髪の毛を金に染めていた、ように映った。
「最初シルバーやったんですけどね。色が抜けて金になっただけなんですけど」
山中亮平が苦笑いを浮かべた。モナコの練習拠点でのことだ。
ワールドカップ・フランス大会の日本代表に、追加招集されたばかりだった。報道陣に応じたのは現地時間9月20日。合流2日目にして、チームにとってオフ明け後初の練習日だった。
8月15日発表の大会登録メンバーから漏れていたのを前提に、髪色に関する問答に応じていた。
「(ワールドカップのメンバーから)外れて次の日に家に帰って、そこでまず1回、染めたんですね。思い切って。で、あまりきれいにならなかったので、ちゃんとやろうと思って行きつけのところ(美容室か)へ。心機一転、とりあえず派手にしたいなと」
質問者のひとりから、この髪型を何と呼べばいいかと聞かれる。
「名付けてください」
返事が「狼」だったのを受け、「じゃあ、狼で」。本筋と全く異なると言える内容の問いにも朗らかに応じ、場を和ませた。
身長188センチ、体重98キロの35歳。左足のロングキックを長所に、現体制下で長らく正FBとして活躍した。
しかし、8月5日の国内最後の試合(フィジー代表戦/東京・秩父宮ラグビー場/●12-35)の際、フランス大会の登録メンバーから漏れた。
当確と見られた山中が選外となった理由は、概ねふたつに絞られよう。
ランナータイプの選手を複数、起用し、ボール保持率を高めたいというチームの方針。専門性の高い別なポジションの選手を多めに抱えたい台所事情……。
本人の述懐。
「ボールをより動かしていくラグビーをするのかなと。そこ(が理由)で外れた、というのは思いました。直接、言われたわけではないですけど。受け入れるしかないという感じでした。プレー自体が悪かったわけではなかったので、自分のなかでもポジティブに考えながら受け入れました」
もっとも、かねてフランス大会を「最後」のワールドカップと位置付けていた。思いが強かった。その夢舞台に立てなくなったことで、「ショックが大きかった」。家族に報告した際は、子どもたちの涙を見た。
元日本代表で早大の先輩である五郎丸歩氏と酒席をともにするなどし、なんとか前向きになれた。
8月中旬以降は日本代表のバックアップメンバーに名を連ね、9月はバーバリアンズへ加わることになっていた。
バーバリアンズとは、世界の有力選手をその都度、集めて試合をする歴史あるクラブだ。今回はイングランドで転戦した。
フランスで戦う日本代表本体にアクシデントがあった際は、バーバリアンズにいるバックアップメンバーが駆け付けることになっていた。本人の心境は。
「あまりそこ(追加招集)は意識せず、ラグビー選手として次の目標に向けて自分の成長のためにバーバリアンズでプレーした。そうすることが(有事への)準備にもなりますし」
現地時間17日のイングランド代表戦(スタッド・ド・ニース/●12-34)で、FBのセミシ・マシレワが負傷交代。山中に白羽の矢が立った。
「誰もけがなくワールドカップを終えるのが一番なので、そこ(仲間の離脱)がすごく残念」と複雑な心境を明かす。とはいえ家族にテレビ電話で報告し、喜んでもらえたのはよかった。
チームは目下、プールDを1勝1敗とする。2大会連続での決勝トーナメント行きへ負けられない試合をふたつ、残している。
「(日本代表に)来たからには、何かしらでしっかりと貢献したいなと思います。(最後に参加してから)1カ月半くらい空いているので、早くチームにコミットする。与えられたところで、役割を果たしたいです」
こう語る山中の周りでは、今回の追加招集を歓迎する機運が高まっている。31歳で迎えた前回の日本大会でワールドカップ初出場を果たした苦労人の足跡に、ファンや関係者が共感しているからか。本人「嬉しいです」と言う。
「こんなに応援してもらえていたんだ、と気づきました。たくさんSNSで声が届いているので、感謝の気持ちがあります」
過去にワールドカップが開かれた2011、15年時も、日本代表に名を連ねながら直前期のキャンプで落選。大会出場を逃していた。
19年の日本大会で初出場を決める前も、代表でプレーする際は他選手の故障に伴う追加招集の形が少なくなかった。
しかし、簡単には折れない。ネガティブな状況下で取るべき態度について、こう話したことがある。
「何でも、マイナスで終わりたくないですよね」
日本大会後のブームの只中、街中で求められてサインを書いたスマートフォンのケースがネット上で転売されたことがあった。
まもなく、それと同じ型のケースを大量購入。全てにサインを書き、SNS上でプレゼント抽選会をおこなった。
グラウンド内外のエピソードを含め込む形で、こう話した。
「逆境はいっぱいあった。それをポジティブに、おもしろく切り替えるという考え方は昔から持っていたかもしれないです」
満を持して迎えた2度目のワールドカップ。置かれた立場を楽しみ、結果を出す。