試合前のナショナルアンセム。ジョージアの魂の叫びが聞こえてきた。
しかしボリュームの大きさなら、続いて歌ったポルトガルの方が上だった。選手、ファンの声から、この日にかける気持ちの強さが伝わってきた。
立ち上がりすぐに先制したのはジョージアだった。
キックオフリターンのキックを受けた赤いジャージーは、大きく球を動かして、最後は右に展開する。
FW、BKが一体となった攻撃を仕上げたのはWTBアカキ・タブツゼ。右サイドを駆け上がり、右中間にボールを置いた。
ポルトガルは直後のコンバージョンキックも決められ、16分と38分にはPGを追加された。
0-13。
大会前、ダークホースに名を挙げる人も多かったジョージアに少しずつスコアを離されてしまった。
今回が2003年大会以来6大会連続、6回目のW杯出場となるジョージアと、2007年大会以来2度目の大舞台出場のポルトガル。両チームのW杯での対戦は初めてだ。
過去18回の対戦がある両チームの戦績はジョージアの15勝。3度の引き分けはあるけれど、ポルトガルの勝利はまだない。
そんな過去にも、序盤の劣勢にも、この日のポルトガルの心は折れなかった。
点差は開かれても、一人ひとりのタックルと、BKの果敢なアタックは相手を慌てさせた。
何度か小競り合いもあった理由のひとつには、ポルトガルの選手たちに気迫がみなぎっていたこともある。
前半33分、積極的に攻め続けたポルトガルのアタックがようやく実った。ジョージアのキックを受けた後のアンストラクチャーから攻めた。
左サイドのラックから出たボールを右に展開。FWもパスをつなぎ、外へつなぐ。
WTBハファエリ・ストルチが一旦内側に切れ込んだ後、右コーナーに走ってインゴールに飛び込んだ。
5-13としてハーフタイムに入ったポルトガルのモメンタムは、後半も衰えなかった。
プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたSOジェロニーモ・ポルテーラは、FWが奮闘して獲得した球をどんどん散らした。
後半8分にはSHサミュエル・マルキがPGを決めて8-15に。その5分後にも3点追加で差を詰めた(11-13)。
この日、両チーム最多の17タックルを決めたLOジョゼ・マテイラが体を張り続け、強いコリジョンで活路を開こうとするジョージアの目論見を封じる。
FBヌーノ・ソウザはボールを手にするたびに仕掛け、相手に圧力をかけ続けた。
後半17分、右ラインアウトから攻めたポルトガルは、ピッチ中央でセンタークラッシュ。
その後、SOポルテーラがタテに仕掛けた動きに反応したWTBストルチがスペースに走り込んでオフロードパスを受け、トライラインまで走り切った。
SHマルキのコンバージョンキックも決まり、スコアはひっくり返って18-13。
ポルトガルファンの絶叫とボディーランゲージが最高潮に達した瞬間だった。
勝利に近づいても、守りに入ることのなかったポルトガルは、最後の数分まで勝利に近づいた。
後半78分、反則からPKで自陣深くに入り込まれ、ラインアウト後のモールを押し込まれたのは残り2分の頃。ジョージアの13人モールにトライを奪われて18-18とされる。
それでも強気は変わらず、リスタートのキックをチェイスし、敵陣でPKを得たときにはスタジアムの時計は80分を超えていた。
右中間から狙った、勝ち越しで決勝のPG(FBソウザ)は惜しくも左に外れて試合は引き分けに終わった。
しかしこの日、白シャツ×グリーンのパンツで堂々と戦い抜いたポルトガルには、大きな歓声がやまなかった。
観る者の琴線に触れるパフォーマンスだった。
チームを率いる元フランス代表WTB、パトリス・ラジスケHCは粘り強く守り続けた防御を高く評価し、「自分たちのスタイルを出せばトライを取れた。チームは試合ごとに成長している」と話した。
そしてこの日のパフォーマンスを通して、「ポルトガルで少年少女たちがラグビーをプレーする意欲につながればいい」と続けた。
ジョージアのレヴァン・マイサシヴィリHCは、前半にもっと得点できたはずと振り返り、後半途中から追う展開になったことを悔やんだ。
「そうなればミスも多くなる」
ポルトガルのハートの熱さを称えることも忘れなかった。