ラグビーリパブリック

16年ぶりのW杯熱狂、ポルトガルが強豪ウェールズ相手に健闘。なのに「不満」なのはなぜだ。

2023.09.17

後半23分、ラインアウトからのサインプレーを決めてトライを挙げたポルトガル(Photo: Getty Images)


 2007年に鮮やかな緑と赤のニューカラーが楕円球の世界を彩って以来、16年ぶりにポルトガル代表がラグビーワールドカップの舞台に戻ってきた。ニックネームは「オス・ロボス」。狼を意味する。彼らは情熱的だ。腹の底から国歌を歌い、涙を流す者もいる。フィールドでは、恐れることなく体をぶつけ、しぶとく食らいつく。勇敢な狼だ。

 9月16日、フランスのスタッド・ド・ニースで2023年ワールドカップの初戦を迎え、ウェールズ代表に挑んだ。ヨーロッパのトップグループ(シックスネーションズ)に属する伝統あるチームで、ワールドカップでは3度の4強入りを誇る強豪だ。ウェールズ代表は今大会、すでに1試合戦い難敵のフィジー代表を下し好発進していた。

 ラグビーの世界で「ティア2(中堅国グループ)」に分類されるポルトガルが、トップネーションズと戦う機会はめったにない。しかし過去に一度だけ、ウェールズと対戦したことがあった。1994年に地元リスボンで、翌年のワールドカップ出場を目指す予選で激突。11-102と大敗した。

 2007年にワールドカップ初出場を果たしたポルトガルだが、まだ一度も勝ったことがない。だから、今回もウェールズの楽勝と多くの人が予想したはずだ。トライ量産でボーナスポイント獲得はあたりまえ、大差がつくだろうと。ところが……。

 ポルトガルはウェールズを苦しめた。会場を沸かせたシーンが多かったのはポルトガルかもしれない。後半途中までは接戦だった。最終的には8-28で敗れたのだが、29年前の100点ゲームを振り返れば、この健闘は称賛に値する。

 ポルトガルは、ウェールズのウォーレン・ガットランド ヘッドコーチが「ミニ・フィジー」と表現するほどアタックにアグレッシブなチームだ。スピーディーにボールをつなぎ、果敢なカウンターでも会場を沸かせた。
 序盤から勢いがあったが、ショットチャンスを外して先制を逃し、前半8分にも攻め込みながら不用意なキックで相手にボールを渡して逆襲されたのは痛かった。
 何度も何度も果敢に攻めた。しかし、前週のフィジー戦でワールドカップレコードとなる1試合253タックルを記録していたウェールズのディフェンスは堅く、ポルトガルはなかなか得点できなかった。試合後の会見、パトリス・ラジスケ ヘッドコーチと12番をつけたトマーズ・アプレトン主将に笑顔はなく、「フラストレーションを感じている」と口にしたのはこのためだ。キャプテンは、冷静でなければならなかったのに、感情に任せてしまって間違った判断をしてしまったことも何度かあったと反省する。そして、こう述べた。

「私たちはこの試合に本当に勝ちたかった。そのために一生懸命努力してきました。しかし、しっかりしたスクラムを組めなかったし、バックスもミスがあった。そんなことでは、このレベルでは通用しない。我々が得意とする速いラグビーを完全に示すことができなかった。私たちはただ出場して存在感を見せるためだけにここにいるのではありません。競って、勝つためにここにいるんです」

ゴールに迫るウェールズのジョニー・ウィリアムズを懸命の守りで止めたポルトガル(Photo: Getty Images)

 しかし、彼らは思うようなアタックはできなかったかもしれないが、粘り強いディフェンスを最後まで続けた。
 FLニコラス・マルチンズは両チーム通じて最多となる18回のタックル(成功率90%)をし、ラインアウトスチールでもチームを救った。2位・16タックルのLOスティーヴィ・セルケイラはブレイクダウンでも奮闘。ポルトガルのターンオーバー成功7回はウェールズを上回った。
 楽勝と見られていたウェールズがボーナスポイント獲得となる4トライ目を挙げたのは試合終了間際だった。

 プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたウェールズのFLジャック・モーガン共同主将は、「ポルトガルを全面的に称賛しなければなりません。今日の彼らは素晴らしかったと思います。彼らは強いフィジカルで何度も我々に挑んできた」と振り返る。

 ポルトガルのスコッドの約半分はアマチュアだという。自身は学位を取得したばかりの歯科医である30歳のアプレトン主将は、「肉屋やパン屋、燭台職人が代表チームの選手だった」と少し昔を振り返る。ワールドカップの準備のために無給で3カ月間仕事を休まなければならなかった者もいる。しかし、彼らは母国の代表として誇らしく、ワールドカップの大舞台でプレーしている。「ワールドカップに出場するだけでも苦労しましたが、いまは自分たちのできることを示したいんです。世界を驚かせたいと思っています」。そしてこうも言った。「アマチュアだってフィジカルで対抗できます」。その強い気持ちがウェールズ戦の奮闘だった。

速いラグビーを見せたポルトガル。その中心となったトマーズ・アプレトン主将(Photo: Getty Images)

 6歳でラグビーを始め、15歳の時にポルトガルのワールドカップ初出場を見て興奮したというアプレトン主将は、当時の代表選手がラグビー少年だった彼らにとっての最大のアイドルだったように、ポルトガルのラグビーを成長させるために、未来の新しいスターを誕生させるために、このワールドカップにかける思いは強い。若い人たちの心も打つラグビーを見せたい。

 実は、ポルトガルラグビー界の育成は着実に実を結んでいる。20歳以下代表によるセカンドグループの国際大会、ワールドラグビーU20トロフィーでは2回準優勝しており、2019年大会では福井翔大や長田智希らを擁したU20日本代表と決勝で34-35の接戦を繰り広げた。今回のウェールズ戦で10番をつけたジェローニモ・ポルテーラ、同じく22歳のLOマルチン・ベーロ、先発WTBホドリゴ・マルタら6人はそのときのメンバーだ。
 若手も、大舞台で躍動している。

 ラグビーワールドカップ2023は始まったばかりだ。
 初出場のチリは日本を相手に健闘、ウルグアイも優勝候補の開催国フランスと競り、ポルトガルも魂を見せた。人々の記憶に残るような好勝負が続いている。番狂わせも、起きるかもしれない。

 ポルトガルはワールドカップ初勝利を目指し、このあと、ジョージア、オーストラリア、そしてフィジーに挑む。

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