試合でどちらが起用されるか、現地では議論が続く。
 確かなことは、『プチ・ルイ』は夢を生きているということだ。

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